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悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
 

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29/104

29:デビュタント当日

 この日はもう朝から屋敷の中が騒然としている。デビュタントは夜からなのに、早朝から一世一代のセレモニー向けた準備が始まっていた。


 起きるなり、入浴となり、時間を掛けての準備が進む。この日ばかりは私を中心に周囲が動き、朝食の時間も私の支度の進み具合に合わせてもらうことになる。


 ドレスを着るのは午後になってだが、午前中はマッサージをしたり、香油を塗り込んだり、髪を念入りに洗って乾かしたりと、意外とやることが多い。ただ昼寝をとるなどの休息もしっかり行い、もう準備は万端だった。


 ちなみにドレスについた血は、見事にレースで隠されている。レースから透けて血の痕が見えるとか、レースがフワリと揺れたら痕が見えるとか、そんなこともない。これなら血がついていたと誰も分からないはず。


 ということでいろいろあったが、ドレスも大丈夫。


「ではティナお嬢様。そろそろドレスへの着替えでよろしいでしょうか?」


 無表情のシャロンに問われ「ええ、お願いします」と応じ、遂にドレスへと着替える。


 改めて真っ白なドレスを着るということは、前世の感覚もあり、なんだか花嫁になった気分になる。でもあくまでこれは社交界デビューを祝う儀式の一環で着るドレス。将来、ウェディングドレスはまた別で着られるのだ。


(そう考えると、何だか人生で二度嫁ぐ感じね)


 そんなことを思いながらも着替えは進み――。


「完了でございます」


 綺麗に髪を結い揚げ、白のロンググローブも着用し、デコルテを飾るのはパールのネックレス。耳元にも大粒のパールのイヤリングをつけている。身頃は繊細な刺繍とレースがあしらわれ、スカートにはたっぷりのチュール。これでベールをつければ、本当に花嫁に思えてしまう。


「お義姉様!」


 ノックなしで部屋に飛び込んできたヴィオレットにドキッとしたが、それ以上の驚きが私にもたらされる。


 それはまず、ヴィオレットの着ているドレスの色!


 デビュタントの主役はあくまでこの日、社交界デビューを飾る令嬢。同行する女性は、淡い色調の上品なドレスの着用が一般的だと聞いている。だがヴィオレットが着ているのはマゼンタ色。しかも光沢があるのでかなり目立つ。加えてしっかりお化粧したヴィオレットは、私より年下には見えない。身長こそ、今日は私がかなりヒールのあるパンプスを履いているので、同じぐらいだが、並んだら私の姉……若い母親に見られるぐらい大人っぽかった。


「わあ~、お義姉様、やっぱり綺麗だわー!」


 そう言って抱きつこうとするヴィオレットを止める。


「ヴィオレット、今日はお化粧をしているから、抱きつくのはダメよ。ドレスが白だから、ルージュやチークがつくと大変だわ」

「! あ、そうよね。お義姉様! ごめんなさい。あまりにもお義姉様がお綺麗だから!」

「ありがとう、ヴィオレット。お母様とトム叔父様は用意できたかしら?」


 するとヴィオレットは抱きつく代わりで私の腕に自身の腕を絡め、「できていると思うわ。だからリビングルームへ行きましょう! そこで集合でしょう、お義姉様!」と言うので「そうね」と応じて、歩き出したが……。


 もしヴィオレットがつまずくことがあれば、私にぶつかり、ドレスにお化粧がつくのではないか。とてもヒヤヒヤすることになった。


 リビングルームに到着し、ヴィオレットから解放された時は、大きく安堵の息を吐くことになったが。そこで待っていた黒のテールコート姿のトムが、大変ハンサムでビックリしてしまう。


 王道のテールコートを着ているのに、ポケットチーフは光沢のある白を選んでいたり、カフスも王道のシルバーなのだけど、デザインが凝っていたり。もし父親だったらこうはいかないと思う。


(トムはさすが独身貴族の色男ね!)


 一方のアマリアは、ヴィオレットと合わせているので、マゼンタ色ではあるが、こちらはくすんだ感じで落ち着きがあり、パッ見た印象に派手さはない。できればヴィオレットもアマリアぐらいの色味のドレスを着てくれたらいいのに……と思ったら!


「ヴィオレット! 君は実に大人っぽくて素敵だけど、そのドレスは少し派手過ぎる。君は美人だから、このドレスだと目立ち過ぎてしまう。そんな素敵なドレスはトム叔父さんと二人きりの時にしようか」


 トムがそう言ってウィンクすると、ヴィオレットは「!」となり、笑顔になる。


「トム叔父様、それなら私、ドレス、着替えるわ! どのドレスがいいか、一緒に選んでくださる?」

「勿論!」


 するとヴィオレットはソファから立ち上がったトムに腕を絡め、「トム叔父様、こっち!」と歩き出す。「ヴィオレット、あなたそんなに異性と接触してはダメよ。お父様ならいいけれど、トムはあくまで叔父さんなのだから」とアマリアが注意すると、ヴィオレットは「はーい」と返事をするものの。トムの腕から自分の腕を離すことはない。


 こうしてトム、ヴィオレット、アマリアは部屋から出て行き、残された私はソファに座る。メイドが出してくれた紅茶を飲み、ひとまずみんなが戻るのを待つことにした。


 待ちながらトムのナイスアシストには本当に感謝だった。ヴィオレットの性格を考えると、あんなふうに言われたら、着替えないわけがないと思うのだ。そこはもう女性の扱いに長けていると思う。


 私がそんなことを思っていると、ヘッドバトラーが部屋に来て、残っていたメイドたちを一旦部屋から退出させた。


 これには「?」と思ってしまうが、御年六十歳近いヘッドバトラーは「ティナお嬢様」と着ているテールコートの内ポケットから封筒を取り出す。


「実は旦那様から、デビュタント当日にお嬢様に渡すように言われていました。一通は旦那様からで、もう一通はお亡くなりになった奥様からのものです」

お読みいただき、ありがとうございます!

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