32:謁見
ズラリと整列しているが、それは序列順。まずは公爵家、続いて侯爵家、そして伯爵家となる。さらに伯爵家の中でも順位が決まっているので、列を整理している宮廷職員に声を掛け、並ぶべき場所へと案内してもらう。
こうして行列に並んで三十分ほどすると、「これより、国王陛下への謁見を始める」と侍従長が告げた。同時に公爵令嬢から名前を呼ばれ、謁見の間への移動が開始する。
一人当たりの持ち時間は短いだろうが、移動もあるので、謁見がスタートしてからも長い。そうなると緊張感も緩み、前後の令嬢と談笑することになるが……。
「ティナ・ラニア・マルティウス伯爵令嬢、謁見の間へ」
遂に名前を呼ばれ、琥珀の間を出て、謁見の間へ向かう。先導してくれる宮廷職員の後をついて歩き出すが、じわじわと緊張感が蘇る。
「こちらでお待ちください」と言われて、扉の前で待機となった。心臓の鼓動が速く、深呼吸を繰り返す。
「!」
別の扉が開き、挨拶を終えた令嬢が出てくる姿が見える。
いよいよだと思ったら再度名前を呼ばれ、扉がドアマンにより開けられた。
中に入るとまさにレッドカーペットが敷かれており、そこを進み、玉座の前へと出る。心臓が爆発しそうになりながら、まずはカーテシー。すると国王陛下から「You may rise.」と言われ、顔を上げることになった。
目が合うと国王陛下が頷き……これで完了!
挨拶をする令嬢は声を発しないし、国王陛下が「You may rise.」以外の言葉を掛けるのは余程のこと。通常はただ一言と頷くだけで終了であり、これは本当にトムの言う通り、あっという間だった。
緊張のピークは一瞬で、終わると完全に脱力することになる。そのまま入場とは別の扉から退出し、来た通路を戻り、琥珀の間へと戻って来た。
「お義姉様、どうでした!?」
「ティナ、ちゃんとできた?」
「どうやら無事に終わったようだな」
ヴィオレット、アマリア、トムに迎えられ、問題なく終えたことを報告。国王陛下から何かお言葉がなかったかアマリアに聞かれ「ありませんでした」と答えると、落胆されてしまう。だがヴィオレットは「お母様、大丈夫です! 来年、私が国王陛下からお言葉を掛けてもらうよう、頑張りますから!」と言っているが……。
公爵家の令嬢でもなければ、重鎮の令嬢でもない。そう声を掛けられるはずはないと思うが、アマリアは「そうね」と応じる。そして気を取り直したようで、ヴィオレットを連れ、高位貴族への挨拶を再開。会場には第二王子や第三王子、王族の親戚筋の貴族もいて、彼らは大勢に囲まれていたが、その輪に果敢に向かって行った。
その後ろ姿を見送ると、トムが声を掛けてくれる。
「ティナ。緊張で喉が渇いていないか? レモネードでも飲もうか?」
「そう言われると……口の中がカラカラです!」
「だろう? レモネードがある、いただこう!」
トムと一緒にレモネードをもらい、そこでは気軽な会話を楽しんだ。それはトムが舞踏会で初めて令嬢をダンスに誘った時の失敗談などの笑い話が多い。おかげで肩の力も抜けた。そうしているうちに気がつけば楽団が登場し、音楽が静かに流れ始める。
「そろそろ国王陛下への謁見も終わり、最初のダンスが始まるんじゃないか」
トムの言葉に、その通りだと思う。
控えめだった音楽が、その存在感を示すような大きさになった。明らかに音楽が流れていると、みんなが気付く。
だがそこで急にその音楽が止む。
すると会話の波がサーッと引いていく。
「His Majesty the King」
国王陛下の登場を示す声が聞こえ、女性はカーテシー、男性は一礼で国王陛下を迎える。
前世で言うなら「God Save the King」が流れる中、国王陛下が広間に設けられた玉座に向かう。着席した国王陛下が目配せをすると、侍従長が最初のダンスについて告げる。
「エリザベス・マリー・ウエスト公爵令嬢、並びに第二王子エドワード殿下、どうぞ最初のダンスにお進みください」
遂に最初のダンスが始まった。
公爵令嬢と第二王子、共に高位身分の二人のダンスは洗練されており、お見事の一言に尽きる。周囲ではこの二人が婚約するのでは?なんて囁きも聞こえた。
その最初のダンスが終わると、白のドレスに身を包む、これがデビューダンスとなる令嬢たちが踊る番になる。
そうなると分かっているので、会場にいる令息は、続々と白いドレスの令嬢に、ダンスのお誘いの声掛けをしていた。
その様子を見て、「私も声掛けして欲しい」と呟くヴィオレットには苦笑するしかない。でもそんなふうに笑っている場合ではなかった。パートナーが見つからないと、デビューダンスが出来ないのだから!
(声を掛けられなかったらどうしょう)
つい不安になるが……。
「初めまして。わたくし、モンテオール子爵家のリチャードと申します。よろしければ、あなたの最初のダンス、ご一緒いただけますか?」
「ありがとうございます。わたくし、マルティウス伯爵家のティナです。喜んでお受けいたします」
知らない令息だが、声を掛けてもらえたことに安堵する。いよいよデビューダンスだ!
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悪役令嬢による壮大なざまぁのはじまり、はじまり!
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