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 シザリオンは碁盤のような町。180メートルごとに縦横の大通りが走り60メートルごとに小路が走る。そして東西360メートルごとに用水路が走り小型の船で輸送する。

 誰がどう見ても人工的な町、それがシザリオンだった。

 大通りで作られた升目は30升×30升。大きな真四角の町の周りを運河が取り囲みその運河は大川へと流れている。平地だから出来た町シザリオン。

 運河の土手は高く土を盛られ両側に桜、梅、楓、松など四季折々見物にくる価値がある木々が植えられ四季折々に訪れる見物人によって土手が踏み固められる。川の氾濫が大災害になる平地の町を守る為の政策だった。

 

「すごいですよねぇ、ゼンさん、見て下さいな」


 土手の上、街道で吹き上げる風に持って行かれそうな麦わら帽子の縁を掴んでカイムが並んでいるゼンに声をかけ、ゼンが大きくゆっくり頷く。風に吹かれた桜の木からは毛虫が落ちてくる。落ちてくる毛虫からそして日に焼けると真っ赤になってなり痒みが出てしまう真っ白な肌を守る為の麦わら帽子にはマリンブルーの大きなリボンが結んである。

 ストレートの露草色の髪は肩で切り揃えセンターで分けている。大きな露草色の瞳、通った小振りの鼻。淡い桜色の頬に紅色の唇。ひょろりと高いだけの身長は普通の男より高いが幅は細い。本当にひょろりと上にだけ伸びた身体。出来るだけ日に当たらないようにハイネック、長袖の生成の木綿のシャツ。生成のサルエルパンツの裾を革製のブーツに入れ、膝丈の生成のチェニックの上から腰に飾り紐を結んでいるカイムも目立つが圧倒的に隣のゼンの方が目立つ。目立つというか畏怖され遠巻きにされる。

 初めて見る者に畏怖すら平気でもたらすゼンは何せ大きい。どれ位大きいかというと人混みの中でも頭が出るので目印になるカイムより肩高が高い、という位大きい。

 高いカイムを見下ろすゼンの顔は逆三角形。大きな角は円を描きながら後方に伸びている。長く伸びた毛はもうすぐ地面につくだろう。羊の顔と毛を持ち体型は羊のそれなのに、馬のように大きく細い。

 蹄は蹄鉄をつけるより削蹄をした方がゼン本人もカイムも楽だと気がついてから毎月削蹄を行っている。最低、年に一度毛を刈らないとゼン自体が毛の重さで動きに抑制がかかってしまうが(なので年に2回、毛を刈っている)その毛から作られた織物は防寒防水に優れ市場に出せばどれほど高価であろうと(ゼンもカイムもそんな高価で市場に出した事がないのに)すぐさま売れてしまう。年に一度生え替わる角も細工をしなくても超高額で取り引きされる為カイムとゼンの二人が怯えてここ数年市場には出さずゼンの背中に背負っている荷物の中に何本もが入っている。馬と鹿、牛と羊と山羊を足して良いところと大きさを残して捨て去った完全草食獣。

 だからカイムとそっくり同じ露草色の瞳だけが二人が兄弟という証。

 そうカイムとゼンは誰がなんと言おうと異母兄弟。父親が同じで母親が違う兄弟。あえて言えば弟ゼンの母親が正妻であり、カイムの母親が妾にさえなれない下女だった。という兄弟だった。


 「ここまでタムの町を残しておけるなんて、どれほど素晴らしい主がいるのでしょう。火の精霊、水の精霊、風の精霊、地の精霊。全てを司り母なる精霊タラチネを制御出来るなんて」


 嬉しそうに感嘆している兄の横でゼンはうんざりした表情を浮かべて何度か大きく頷く。別に人間が何をしようとも精霊は気にもしないだろう。住んでいる人間が悪い人間でも気に入ればいつもでも住み着いているだろうし、良い環境でも気が変わると出て行くだろう。精霊は人間とは違う。

 前にシザリオンに訪れた時も同じ会話をしたような気がする。したような気がするが他の町での出来事かもしれない。

 今の世、500年前に滅びたタム王朝が作った町が綺麗に残っているのは多くはない。500年前のタム王朝が滅びた理由が戦争だったのと、魔法を使って作り上げた町は修復にも魔法が必要で、でも戦争によって町を修復できるレベルの魔法使いが極端に減ってしまったせいだった。戦いによって町は壊される。でも修理できる人間がいない。優れた町も街道も壊れてしまって修繕が間に合わない。今、新しく戦争時に兵器扱いを受けていた魔法使いが魔術師と名を変え、法に縛られながらも人数を増やしているが、土木建設を好き好んで行う者は少ない。

 だからそこそこ街道が残り運河が残り町が残っているシザリオンは感嘆に値する。それを維持させているのだからさらに感嘆する。


「そして北地区の地下に化け物の自治体があって人間達と共存しているなんてなんて素敵な町でしょう」


 両手を胸の前で祈るように合わせたカイムがその場でくるりと回ってみせる。はにかんだような微笑みを浮かべて浮かれている兄を眺めてゼンが苦笑いを浮かべる。仕草、言葉使い、どう見ても胸がない美少女にしか見えない兄は自分が乙女に間違えられる。という事実をすっかり忘れている。ただ本人が自分の性別にこだわりがないので何の問題は起こっていないが。


「まぁ、今回は何か事件が起こっているようですけれど」


 微笑みを消して小首をかしげたカイムが言いゼンが頷く。

 本当に十代の娘のようにコロコロと変わる兄の表情は見ていて飽きない。獣…… 化け物になって表情筋が減ってしまったゼンの分まで表情を変えているんじゃあないかと思うほどカイムの表情は豊かだった。

 でもカイムが言っていることは真実だ。今回二人がシザリオンに来たのはシザリオンの化け物自治区代表の孫から助けて欲しいと連絡が入ったからだ。旅から旅、定住せずに彷徨っている二人に連絡をつけるのは容易ではないだろう。その容易ではないことをしてまで連絡をつけたかった。それは問題が大きく深刻な事だという証明だった。

 立ち止まったカイムの背中をゼンが軽く鼻先で押す。大きくて深刻な問題は早く片付けるに限る。


「はいはい、判りました。行きましょうね」


 ゼンに押されながらカイムが答えた。


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