村での生活の始まり
今、俺はルミアという少女が運転する馬車に乗って彼女の故郷の村に向かっている。
「今更聞くのもあれだけど、見ず知らずの俺を村に連れて行っても大丈夫なのか?」
ルミアは少し考えてから答えた。
「村に来ない?って言ったのは私だし、なんかレイは別に悪い人じゃない気がするんだよね。それに悪い人なら自分が怪しいなんてこと言わないと思うな」
警戒心がない気もするが宿がまだ決まっていない俺からしたらありがたい限りだ。
ここから1時間くらい馬車に揺られるとようやく村が見えてきた。道中は自己紹介の延長戦だったり村のことを聞いたりして過ごしていた。聞いたところによるとルミアは村長の娘で2個下の弟がいるようだ。
馬車は村の中には入らず村の前で止まった。
「多分大丈夫だと思うけど、一応泊る場所があるか聞いてくるね」
そう言ってルミアは一足先に村に入っていった。そして10分後くらいに戻ってきた。
「レイ!お父さんに聞いてみたけど大丈夫だって!ただ、最近村にあるお客さんをもてなす宿最近使ってなかったみたいで大掃除しなくちゃいけないみたいだからしばらく泊るのは私の家でもいい?」
「俺はいいけどルミアはいいのか?今日知り合ったばかりの男と一つ屋根の下なんて。泊まる場所がないなら別に野宿でも俺はいいぞ」
「ダメだよ。この時期まだ冷えるし。それになんでかわからないけどレイといるとなぜか安心するし同じ家に寝泊まりするって言っても私の家族もいるから大丈夫かなって」
「ルミア、お前よく警戒心ないって言われないか?」
「あはは、お母さんにもこの話したら女の子としてもっと警戒しなさいって言われちゃった。さっきも言ったけどなんか不思議なんだよね。普段ならこんな提案しないけど本当にレイといると安心するんだよね。男の子に言うのも変だけどレイってよく母性あるって言われない?」
母性ね、まぁ俺のそばにいれば危険なんて訪れないからそう言った意味では謎の安心感があるのかもしれない。だからか結構いろんな人から安心感あるとは言われる。
「流石に母性あるとは言われないけどいると安心するとは言われるね」
「でしょ!やっぱり私の勘間違ってなかったんだ。それよりレイ、私は荷物の整理しちゃうから村でも見て回ってきなよ。終わったら探しに行くからさ」
「じゃあそうさせてもらうよ」
♢♢♢♢
この村は農業を中心に生計を立ててるようで畑などがいくつもある。こんなことを言ってしまったら失礼だが畑と家が多くそれ以外にはこれといった特徴はなかった。だけど、空気も澄んでいてて水もきれいで静かで鳥の声がよく聞こえるため子供が成長するにはいい村であると思った。
村は一通り見て回ったので少し村をの外を見てみようと思って歩いていると、人影が見えた。
ルミアよりも2つくらい下に見える少年が剣を素振りしていた。せっかく集中しているのに声をかけるのは申し訳ないので少し離れてたところで眺めていた。
しばらくすると一区切りしたようでこちらに気が付いたようだ。
「!?誰だ。いつからそこにいた」
「ついさっきだけど。そんなに警戒するなって」
「いきなり知らない人が近くにいたら警戒もしますよ」
こいつはルミアと違って警戒心MAXだ。少し過剰な気もするがこのくらいは警戒するのが普通だ。
「この村には冒険者も騎士もいない。何かあったら動けるのは俺くらいなので答えてもらいますよ。あなたは何者ですか?この村には何をしに来たんですか」
「俺はレイ。ただの旅人だ。この村にはルミアって子から連れてきてもらった。これで満足か?」
「ルミアって・・・・」
「あ、ようやく見つけた。探したんだからね」
そう言いながらルミアが走ってきた。
「あれ?アルもいたの?」
「いたら悪い?それよりこの人は姉さんがつれてきたの?」
姉さん、どことなく似ていたがやっぱりこいつが馬車の中で話してたルミアの弟か。
「別に悪いなんてことはないけど。この人はレイで私が帰ってくる途中で出会った旅人なの。それで泊る所がまだ決まっていないみたいだったから村に連れてきちゃった」
「姉さんの様子だともう父さんの許可をもらったんだろうけど、俺は反対だから。外部のやつを村に入れるなんて」
そう言ってアルは去ってしまった。
「はぁ全くあの子は」
「さっきのは弟か?」
「うん、私の2個下の弟アル。多分失礼な態度取ったと思うんだけど許してもらっていい?」
「ああ、別に気にしてないからいいよ」
