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薬術の魔女関連

「愛する事が出来ない」と言われたので分からせてみた

作者: 月乃宮 夜見

「愛することはない」ネタを結婚事情の二人で擦ってみた話。


本編『薬術の魔女の結婚事情』(https://ncode.syosetu.com/n0055he/)


「貴方を、愛することが出来ない」


 出会ってすぐ婚約者に言われたそのセリフは、恋愛ごとに無関心だった薬術の魔女を刺激するには十分だった。


「ふーん」


そう頷きつつ、わずかに眉間に皺寄せて「初対面で言う言葉かよ」と内心で吐く。なんだこいつ、である。だが直ぐにこっと、かわいい(当自比)作り笑いをする。


「了解しました」


 この時点で相手の印象は最底辺だ。通常、思っても胸の内にしまっておく言葉のはずのものをわざわざ告げているから、である。相手の見た目が良いばかりに『残念だなぁ』、と言う心境だった。


「それは、政府で引き合わされた関係だから?」


二人は、政府の考案した『相性結婚』によって引き合わされている。今日はそれの顔合わせの日だ。


「そうですね、多少はそうなります」


そう、婚約者の魔術師の男に問うと、ものすごい変な言い回しをされた。何か含みがありそうである。


「好きな人が居るとか?」


「いいえ。この生で一度も居りません」


「なにか他に含みある?」


「……態々(わざわざ)言うとでも?」


「そっか」


 素直に聞いたが素直に答えてくれなかった。まあそうだろうとは思っていた。そしてそのまま相性結婚の手続きをし、解散した。

 相手の人は顔が綺麗だがやはり変な人、と言う印象のままだった。噂には聞いていたが、宮廷魔術師になる人は変らしい。


「『愛する事ができない』って言ってたけど……愛ってなんだろ」


 それから、2年ほどの日々を暮した。『相性結婚』で引き合わされた者同士とはいえ、多少の交流をしたのだ。ただ、それは一般論(セオリー)通りのものではなかったけれど。


 彼は初対面で『愛する事ができない』とは言ったものの、薬術の魔女はそれなりに大事にされているようだった。


「……貴女は、『愛』とは何だと思いますか」


 ゆっくりと魔術師の男は口を開く。


「ん、『愛』? なんで聞くの?」


「折角、本日が『愛』の名を冠する日ですので」


不思議そうな様子の薬術の魔女を見ながら、魔術師の男はいつものように起伏の少ない声で続けた。


「んー。私が思う『愛』……は」


 少し考え、薬術の魔女は答える。


「『好き』って気持ちかな」


 『好き』という単語に魔術師の男は一瞬、反応したが、何と言おうかと考えている薬術の魔女は気付かない。


「愛を向けてる、その相手に『なにかをしてあげたいな』って思うんだ」


 薬術の魔女自身も、魔術師の男に『なにかをしてあげたい』という気持ちを持っている。勿論、友人達にもその気持ちを持ち合わせているものの、魔術師の男へ思う感情とは何かが違うとなんとなく感じていた。


「それに、逆になにかをしてもらうとすっごく嬉しい気持ちになるの」


 冬季休暇の事を思い出し、薬術の魔女は少し頬を染める。


「きみは?」


 せっかく訊かれたのだから、というか答えたので、薬術の魔女は魔術師の男の思う『愛』について知りたくなった。


「……(わたくし)には、『愛』(など)分かりませぬ」


 しかし、思いもよらぬ返答があった。『愛がわからない』なんてことがあるのかと、薬術の魔女は衝撃を受ける。そして、それを知らなかった自分は幸せな環境に居たのだと、思い知った。


「誰かを『愛おしく思う』『大切に思う』感情であるのは理解して居りますが」


 魔術師の男は何かを思い出すかのように、少し遠くを見ながら言う。


「『愛』を、今(まで)に向けられた事が無いもので」


そう答えると魔術師の男は本を持って立ち上がり、自室に戻ってしまった。


 どうやら彼は複雑な環境にいたようだ。そう、薬術の魔女は察する。



 婚約者は顔が良い。それは薬術の魔女も認めている。

 だからか、外で待ち合わせをすると高確率で言い寄られてしまう。それは身分の高い令嬢だったり、平民の娘だったりと様々だ。


 そして、とある令嬢に言い寄られた時。


「私が、貴女を愛する事は無い」


彼はそう答えた。相手は『可能性が〜』とか『やってみないと〜』とか言っていたが、彼の態度は取り付く島もない。


「(……明確に、拒絶してるなぁ)」


そう心を閉ざしている彼に感心すると同時に、自身が言われた言葉と言い方が違うと気付く。


そして魔術師の男が以前告げた言葉を加味し、自身なりの答えを導き出した。

 だがそんな場合ではなかった、と薬術の魔女は待ち合わせをする彼の元へと向かう。薬術の魔女が近付いても彼の表情が変わることはなかったが、なんとなく、空気が柔らかくなった気がした。


 言い寄る令嬢を退け、二人は賑々しい街を歩く。


「もしかして。『愛が分からない』から、愛する事ができないってこと?」


 不意に気付いたそれを素直に問うと、「そう、で御座いましたね」と彼からの返答があった。


「ふーん。だったら、今からでも『愛』を知ればいいよね」


そう提案すると、彼は驚いた様子で瞠目する。


「わたしができる限りで教えてあげるよ」


そうして、彼の手を取った。


「わたしも詳しくないから手探りになるだろうけど、いっぱい『愛』を見つけようね!」


「……」


握られた手を見つめ、彼はため息を吐く。


「それ、は外でやらねばならない事でしたか」


「あ、ごめん」


握られた手について指摘され、慌てて外した。


「いいえ。ですが……貴女は面白い事を仰いますね」


ふ、と彼は柔らかく笑う。


「是非、私奴に教えて下さいまし。貴女の思う、『愛』……とやらを」


「だったらきみも、きみの思う『愛』を返してくれるとわたしはとっても嬉しいかも!」



 そうして、二人は互いの思う『愛』について教えたり知ったりした。


 それから。心の距離を近付けあった二人は『相性結婚』によって結ばれた。

 性格の違いで喧嘩をすることはあったが、それも些細なことだ。


 こうして、二人は二人にとっての『愛』の形を見つけたのだ。



「ねぇ。いくらきみがわたしのこと好きだからって、勝手なことをするのはどうかと思うんだけど」


「貴女だって、私の気持ちに胡座を掻いて好き勝手をなさるではないですか」


「えー、でも。きみがわたし以外を愛することはないんでしょ」


「……そうですね。私は貴女(と子供達)以外を愛する事は無いでしょう」


「ふーん。そっか」


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