45:母親の愛情
父親の再婚相手であるアマリアとヴィオレットのこと。その素性を私はコルディア公爵の指摘通り、よく把握していなかった。
そもそもここは私が読んでいたスマホの小説の世界である。その物語の中で、アマリアは継母で、ヴィオレットは義理の妹。その設定が当たり前であり、アマリアの出自なんて全く気にしていなかったと思う。
「……はい。偶然、オリエンタル料理のお店で知り合い、そこから交流が始まり……。ヴィオレットは蝶の標本が趣味で、父親と意気投合しました。お母様は私に女親がいないことを気にして、母親代わりで相談に乗ると、父親に話したようで……。そんな親切な彼女に心惹かれたのだと思います」
「なるほど。蝶の標本が趣味。ああ、だから昨晩、ヴィオレット嬢は蝶のブローチをつけていたのですね」
それは私の……!と言いたくなるが、そこは我慢する。なんだか子供っぽいと思ったからだ。
それにヴィオレットの手に渡ったら、もう戻って来ないだろう。
「あの蝶は……アメシストだったのかな」
「そうですね。お母様がプレゼントしたものです」
コルディア公爵は薔薇の花びらの砂糖菓子を摘み、それを口元に運ぶ前に尋ねる。
「アマリアは……マルティウス伯爵夫人も、蝶がお好きなのですか?」
「さあ、それはどうでしょうか。蝶が好きというより、アメシストの方が好きなのかもしれません。お母様はドレスも宝飾品も、デザインより質を重視されている気がします」
「なるほど。宝石の方に興味があるのに、ちゃんと娘の興味のある蝶のブローチを用意した。母性本能はある方なんですね」
この言葉を聞いた瞬間。あの蝶のブローチが本当は私のために用意されたプレゼントではない可能性に気付いてしまった。心臓が不安気に鼓動している。
いや……でも。ずっと私が認めていないだけだった気がする。
アマリアの一番は実子のヴィオレット。
すべての優先はヴィオレットだ。
しかしそれは仕方ないのこと。血のつながった我が子が可愛いと思うことを責めるなんてできない。ヴィオレットもいるのに、私に気を掛けてくれただけでも感謝しないといけないのに。
「……ですか?」
「あ、ごめんなさい、コルディア公爵! 今、ぼーっとしてしまい、お話を聞き逃してしまいました」
私の言葉にコルディア公爵は穏やかに微笑む。
「母親の愛情を求める気持ち。わたしも理解できます」
「!」
多分コルディア公爵は、こう思ったのではないか。実の娘のために用意したブローチ。ヴィオレットはそのブローチを贈られ、私はそんな贈り物をもらっていないのではないかと。私がしてしまった寂し気な表情から、気持ちを汲んでくれた。共に母親の愛情と接することなく成長し、どこかその愛を求めている。
(そこは同じであると、言ってくれているのではないかしら⁉︎)
「わたしの場合、母上は出産で亡くなっています。よって一度も母親の愛情というものに触れたことはないんです。そのため今もわたしには、母親の愛情は神秘です。ただ、乳母の話を聞いて、わたしなり理解しました」
(ああ、やはりそうだわ。コルディア公爵は……なんて優しいのかしら)
「公爵が考える母親の愛情とは何ですか?」
お読みいただき、ありがとうございます!






















































