18:おめでとう!
アマリアと父親の結婚式は大々的に行われることはない。
なぜなら二人とも再婚。
しかもこの世界ではかなり年齢のいった再婚となる。そこで二人は王都のこぢんまりとした教会で、証人として父親の弟である叔父のトム、ヘッドバトラーとメイド長を立ち会わせ、参列者は私とヴィオレットで行われることになった。
アマリアは白のローブ・モンタント、父親はネイビーのフロックコート。私とヴィオレットは水色のドレスを着ている。トムとヘッドバトラーはグレーのモーニング、メイド長は明るいグレーの礼服を着てその場に臨んだ。
「お母様、お父様、おめでとう!」
「お父様、お母様、お幸せに!」
こぢんまりではあったが、挙式が終わると私とヴィオレットでフラワーシャワー。トム、ヘッドバトラー、メイド長は拍手を送る。
そのまま屋敷へ戻ると、使用人のみんなが拍手で迎えてくれた。そしてダイニングルームには、二人の婚礼を祝う豪華な料理が並ぶ。そこにはウェディングケーキも登場し、二人でケーキを食べさせ合う。食事の後は、小ホールへ移動し、ティータイムまでちょっとしたダンスタイム。
その後は家族の肖像画を画家に描いてもらい、夕食はいつもより豪華なディナーでお祝いをして、その日は終了となった。
「ねえ、お義姉様。今日はお義姉様と一緒のベッドで休みたいわ!」
「勿論よ。ヴィオレットの部屋に私が行く?」
「ありがとうございます、お義姉様、嬉しいわ! 私がお義姉様の部屋へ行きます!」
アマリアとヴィオレットは結婚式の前日に伯爵邸へ引っ越してきていた。
カナル通りに二人は住んでいたが、それは借家。
この世界の借家には当たり前のように家具がついていた。ついていた、というより、備え付けの家具がほとんどだった。つまり引っ越し、と言っても持ち運ぶ家具はなく、絵画や壺などの美術品でもなければ、多くはいくつかのトランクで完了となる。
アマリアとヴィオレットも荷物はほとんどなく、前日の引っ越しもあっという間に終了していた。運ばれた荷物は全部、伯爵邸の使用人が荷解きをしてくれるので、二人はやることがなかったと思う。それに二人のためにそれぞれ用意された部屋には、既に必要となるものはすべて揃えてある。何不自由なく、暮らせるはずだった。
「お姉様、失礼します!」
私の部屋に来たヴィオレットは、フリルとリボン満点の可愛らしいピンク色のネグリジェを着ている。この世界のネグリジェは前世のような透け透けの大人の女性が着るものではない。季節に合わせた生地で作られた寝間着である。
「このネグリジェ、お義姉様が選んでくれたものだとメイドから聞きました!」
「ええ、そうなの。気に入ってくれたかしら?」
するとソファに座る私のところへ早歩きで来たヴィオレットは、ぎゅっと抱きつく。その体からはピーチのような甘い香りがする。
「はい! とても気に入りました! ありがとうございます、お義姉様!」
「良かったわ!」
「これは気に入ったのですが、お義姉様が肩から羽織っている白のレースのショールも素敵ですね」
「あ、ああ、これ?」
私はノースリーブのネグリジェを着ていたので、ヴィオレットが言うショールを肩から羽織っていたのだ。
「ヴィオレットのために用意したネグリジェはすべて半袖だったはずだけど、もしショールも欲しいなら、お父様に伝えておくわ」
「ありがとうございます、お義姉様! 私、お義姉様とお揃いがいいんです!」
「……! 分かったわ、ヴィオレット。お父様にすぐに手配をお願いするわ。ねえ、見て。ヴィオレット。ナイトティーを用意したの」
私の言葉にヴィオレットの瞳がキラキラと輝く。
「ありがとうございます、お義姉様! これは……ミントティー?」
「ミント&カルダモンティーよ。カルダモンはね……」
カルダモンはスパイスの女王と言われ、高値で取り引きされている。父親がスパイスの輸入も手掛けているため、我が家では日常的に料理やスイーツ、紅茶やコーヒーに使われていた。
消化を促進し、口臭予防の効果が期待でき、リラックス効果もある。ミントと合わせ、蜂蜜を加えて飲むと最高だった。
「なるほど! さすがお父様が輸入業をされているだけありますね! そしてこれはレモンタルトですね!」
「ええ。夏にはさっぱりが一番でしょう。一口サイズだから、ミント&カルダモンティーと一緒に楽しみましょう」
「はい! お義姉様、このまま隣に座っていいですか?」
前世でもこの世界でも。姉や妹がいたわけではない。
家族で隣同士に座り、お茶をするというのに慣れていない私は驚くが「ええ、構わないわ」と言うと、ヴィオレットは「嬉しいです、お義姉様!」と抱きつく。
「お義姉様のような素敵な姉が出来て、本当に良かったわ! お義姉様、毎晩こうしてナイトティーを一緒に飲みましょう!」
(毎晩!?)
思わずビックリしてしまうが、姉妹なのだ。夫婦は揃ってナイトティーを飲むと言うし、きっと姉妹もそういうものなのだろうと理解する。
「分かったわ、そうしましょう」
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