47:正義は勝つ!
「こちらこそつい楽しくて話し込んでしまいました。またお話できると嬉しいです!」
気分が盛り上がっていたので、素直な気持ちを口にしていた。私の言葉を聞いたコルディア公爵はその星空のような瞳を嬉しそうに輝かせる。
「ええ、ぜひそうしましょう。それとは別に、バロン・ヤン・ヘルトケヴの公演が来月ありますよね? 聴きに行く予定ですか?」
「あ……! そうですよね。行きたいと思っていました。ですが我が家は人数も多いので、チケットを押さえることができず……」
世界的に有名な指揮者であるヘルトケヴの公演。五日間に渡る公演のチケットは、あっという間に完売してしまった。伝手を頼れば手に入るかもしれないが、プラチナチケットなのだ。家族四人だと、とんでもない値段になる。
「そうですか。ボックス席を押さえているので、よければ一緒に行きませんか?」
(ボックス席!? さすが公爵家! ボックス席を押さえているなんて……!)
つい「行きます!」と言いたくなるが、ティータイムのお誘いレベルではない提案。これは気持ちを落ち着かせ、確認しなければならない。
「それは……」
「ご家族も一緒に」
これには嬉しいのとヴィオレットも一緒なのかという複雑な気持ちになってしまう。ただあれだけアマリアとヴィオレットから、コルディア公爵と会う約束を取り付けられるようにと言われていたが、それは奇しくも果たすことができる。
「家族も一緒に……! それは大変嬉しい提案です。屋敷へ戻り、家族に話してみます」
「ええ、ぜひそうしてください」
そう言った後、コルディア公爵はドキッとするような言葉を口にする。
「本当は君だけを招待したかったです。ですがマルティウス伯爵夫人と妹君は、自分たちが招待されないと、気分を害するでしょう。というか今回、君だけをティータイムに誘ったのです。次は自分たちも招待するように頼め……と言われていたのではないですか?」
「! そ、それは……!」
「やはりそうなのですね。もう一度君をティータイムに誘いますが、それは君と話しをしたいからです。そこにお二人を同席させたくはありません。よってヘルトケヴの公演に招待します。それでお二人を納得させるのがいいのでは……そう勝手に思いました。後で手紙も送ります……あ、もしマルティウス伯爵が帰国していたら、ぜひ伯爵にも公演に足を運んでくださるよう、お伝えください」
これには驚き、でも話したいのは私であると言ってもらえることに嬉しくなってしまう。ヴィオレットの下心は、残念ながらコルディア公爵にはバレバレだった。
付随して、ヴィオレットを推そうとしているアマリアの意図にも、彼は既に気付いている。二人がどうあがいても、コルディア公爵はそのやり方を気に食わないと思っているのだ。
そこは何だか正義は勝つ!みたいな気分になり、私は嬉しくなってしまう。「分かりました! ありがとうございます!」と元気よく答えていた。
その返事を聞き、いよいよティータイムはお開きとなり、席を立つことになった。コルディア公爵は、行きと同じように私をエスコートしながら、真剣な表情になる。
(どうしたのかしら?)
「マルティウス伯爵が不在で、伯爵邸にマルティウス伯爵夫人と義理の妹しかいない状況。それは……少し心配です」
「!? それは男手が屋敷にないことで、火事でも起きた時、心配だ……ということですか?」
これを聞いたコルディア公爵は、声を出して笑っていた。これには大いに焦る。
「あ、あの、そんなに変なことを言いましたか……?」
「そうですね。火事の心配はしていません。心配していないわけではないですが、ちゃんと男性使用人も多数いるはず。そこは対処できるかと。王都消防隊もいますから。私が心配しているのは、血のつながった家族が一人もいない状況で、継母と義理の妹しかいないことを心配していたのです」
「えっと、それは……」
その意図が分からず、首を傾げると、彼は声のトーンを低くする。
「マルティウス伯爵夫人が、実子と君を分け隔てなく愛情を注いでいるなら、何の心配もありません。ですがそうではないなのなら……。君が何か不便を感じたり、辛い気持ちになったりしないか。そこを心配しています」
これには「ああ」と納得することになる。
既にコルディア公爵の中では、アマリアとヴィオレットのイメージは、最悪なものになっているのだろう。公爵の身分に目をつけ、取り入ろうとするところを、彼は強く嫌悪している。
でもこれは誰だったそう思うだろう。金目当てに近づいてくる相手を信用できないと感じるのは、当然の反応。その気持ちは分かるし、時々私自身、アマリアとヴィオレットに行き過ぎなところも感じている。それでも家族なのだから……。
「ご心配いただき、ありがとうございます。コルディア公爵の気遣い、とても嬉しいです。ですが来月には父親も戻ります。アマリアとヴィオレットはどこか一心不乱になり、周囲が見えなくなることもあるかもしれませんが……。大丈夫だと思います」
「……君は……きっとこれまでマルティウス伯爵に守られ、人の悪意にさらされる機会がほとんどなかったのでしょう。それは幸せなことであり、心配にもなります。もしも何かあったらわたしに連絡をください。君からのSOSであれば、どんな時であれ、必ず対処しますから」
「そ、そんな! そんな多大な気遣いをしていただくわけには」
思わず焦る私に、コルディア公爵は、そのアイスブルーの髪をサラリと揺らし、微笑む。
「……君は心がとても清らかです。そして優しい。君が今のままでいられるように。そっと見守ります」
この言葉が何だか甘い言葉に聞こえてしまい、私は自分の頬が熱くなっていると感じてしまう。だがエントランスホールが見え、そこにはいつもの無表情のシャロンがいるので、私の背筋は自然と伸びた。そしてコルディア公爵には「ありがとうございます」と伝え、表情も引き締める。
「マルティウス伯爵令嬢は、父君の貿易業に興味をお持ちのようですが、コーヒー、スパイス、砂糖。そのどれに一番強い関心があるのですか?」
さっきまでの寛いだ雰囲気から一転。キリッとしたコルディア公爵が私に尋ねた。
お読みいただき、ありがとうございます!






















































