15:遂に二人目と接触
ティータイムの時間。お茶と無関係なお店は閑散となる。だがカフェは、どこもかしこも満席というのが、街ではお馴染みの景色だった。ところが……。
「いらっしゃいませ」
がらーんとした店内にいる客は、その様子から地方領から出てきたらしい令嬢二人組。そして奥の端の二人席には、ひょろりとした体躯で、片メガネをつけた口ひげの男性が一人で座っている。
(あれがパウエル男爵ね!)
店内はガラガラで空いているが、店員にはあの席がいいと、パウエル男爵の目につく場所に陣取った。そして紋章がバッチリ分かるように、扇子とハンカチをテーブルに置く。
「ご来店、ありがとうございます。コーヒーとクッキーでよろしいですか?」
一品勝負をするお店のように、このカフェではコーヒーとクッキーのセットのみの販売だった。よって「はい。それを二人分でお願いします」とロバーツが応じた。
注文を終えたまさにその瞬間。
「なっ、貴様は……マルティウスの娘か!? 何をしに来たっ!」
席から立ち上がったパウエル男爵が、私たちのところへやって来た。
両手を拳にして握りしめ、床を踏み鳴らすようにして、怒りで顔を赤らめている。私たちの席へ到着するなり、放った言葉はこれだ。
「今すぐ出て行け!」
「まあまあ、落ち着いてください。お嬢様はただコーヒーを飲みに来ただけです。お手軽にコーヒーを楽しめるカフェが出来たと聞き、興味をお持ちになられた。コーヒーを飲んだら、すぐに帰ります」
ロバーツがパウエル男爵を宥めようとするが、それは焼け石に水。火に油を注いでいるようで、パウエル男爵の興奮状態は収まらない。
「ふざけるな! 店が苦戦しているのを見て、馬鹿にしに来たのだろう! 本人が来ないで、娘が来るとは! 娘なら追い出されないと思ったか!?」
パウエル男爵はそう言うと、店員を怒鳴りつける。
「この二人を追い出せ! 二度とマルティウスの人間を店に入れるな!」
私たち以外に、一組だけお客さんがいるのに、パウエル男爵は完全に眼中にない状態。そして貴重なその地方領から来ているらしい令嬢二人組は、この怒鳴り声にビックリしていた。既に席から立ち上がり、店を出ようとしている。彼女たちはきっと領地へ戻ったら、今日の出来事を両親や親戚、地元の友人に話すだろう。
(せっかくのお客さんだったのに。パウエル男爵はアンガーコントロールができないのね)
「お客様、申し訳ありません。店主もああ言っていますので、お帰りいただけますか……」
おどおどした様子の店員には、同情しそうになる。
同時に。
これだけの憎悪を向けられると、父親を毒殺したのは……このパウエル男爵なのではないかと思えてしまう。
この直感が正しいのか。カフェを出たらあの居酒屋に戻り、ロバーツと話したい。そう思いながら、店員に促されるように席を立つ。
出入口の扉まで来た時、店員の男性は、エプロンのポケットから素早く紙袋を取り出した。
「せっかくいらしていただいたのに、本当に申し訳ありません。こちらクッキーです。お詫びにどうぞ」
扉のガラス窓から外を見ると、私たちより先に店を出た令嬢二人組も、同じ紙袋を手に持っている。パウエル男爵とは違い、店員さんは気遣いのできるいい人だった。
「ありがとうございます」
そう言って紙袋を受け取ろうとした瞬間。
「あぶない」
そう言ってロバーツが私を抱きしめる。
「貴様―っ、勝手なことをしやがって!」
パウエル男爵が男性店員に掴みかかった。
「うわぁ」ガシャーン。「きゃぁ」
さっきまでガラガラで静かな店内だったのに。パウエル男爵が暴れることで、突然阿鼻叫喚の地獄絵図になった。
男性店員は、お屋敷でコーヒーセットが並べられたテーブルに倒れ込んだ。その際、いろいろな物が落下し、けたたましい音が店内に響く。お会計にいた女性店員は、突然起きた惨事に悲鳴を上げている。
「おっさん、落ち着け!」
ロバーツは、床に倒れる男性店員に馬乗りになっているパウエル男爵を、背後から羽交い締めにする。私は出入口から外に出ると「誰か、誰か、王都警備隊を呼んでください!」と叫ぶことになった。
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