40:私との出会いの物語
その後はトムだけがしばらく饒舌に話し、それでも次第にヴィオレットもいつものペースを取り戻し、アマリアも話し出し、朝食は終了した。
朝食を終えた私はすぐに自室へ戻り、手紙を書き始めた。ところがしばらくすると、扉がノックされる。
(どうしたのかしら?)
「ティナお嬢様、コルディア公爵から手紙が届きました!」
やってきたのはヘッドバトラーで、驚きの情報がもたらされることになった。
「すぐにお部屋へ来るようにと、奥様が」
これにはすぐに頷き、私も席を立つ。
(まさか先にコルディア公爵から手紙が来るなんて!)
アマリアの部屋へ急いで向かうと、既にそこにはヴィオレットもいた。二人とも渋い表情をしている。ヴィオレットは口のへの字にして、今に泣きそうだ。
何事かと部屋に入り、アマリアが座るソファに近づくと、ローテーブルが目に入った。そこにはティーカップなどが置かれているが、ペーパーナイフと封筒、そして便箋が見えている。
これは私が来るより先に、アマリアはコルディア公爵からの手紙を開封したということ。
ヴィオレットがアマリアの対面ではなく、隣に座っていたのは、その手紙を一緒に見るためだったのだと理解することになる。
理解はできた。
(でもなぜ渋い表情をしているの?)
という疑問が残る。
「ティナ。何を突っ立っているの。ソファに座りなさい」
「失礼しました、お母様」
そこで私がソファに座ると、アマリアが苦々しい表情で話し出す。
「コルディア公爵からの手紙。ティナ、あなた後日御礼を直接言いたいと、彼に伝えていたの?」
「あ……そうだったかもしれません。迷子になって焦っていたので、何を話したのかうろ覚えなんです。でも直接御礼を言わせてください……というのは当たり前のように口にするフレーズです。無意識でそう言っていたのかもしれません」
「あなたその時に、家族でご挨拶に伺いますと言わなかったのね。だからコルディア公爵は、ティナだけの訪問を許す手紙を送って来たわ」
そう言ってアマリアがため息をつき、便箋を私の方へと差し出す。それを私は慌てて受け取り、文面を確認する。
「!」
手紙を手元へ持って行くと、とてもいい香りがしている。それは昨晩、彼と距離が近くなった時に感じたのと同じ香りだ。さらに便箋に書かれている文字はとても美しい。
つい本文を読む前に、他のことに気をとられてしまうが。
『ティナ・ラニア・マルティウス伯爵令嬢
昨晩は名乗ることなく、あの場を去ってしまい、大変申し訳ないことをしました。
実は別室で待たせている人がいたのです。
そして昨晩、お互いに名乗らずに別れましたが、この手紙を書けた理由。
それはそもそもわたしが君に最初声をかけることになったのは、ハンカチにありました。君はハンカチを落としていたのです。どうしてこんな場所にハンカチが?と思い、それをわたしが拾い、そして君を見つけました。
見つけた瞬間の君は、もう泣きそうな顔でわたしに琥珀の間の場所を尋ねたので……。
ハンカチを渡すより前に、まずは琥珀の間に連れて行こうと歩き出していました。
結局、ハンカチを渡しそびれ、それはわたしの手元にあります。
手紙と一緒に返すことも考えましたが、君は後日この件の御礼を直接言いたい……つまり屋敷を訪問し、挨拶をしたいと言っていました。そのことを思い出し、こうやってハンカチもわたしの手元にあるのです。これも何かの縁なのでしょう。わたしは普段、仕事で必要な相手以外と会わないのですが……。
君の訪問を歓迎します。もし明日のティータイムに都合がつくようなら、公爵邸自慢のローズガーデンを見に来てください。
アレス・ウル・コルディア公爵』
この手紙には「なるほど」と唸りそうになった。自身が送る手紙は当然、私の両親が見ると分かっている。そこでいろいろと不自然にならないように、彼の中で私との出会いの物語を作ってくれていた。その上で、違和感なく私が訪問できるようにしてくれていたのだ。
何より彼自身、あまり訪問者を好まない。だが私と会うことを決めた理由も自然に書かれていたのだ。普段の彼のイメージと逸脱しない書きっぷりに、もうまさに脱帽だった。
「明日。絶対に会いに行きなさい、ティア。そして何としても私とヴィオレットが公爵と会えるように、約束を取り付けるのよ」
これには「そんな……」と思うが、妙齢の令嬢を持つ母親なら、同じことを要求するだろう。ここはもう仕方ない。「分かりました。努力します」と答えることになる。
「お義姉様は私を応援してくれるでしょう? 私もコルディア公爵と仲良くなりたいわ。お義姉様だけコルディア公爵と仲がいいなんて……。私、寂しいです!」
ヴィオレットの瞳はいつも通り。コルディア公爵を自分のものにしたいと訴えている。
ため息をつきたくなるが、ここも我慢して「分かったわ、ヴィオレット。あなたがコルディア公爵と会えるよう、頑張るわ」とひとまず応じた。
そこで扉がノックされ、ヘッドバトラーが「トム様の出発の準備が整いました。既に馬車へのトランクの積み込みは完了しています。お見送りをされますか」と尋ねる。これには「「「勿論!」」」となり、部屋を出ることになった。
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