4:気になる犯人
朝食は本当に美味しかった!
頭はカツ丼食べたい!だったが……。
用意されていたハーブ入りのソーセージ、カリカリベーコン、オムレツ、ハムとチーズの盛り合わせ、ローストビーフ、スクランブルエッグ、コンソメスープなど、まるでホテルのブッフェのよう!
焼き立てパンと紅茶も出され、それらの料理を食べると、美味しくて満腹になり、幸せを感じる。
カツ丼のことは吹き飛び、ご機嫌で部屋に戻り、父親との外出の支度を行う。ドレスに合うつば広の羽根飾りのついた白の帽子や、白のレースの手袋などを着用し、エントランスへ向かった。
「よし。ティナ、出掛けよう!」
私のことを嬉々としてエスコートする父親は本当に若々しい。何より健康そのものに見えた。それなのに一年後。父親は毒殺され、若すぎる人生に幕を下ろすことになる。
それが私の知るこの物語の世界だったが、とてもそんな未来が待ち受けているとは思えない。
「おっ。ティナ。見てご覧。ツバメが飛んでいるぞ」
馬車が走り出すと、父親が窓から外を見上げる。
つられてツバメの姿を見る私は複雑な心境。
ツバメは幸運を運ぶはずだった。しかし『悪女は絶対に許さない』では、処刑シーンの冒頭に登場するも、ティナに幸せを授けることはない。
「マルティウス伯爵家の紋章に描かれているのはツバメだろう。なぜツバメなのか、ティナに話したかな?」
私が忘れているだけかもしれないが、今の言葉を聞いて「あ、そういえば」と思い出す記憶はない。そこで「聞いたことはないと思います」と伝えることになる。
「実は我がマルティウス伯爵家の屋敷には、毎年ツバメが巣を作るんだ。その場所は年によって変わるが、当主だけがその場所を知ることが出来る。不思議と当主だけが巣の場所に気付けるんだよ。でもどこにあるかはみんなには秘密だ。そっとしておき、旅立つまで見守るのさ。そうやって毎年ちゃんと見守ると、マルティウス伯爵家には幸運がもたらされる」
「そうなんですね。だから紋章にツバメが?」
「そうだよ、ティナ」
(そんな幸運の象徴なのに。処刑の前にティナの前に現れたツバメは……彼女を助けることはなかったのね)
「ティナの未来の旦那様もきっとティナと結婚し、あの屋敷に住むようになったら、ツバメの巣を見つけられるようになるだろう」
未来の旦那様……。
前世はオーバーサーティーだったが、結婚の予定もなかった。恋人がいたかどうかってそれは……いればしていただろう。そしてまだ十五歳なのに未来の旦那様の話題が出ることに驚いたが、父親はこう続ける。
「来年はティナも社交界デビューになる。婚約者探しも本格的にしないといけないな。それを踏まえると、デビュタントはとても重要な場となる。同い年の令息も多く参加するが、未婚の王都内の令息もデビュタントには沢山集まるからね。ティナには幸せになって欲しい。だから今日、オーダーするドレス。それはティナにとって大切なものになる」
貴族令嬢にとって結婚は、その後の人生を決める最大のイベントである。これは前世でも一般的な知識として知っていた。それはこの世界でも同じようだ。ただ違う点もある。前世では娘を父親が可愛がり、嫁に出すことを惜しむと言う。しかしこの世界ではそうではないはず。
そもそも王侯貴族の令嬢の結婚は、個人同士でするものではなく、家門同士で行うようなもの。家同士の結びつきを強める意味合いが強いため、王侯貴族の結婚、すなわち政略結婚になりがち。そこに「可愛い娘を嫁にやりたくない」という発想は入りにくいようだ。
ではティナの父親は政略結婚を目論んでいるかと言うと……。それも違うように思えた。父親は純粋に娘の幸せを願っている。そう思えたのだ。
前世で読んだのは冒頭のみで、ティナの父親の描写はなかった。さらに表紙に小さく描かれた人物の一人が、実際に会うことで、父親だったのかと分かったぐらいだ。だがこうして接してみると……。ハンサムで優しい、とっても素敵な父親である。
(こんな父親を毒殺するなんて。絶対にするはずがない!)
では一体、犯人は何者なのか。
そこで冒頭の物語を思い出す。
不穏な空気を漂わせていた人物がいる。とても身なりのいい美しい青年だが、紺碧色の美しい瞳には憎悪が宿っていた――そう描写されている。
(まさかこの青年が毒殺犯なのかしら……?)
「よし。ティナ着いたぞ」
「!」
デビュタントのためのドレスを注文するお店トワール・エレガントに到着した。
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
朝に合わせて朝食の話を更新出来て嬉しいです♪
次話は12時半頃公開予定です~
ただランチMTGが入るかもしれないので
時間が前後したらごめんなさい!