外部の人に対してあの態度、過去に何かあったんだろ。これはむやみに聞いていい問題ではないな。
「それより荷物の片づけ終わったから私の家に行こ!今日はレイの歓迎会するよ」
「それは楽しみだな。でも、いいのか?弟は俺の子と歓迎しないと思うが」
「最初は参加してなくても、歓迎会見てたらそのうち楽しそうで入ってくるよ。それに話してたらレイが悪い人じゃないって気が付くし打ち解けると思うな」
子どもじゃないんだからそんな簡単に釣られるとは思えないんだが・・・・
「それも勘?」
「まぁそんなところ。さ、行こ!家まで案内するよ」
♢♢♢♢
その夜
「ではレイがこの村に来たことを歓迎して乾杯!」
『乾杯!』
乾杯と同時に先ほど注いでもらったお酒を飲む。
「どうだね、レイ君。お酒の味は」
「ええ、とても美味しいです」
ブドウのさわやかな風味で口当たりがよい。とても飲みやすくお酒の弱い人でもたしなめる味わいだ。
「それはよかった。このお酒に使われているブドウはうちの村でとれたものなんだ」
「そうなんですね。飲みやすくて結構好きです」
「ふふ、よかったわ。せっかくだし料理も食べて頂戴。腕によりをかけて作ったから」
今のやり取りを見ただけでわかる優しいオーラを放つ2人。ルミアの父親でこの村の村長、アデクさんとその妻のフィーリアさん。
「いただきます。!おいしいです」
「そう?ならよかったわ」
「そうだろ。フィーリアの料理は世界一だからな」
「もう、あなたったら」
俺たちがいないかのように2人だけの世界に入ってるようだ。結婚してからかなり立ってるとは思うがここまで夫婦仲がいいのはうらやましい限りだ。
「ちょっと、二人とも!お客さんの前なんだよ」
ルミアに言われてようやく我に返ったようだ。
「おっと、そうだったすまんすまん」
「いえいえ、俺のことはお気になさらず。それにしても俺を村に泊めてくれてありがとうございます」
「気にしないでくれ。こんな村でよければ気が済むまで泊って行っていいから」
「ありがとうございます。ただ、申し訳ないのですがお金を持っていなくて」
「お金?気にしなくていいよ」
「お金は持っていないので、代わりの品として・・・・」
「こ、これは!」
俺は空間魔法で丁度手のひらサイズの宝石を取り出す。
「これでよければ受け取ってください。いくらになるかはわかりませんが相当な金額にはなるかと」
この世界の物価は分からないが俺の準コレクションの宝石だ。それなりにいい値段が付くだろ。
この宝石を見た瞬間3人は後ろを向き何かを話している。そして代表してアデクさんが答えてくれる。
「今、話し合ったんだがこの宝石はさすがに受け取れないよ。ただ泊めるだけでこんな報酬をもらったらこちらが申し訳なくなってくるんだ。もともとお金は貰うつもりはなくて、その代わり村にいる間は野菜や果物の収穫を手伝ってもらうつもりだったんだ。宝石は受け取れないから収穫を手伝ってもらえるかな?」
「分かりました。アデクさんがそう言うなら。こう見えても農業の知識はかなりあるので大丈夫ですよ」
「ありがとう、早速明日から手伝ってもらえるかい?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「それはよかった。それより、アルはまだ帰ってこないのか?」
「そうねぇもうじき帰ってくるはずだけど。あ、噂をすれば」
家の外から足音が近づいてくる。帰ってきたのだろう。この時間まで修練してるなんてなかなか根性あるな。時間があったら見てやるか。
「ただいまーって」
アルは家に帰ってくるなり警戒心をあらわにした。
「なんでそいつが家にいるんだよ。昔、近くの村で何があったのかを忘れたわけじゃないだろ。もしかして忘れたからそうやって連れ込んだのか。もういい、そいつが家にいる限り俺は帰らない!」
アルは一方的に言って出て行ってしまった。反論する余地はないほどに勢いがあった。昔、俺みたいな旅人とトラブルがあったのは間違いないのだろうがここまでとはな。
「あいつときたら・・・・ルミア、アルを探してきてくれるか?」
「いいよ。分かった」
「申し訳ないがルミア一人だと心配だからレイ君も着いていってもらっていいか?」
「分かりました」
「レイー行くよ」
俺は頷いてアルを探すため、ルミアと一緒に外に出た。
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