20:逆転大成功!
体罰があるのかと思っていたが、違う。
アマリアは私のことをぎゅっと抱きしめたのだ!
「よかったわ、ティナ。もしパウエル男爵と色恋沙汰になっていたら大変よ。あなたは由緒正しい伯爵家の令嬢なの。そしてあなたは長女なのよ。あなたは将来婿を取り、その相手がこのマルティウス伯爵家を継ぐの。だから相手はちゃんと選ばなきゃいけない。男爵なんて低い爵位の男はだめよ。せめて同じ伯爵家。頑張って侯爵を狙わないと」
慈しむようにアマリアは私の背を撫でてくれた。顔は彼女の胸に沈み、安らぎを覚えることになる。
「本来、こんなことを私が注意しなくても。有能な侍女がついていれば、問題にならなかったはずよ。丁度、私の知り合いの銀行家の令息が、花嫁探しをしていると聞いたの。ティナの侍女……ハンナというのよね。彼女にこの縁談話を紹介したら、ぜひにとなって、婚約することになったのよ」
これには驚き、顔をあげようとするが、アマリアがぎゅっと腕に力を込めたので、身動きがとれない。
「ハンナのご両親、父親は宮殿の警備兵で、母親は孤児院の職員。宮殿を警備するなんて立派なお仕事よね。孤児院の職員も素晴らしいわ。でも二人とも平民に過ぎない。でも銀行家の令息は、近いうちに男爵位を授かる可能性があるそうよ。だからハンナも彼女のご両親も。なんとしてもすぐに婚約したかったようね。彼女、さっき荷物をまとめ、実家に戻ったわ」
「え、そんな……!」
今朝もハンナに会っているが、そんな素振りは一切なかった。
毒殺犯探しをしている時にも協力してくれたし、ロバーツに会う時にもサポートしてくれた。
(幼い頃から仕えてくれる大切な侍女だったのに……! そんな、さよならの挨拶もなしで、辞めてしまうなんて……!)
「ティナ。悲しむ必要はないわ。私についていた侍女をあなたにつけてあげるから。シャロンはとっても有能な侍女だから、あなたを悪い虫から守ってくれるわ」
そこでアマリアが「シャロン、いらっしゃい」と声をあげ、私はようやくその胸から解放された。
「奥様。お呼びでしょうか」
濃紺のワンピース姿のシャロンは、明るいプラチナブロンドに色素の薄い白水色の瞳をしていた。なんというか前世で言うならロシア系美人みたいに見えるが、表情がなく、とても冷たい雰囲気をしていた。
「シャロン、あなた今日からティナの侍女として、仕えなさい」
「かしこまりました。ティナお嬢様、よろしくお願いいたします」
無表情ではあるが、礼儀正しくシャロンがお辞儀する。それを見ていた私は何とも言えない気持ちになるが……。
「ティナは優しい子よ。ハンナが幸せになろうとしているの、応援してあげるでしょう? 婚約なんてせず、自分に仕えて頂戴なんて、そんな意地悪、言わないわよね?」
そう言われてしまうと「はい、彼女には幸せになってもらいたいです」と答えるしかない。
「そうだわ、ティナ。お祝いを用意してあげるといいわ」
「! そうですね。そうします!」
「用意したお祝いは、シャロンに預けて。そうしたらお母様がちゃんとその侍女に届けてあげるから」
そう言ってアマリアは聖母のように微笑む。
「分かりました」
「ではダンスのレッスンに戻りなさい。……あ、そうそう」
そう言うとアマリアはシャロンに目配せをする。
シャロンは頷き、ポケットから小箱を取り出し、すぐにアマリアへ渡した。
何だろうと思ったら、アマリアが小箱を開けると、そこには紫色……つまりはアメシストで出来た蝶のブローチが収められている。土台はゴールドで、繊細な作りの美しいブローチだった。
「素直なティナへのご褒美よ。つけてあげるわ」
「お母様……!」
「良かったら毎日つけてね。といってもドレスの色によっては合わないかもしれないわ。だから無理はしなくていいのよ。でもつけてくれると、お母様は嬉しいわ」
「ありがとうございます、お母様!」
(やはりアマリアは優しい! そして私のことを実の娘のように、時に厳しく、でもちゃんと可愛がってくれる……!)
全ての憂いが晴れ、優しい継母と、美人な義理の妹にも恵まれた。お父様も忙しそうにしているが、それは事業が成功している証。
転生していると気付いた時は、死刑を思い、大変なことになったと思ったけれど……。
(どうやら私の異世界転生、逆転大成功だったようだ!)
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