光と影(3)
「! 初めまして、コルディア公爵、マルティウス伯爵令嬢! お二人のことは新聞はもちろん、ライズ隊長からお聞きしています。自分、第三方面の隊長に就任したクルーズと申します」
ナツオ・アツキとフユナ・アツキ兄妹の洋裁工房兼自宅を訪ねると、王都警備隊の隊員が大勢いて、捜索が続けられていた。そして現場を仕切っているのが、今、挨拶をしてくれたクルーズ隊長。あの罷免された悪徳隊長ランドルフの後任は、ミルクティー色の長髪を左側で束ねた、細身長身のなかなかのハンサムな青年。何よりもランドルフとは大違いで、大変礼儀正しかった。
しかもアレスも私のこともちゃんと知っており「先日のセリカ薬物事件でも捜査協力いただいたと聞いています。よかったら現場を見て、何かアドバイスをいただけると幸いです!」と、クルーズ隊長は建物の中に入ることを許してくれたのだ。
(前世ほど、捜査現場の保全に警備隊も躍起ではない。それに……)
便乗して一緒に中に入ったロバーツとナンシーは新聞記者らしく、建物内の様子に目を凝らし、メモを取るので大忙し。その様子を気にすることなく、クルーズ隊長が案内してくれたのは……。
「この厨房兼ダイニングルームで、ナツオ氏の遺体が発見されました」
そこは前世ではよく見かけるキッチンとダイニングルームが一体化した部屋で、こぢんまりしているが、木の温もりを感じさせる大きなダイニングテーブルや棚が置かれ、清潔感もあった。まさかここで……と思ったら、床にチョークで人型が描かれている。
「洋裁工房に勤務していたお針子たちは、先に玄関へ向かっていたのですが、いつも見送りにくるナツオ氏が来ない。そこでお針子の一人がナツオ氏を探しに行き、ガシャーンという音が聞こえてきた。その音が聞こえたここ、厨房兼ダイニングルームへやって来ると、水を飲もうとしていたのでしょうか。割れたグラス、濡れた床、そして痙攣しているナツオ氏を発見します」
クルーズ隊長は、ナツオの死の様子を淡々と教えてくれる。
「お針子が『大丈夫ですか』と声をかけると、『気持ちが悪い』と言い、ナツオ氏はその場で倒れてしまう。お針子は驚きすぎて、声も出ず、腰を抜かしてしまった。それでも何とか四つん這いで厨房兼ダイニングルームを出て、しばらく廊下を進むと、心配した別のお針子が探しに来てくれて……。そこで別のお針子が厨房兼ダイニングルームへ向かい……嘔吐した吐瀉物が喉に詰まり、ナツオ氏はその時、既に死亡していたようです。そのお針子が状態を確認した時、息はもうなかった……」
クルーズ隊長の説明を聞きながら、ロバーツとナンシーはチョークで描かれた人型のそばに座り込む。アレスは厨房へ向かったので、私も一緒に食器棚や水瓶の様子を確認する。その間にクルーズ隊長が語ったことは、ナンシーから既に馬車で聞いていたことだ。つまりは日記に書かれた『他殺を疑ってくれ』というナツオの言葉の件である。
「妹のフユナさんはナツオさんが倒れた際、そばにはいなかったのですか?」
アレスが尋ねると、クルーズ隊長が即答する。
「まさに今日、完成した分のドレスをレッド侯爵夫人に見せるため、フユナさんは侯爵邸に向かっていたのです」
「ということは……」
「クルーズ隊長、報告します。フユナ・アツキとレッド侯爵夫人をお連れしました!」
王都警備隊の隊員が厨房兼ダイニングルームの入口で声をあげた。
◇
フユナとナツオが暮らしていた洋裁工房兼自宅の応接室。そこは商談でも使われるため、厨房兼ダイニングルームよりも広々としていた。
ソファセットも高級品の三人掛けで、そこにクルーズ隊長、アレス、私が並んで座り、ローテーブルを挟み対面にレッド侯爵夫人とフユナが着席。
初対面となるフユナは、見事な長い黒髪を後ろで一本に束ね、色白でおっとりした雰囲気で、平安時代のお姫様にみたいに見える。藤色のワンピースを着ているが、出来れば十二単を着て欲しい……そんな容姿をしている。
「まずはお忙しい中、ご足労いただき、ありがとうございます」
クルーズ隊長がレッド侯爵夫人に頭を下げる。
ちなみにロバーツとナンシーは建物内を見て回ってもいいと言われたが、さすがに同席は許されなかった。
「まさかナツオが……本当に信じられませんわ」
「レッド侯爵夫人、お気持ちお察しします。必ず犯人を逮捕し、ナツオ氏の無念を晴らしましょう」
ということで、クルーズ隊長とレッド侯爵夫人との挨拶も済み、早速本題に移る。そこでクルーズ隊長は今日のナツオの様子をフユナに尋ね、彼女の答えはさっきクルーズ隊長から聞いた通り。ナツオは朝から普通に仕事をしていたが、午後、食べ過ぎで具合が悪いと言っていたことと完全に一致している。追加で明らかになったのは、朝食、昼食でナツオが口にしたものだ。
「朝食で兄が口にしたのは、豆のスープに黒パン、チーズです。昼食はキッシュとシチューで、シチューは二種類で、一つは兄が作ったものでした」
「……ナツオ氏は料理をされるのですか?」
クルーズ隊長が珍しいという表情で尋ねると、フユナは「そうですね」と応じる。
「両親は既に他界していますが、私と兄が幼い頃、両親は稼ぐのに忙しく、家事は兄と私で行っていました。兄はその時から料理が上手で……。今はキッチンメイドを雇うこともできるのですが、兄は料理を作ること自体が好きなようで、お針子さんたちのまかないも兼ねた昼食を自身で作っていました」
「なるほど。昼食のシチューはナツオ氏自身が作ったと。毒を盛られた疑いが強いですが、そのシチューではないのかもしれない……。ちなみにお針子さんやフユナさんもそのシチューを召し上がったのですよね?」
クルーズ隊長の言葉にフユナは「そのシチューは兄しか食べていません」と答える。これにはみんなで「?」と首を傾げることになるが、ここでレッド侯爵夫人が口を開く。
「たまにね、差し入れをしているんですよ、洋裁工房に。ナツオやフユナはもちろん、お針子たちみんなで食べられるように。今日はキッシュとビーフシチューを届けさせました。……事前にいつも伝えているのですが……」
「いつもありがとうございます、奥様。……忙しくて兄は失念していたようです。私は裁縫作業に没頭していて、気づいたら兄はシチューを既に作っていました」
「なるほど。ナツオ氏は差し入れが届くことを忘れ、自身もシチューを作ってしまった。そしてレッド侯爵夫人の差し入れのキッシュとビーフシチューを食べた上で、ご自身の作ったシチューも一人だけ召し上がったと? だからこそ『食べ過ぎた』だったのですね?」
クルーズ隊長の問いにフユナは「その通りです」と頷いた。
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『星に願いを。~オルゴール~』
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「冬の童話祭2026」「なろうラジオ大賞」応募作の短編です
千文字以内なのでサクッと読めます!
可愛い、可愛いもふもふの物語です♡














