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悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【事件簿】数話で完結する短編集

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光と影(4)

 昼食で、ただ一人、自身の作ったシチューを食べたナツオ。ティータイムの時間には、気分が悪いと水を少し口にしただけだったという。


(もし毒を盛られているなら、朝食もしくは昼食の可能性が高いわ……)


「朝食に召し上がった豆のスープ。こちらもナツオさんが作ったものなのですか?」


 アレスが尋ねると、フユナは首をふるふると振る。


「その豆のスープはお針子さんが作ってくれたものです。豆農家の娘でお針子をしている子がいて、彼女が『今日は豆を持ってきたので、まかない、私が作ります』と言って、前日のお昼に合わせ、作ってくれました。その残りを今朝、私と兄で食べたのです」

「つまり豆のスープはお針子の皆さんも食べ、今朝はフユナさんも召し上がっているのですね。そしてフユナさんの体調に変化はない。パンやチーズ、ジャガイモに毒を混入するのは難しいでしょう。そうなると昼食にナツオさんが作ったシチュー。そこに毒が入っている可能性が高くなりますね」


 アレスの意見に異論は出ないし、クルーズ隊長もすでにシチューを回収したという。


 遅かれ早かれ毒は判明する。ナツオ自身が作ったシチューになんらかの毒物が混入されていたで間違いはない。あとは──。


「ナツオ氏は誰かに命を狙われている、そうほのめかす言葉を日記に残しています。フユナさん。何か心当たりはありますか?」


 クルーズ隊長の問いに、フユナは……。


「兄と私は異邦人です。その上でレッド侯爵夫人に見出され、こんな素敵なお家に住まわせていただいています。自分たちの洋裁工房も持っているんです。妬まれても……文句は言えません」

「ナツオやフユナは弱者です。二人を狙ったというより、私と敵対する人間が動いた線で犯人を探してもらった方がいいと思います」


 レッド侯爵夫人がそう言うと、クルーズ隊長は「なるほど」と頷く。


 確かにナツオへの恨みより、勢いもあり、ライバルもいるであろうレッド侯爵夫人への嫌がらせが犯行動機と考えるのは妥当なものだった。


「わかりました。レッド侯爵夫人とつながりのある人物でも調べを進めます」


 そのあと、クルーズ隊長からフユナへいくつかの確認事項がなされた。それが終わるとレッド侯爵夫人は独り言のように呟く。


「キモノドレス・コレクション。始める前に終わってしまうなんて……」

「奥様、諦めないでください!」


 おとなしそうに見えたフユナが、頬をうっすらと赤くして、レッド侯爵夫人を見上げる。


「実は……私もいくつかドレスのデザインを担当しています」

「えっ、そうなの?」


 フユナは立ち上がり、壁際の棚に向かうと、スケッチブックを手にソファに戻る。


「これです」


 レッド侯爵夫人はスケッチブックを受け取り、それをペラペラとめくり、仰天する。


「これは……ほとんどのドレスのデザインはフユナ、あなたが考えたものだったの!?」

「……はい」

「そうだったのね……! それならそうと言ってくれれば……。でもこれでキモノドレス・コレクションは諦めないで済むわ! フユナ、ナツオが亡くなって悲しいし、辛いと思う。でもなんとか踏ん張り、頑張ってもらえるかしら?」

「もちろんです! 奥様! キモノドレス・コレクションを成功させたら、兄も喜ぶと思います」


 フユナが力強く頷き、レッド侯爵夫人は安堵の表情となり、クルーズ隊長を見る。


「コレクションを守ることはできました。でも一人の命が失われているのです。クルーズ隊長、捜査の方、しっかりお願いします」


 レッド侯爵夫人が頭を下げた。


 ◇


 応接室を出て、ロバーツとナンシーと合流すると、馬車を呼び、乗り込むことになる。ナンシーはレッド侯爵夫人やフユナと話し、何か新たな情報を得てないかとアレスと私に尋ねるが、これと言った新しい情報はない。ただ、朝食と昼食のメニューがわかったこと。キモノドレス・コレクションのデザインは、ほとんどフユナがやっていたこと。ナツオは亡くなったが、予定通りのお披露目になることなどを話した。


「なるほど。フユナさんは控えめそうな女性ですし、前に出るのは苦手だったのかもしれませんね。対してナツオさんは女性のドレスを着るのを好み、人前でも物怖じしない性格だった。だからナツオさんが前面に出て、フユナさんは控えていた……。そうなると……もしも犯人がレッド侯爵夫人への嫌がらせで、キモノドレス・コレクションを潰すことだったら……今回の件で、コレクションは潰れません。今度はフユナさんが狙われないでしょうか?」


 ナンシーの心配は尤もだったが、アレスは落ち着いた声で告げる。


「レッド侯爵夫人は出来た人です。今回の件を受け、残されたフユナさんを守るため、手を尽くすでしょう。狙われても第二ナツオ氏のようなことにはならないはずですよ」

「それは……そうですね」


 今度はアレスが逆にナンシーに尋ねる。


「ロバーツさんとナンシーさんは、わたしたちが応接室で話している間に、何か情報を得られましたか?」


 するとロバーツがナンシーに代わり答えてくれる。


「毒を盛られたとなると、食べ物への混入になる。だが厨房にあったはずのシチューも、鍋ごと回収されているし、木箱の中の野菜や氷室にあっただろう肉類も、全部警備隊が持ち出したようだ。ゴミも含めてごっそりと。まあ、捜査の基本としてそこは優秀なんだが……記者としては何もなく困った、だった。唯一、厨房で見つけたのはこれだ」


 そう言ってロバーツが上衣のポケットから取り出したハンカチに包まれていたものは──。


「スパイスのスターアニスですよね?」


 ナンシーがロバーツを見た。


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