44:え、そうなのですか!?
コルディア公爵が視線をメイドに送ると、ティーポットを手にしたメイドが二人、すぐにやって来てくれる。ティーカップに注がれたのはローズティーで、スイーツとは違う、芳醇なローズの香りが漂う。
「おすすめは蜂蜜もいいのですが、ローズジャムを入れて飲んでも美味しいですよ」
これには「ではローズジャムを入れてみます!」と応じ、ティータイムが始まった。
「あっ、ローズジャムにより、香りがさらに深みを増し、酸味が和らぎ、私の大好きな味になりました……!」
「それは良かったです。今日はローズ尽くしですが、マルティウス伯爵令嬢も、アンティークローズ色のドレスで来てくださりました。まさにこの場にピッタリです」
コルディア公爵の言葉に、忘れていたドレスの地味さ加減を思い出してしまう。
(ここはもう笑い話にするしかないわね!)
「このような場への招待に慣れておらず……少し地味で垢抜けないドレスですよね」
笑ってくださいとばかりに肩をすくめてそう伝えると、コルディア公爵はティーカップを口元へ運んでいたが、その手を止めて答える。
「垢抜けない……そんなことはないと思います。落ち着いたドレスであり……わたしも安心できます」
この言葉には「?」と首を傾げると、コルディア公爵はこんなことを言う。
「わたしに近づく令嬢は、ドレスが派手過ぎで、イブニングドレスであれば、露出が多すぎて……目のやり場に困りますし、あからさま過ぎます。ですから今日のマルティウス伯爵令嬢の気負いがない装いには、心から安心しています」
これを聞いた私は「そうだったのね……!」と強く感動することになる。このドレスを着て行くことになった時は、アマリアに恨み節だったけれど……。
(むしろこのドレスが正解だったわ!)
「……昨日、声を掛けてきたのは、マルティウス伯爵令嬢の義理の妹さん、ですよね?」
本当は遠縁の親族のはずだったが、「お義姉様!」とヴィオレットはハッキリ口にしている。ここは正直に話すしかないだろう。
「あ、はい。そうです。本来、デビュタントに妹が来るのはおかしな話なのですが……来年、妹もデビュタントで……。好奇心もあり、そして姉である私の晴れ舞台を見たいと、ついて行きたいとなりました……」
「なるほど。どうやらかなり押しの強いご令嬢のようですね」
コルディア公爵が苦笑するが、それには「とても積極性のある子なんです……」と言うしかない。
「優しいのですね。妹君を庇っていらっしゃる」
「そういうわけでは……」
「姉である君を前に、こんなことを言う失礼をお許しください。彼女は……君と違い、少し……あからさまで……。彼女の目を見るだけで……わたしは無理だと感じてしまい、つい、あの場から立ち去ることになってしまいました」
前世風に言うならヴィオレットは、まさに「やっちまったな~」であるが、そんなことは言えないので、すぐにお詫びの言葉を口にする。
「あ……それは……その、妹のせいで申し訳ないです。……あの子は昔から母親に、貴族令嬢の幸せは、素敵な相手との結婚と叩き込まれているようで……」
「君が悪いわけではないです。君からの謝罪は不要ですよ。確かに結婚相手の身分を貴族は気にして当然です。ですがあのように分かりやすく顔に出すのは……再婚相手の連れ子さんですよね?」
「そうですね」
コルディア公爵はローズティーを口に運び、一口飲むと、こんなことを話しだした。
「再婚相手……マルティウス伯爵夫人。……再婚される前は、ピート子爵夫人、その前はアマリア・ダン男爵令嬢。そしてその前は……彼女は孤児院にいた。ファミリーネームはなく、アマリアとだけ呼ばれていた」
「え、そうなのですか!?」
「申し訳ない。わたしにいろいろな意図をもって近づく人が多いので、こんな風に会う相手の素性は、きっちり調べることにしているんです。あなた自身はマルティウス伯爵の実の娘であり、身元は判明しています。ですがマルティウス伯爵が再婚された相手は……アマリアは養女として、ダン男爵家に入ったそうです。なんでも亡くなった男爵家の令嬢にそっくりだったため、大抜擢された。孤児の身でありながら、貴族の一員になれたことで、地元では有名だったようですよ」
貴族の結婚で身元調査は、当たり前のように行われていた。父親も一通りは調べているはず。
ただ、アマリアとは再婚となる。子爵夫人だったのだ。つまり子爵との結婚の際に、身元調査を行い、問題がないから結婚できている。ゆえに今回の再婚にあたり、厳密な身元調査をしたのかというと……形式的な部分が大きかったように思える。
まさか孤児院出身だったとは驚きであるが、養女となったならば、過去のこと。そう、前世感覚では思ってしまう。ただこの世界は前世とは違い、貴族は家柄や血統を重視する。孤児院出身であることが明るみに出ると、破談することもあった。
父親は伝統を大切にすると思うが、アマリアとは恋愛による再婚だと思うので、例え彼女の出自を知ったとしても、別れることはなかった……と思うのだ。というか、父親はその出自を実は知っているのか、知らないのか。そこは少し気になるところである。
「孤児院の出世頭と揶揄されることが嫌だったようで、アマリアは王都の寄宿学校に入学し、そしてピート子爵と知り合い、結婚されたようですね」
「そう……だったのですね」
父親の再婚相手である、アマリアの身元の件。これを父親と話したことはなかった。そこは家族とはいえ、私からとやかくは言いにくい。それに私の意見が必要なら、父親は話題に出したはず。それは特になかった。
「どうやらあまり継母のことは知らないようですね。彼女の娘であるヴィオレット嬢のことも」
お読みいただき、ありがとうございます!
次話はブックマーク登録してぜひお待ちくださいませ☆彡






















































