33:デビューダンス
私をエスコートし、リチャードはダンスフロアへ移動した。
「実は、僕、これが初めてのダンスなんです」
「えっ、そうなんですか!?」
「妹が今日、デビュタントで。男性は女性の皆さんより社交界デビューが遅いですからね。便乗して今日、妹に付き添い、ダンスもデビューさせて頂くことにしました」
これにはびっくりだが、いざダンスが始まると、このリチャードはダンスがかなり上手い。相当練習して臨んだのだろうと思えてしまう。
「ありがとうございました! 君とのダンスは踊りやすかったです。本当はもう一曲ダンスしたいぐらいです」
「こちらこそありがとうございます。あなたのリードも素晴らしかったです」
リチャードは「今度お茶でもしましょう」と私に告げ、一礼すると別の令嬢に声を掛ける。すると私の前に別の令息が現れて……。
デビュタントではダンスを沢山することが目的の一つ。私も頑張ってダンスをしたが……。
いろいろと緊張もするし、初めての場なのだ。三曲連続で踊った後に設けられた十五分の休憩時間で、休もうとしたが。
「お義姉様~、二番目に踊っていた令息、とってもハンサムでしたよね! どなたなんですか? 名前は!?」
「ティナ。二曲目と三曲目でダンスをした相手、爵位は? どちらの令息だったの?」
ホール中央からはけると、ヴィオレットとアマリアが待ち受け、詰め寄ってくる。これにはさすがに辟易しそうになってしまう。
(飲み物だって欲しかったし、休憩したいのに……)
「ヴィオレット。聞いたところ、あちらの休憩室に、宮廷付きのパティシエが用意したスイーツが到着したそうだ。早い者勝ちだ。食べたくないか?」
「! 食べたいですわ、トム叔父様!」
「アマリアもうどうだい? まだ娘が社交界デビュー前の知り合いのマダムに、宮廷付きのパティシエのスイーツの味を話せるのでは?」
マダムによる社交を兼ねたお茶会は、いわばマウント合戦の一面もある。いかに自分が優位であるか自慢したがる貴族は多い。
「それは……そうね。行きましょうかしら」
「あ、私は飲み物を飲みたいので、あちらの休憩室へ行きます!」
トムのナイスアシストにより、ヴィオレットとアマリアから解放された私は、急いで飲み物を提供している部屋へ向かう。すると――。
「お一ついかがですか? ストロベリーの果実水ですよ。ちゃんと冷えています」
部屋の手前で声を掛けられたので、てっきり給仕の男性かと思い「いただきます。ありがとうございます」と受け取ろうとして、相手がロバーツであると気が付く。
「ロバーツさん!」
「マルティウス伯爵令嬢、久しぶりだ! 元気そうで何より」
「今日は取材でいらしたのですか?」
「違う、違う。マルティウス伯爵令嬢の晴れ姿を見たかったからだ」
「!? それでデビュタントに入場できたのですか!?」
「俺に不可能はない」
ロバーツは冗談めかしてそう言うが、何となく「野暮なことを聞くなよ、ティナ」と言われている気がした。ゆえにそれ以上の追及はやめる。するとロバーツはテラスに出ることを提案した。
ロバーツといるところをヴィオレットとアマリアに見られたら、間違いなく何か言われる。ゆえにテラスへ出ることは大賛成で応じた。
「ティナ。アレス・ウル・コルディア公爵のこと、覚えているか?」
「! 覚えています。一応、今も彼の動きを注視していますが、多忙そうで、何かするとは思えないのですが」
「まさにその通り。今日も国王陛下と何やら新規事業について打ち合わせをして、そのままこのデビュタントにも顔を出している。どうやら国王陛下に顔を出すよう勧められたらしい」
これには「そうなんですね」だった。
「十八歳で婚約者なし。王家と事業を手掛けるぐらい有能だ。しかも容姿端麗ときている。デビュタントの当事者の令嬢だけではなく、一緒に参加しているマダムや令嬢からも引っ張りだこだ」
「若くて仕事もできて容姿も優れている。その上で公爵となれば、それは引く手あまたですよね」
「でも当の本人はその事態に困り切っている。国王陛下の顔を立てるため、三曲連続のダンスは踊った。しかしそれを終えると逃げ出した」
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