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07 ある意味、特殊スキル


 無事にクルキスでの登録も済ませて、一週間。

 本日、王宮から正式に、異世界人を保護している事が公表されました。お城にいた兄曰く、問い合わせが物凄いことになったそうです。ただ、同時に王家の許しなく異世界人への接触は懲罰対象となる場合もあるって発表されたので、会わせろと露骨に要求してくるようなおバカさんはさすがに沸いてないとの事。今のところはだけど。

 まあ、しばらくは周辺がざわつくだろうから屋敷で大人しくしていろと言われました。兄曰く、二、三週間もすれば多少は落ち着くだろうって。私の能力に関しても一部は公表はされていて、聖女姉妹ほどではないって時点で興味を失った人たちも多いそうです。うん、逆にありがたいわ。興味失ってくれてありがとう。


 とまあ、私の存在が公にされたことで、今後は少しづつ色んな人と顔を合わせる機会も出て来るだろうって兄に言われたこともあり、急ピッチでお勉強中です。いまだにこっちの常識とのすり合わせに苦労してて、遅々として進まないんだけどさ。

 本当にね、異なる常識のすり合わせって難しいなと実感してるよ。ほら、長年の習慣ってそう簡単には治せないじゃない。無意識にやってることも多いし。

 クリスさんともちょくちょく確認しているんだけど、【えっ!?】ってなる事が多い事。些細な事も多いんだけど、やっぱり平和ボケした世界でのほほんと暮らしていた人間には色々と厳しい世界である事には変わりなさそう。ただ、せっかく冒険者登録したんだし、早くその辺りの乖離をなくして何かお仕事受けてみたいので、他国から来た人なのかなくらいに認識される程度にはその辺りの差を埋めたい。兄には、絶対に一人では行くなとかなりしつこく言われてるけど。


 いくらなんでも、ちょっと過保護過ぎないですかね、兄。


「今のマキさんでは、悪漢に捕まる未来しか見えません」

 愚痴ってたら、クリスさんにきっぱり言われた。

 え、そんなにって思ったんだけど、

「街に暮らす子供と比べても警戒心が薄すぎます。旦那様が心配なさるのは当然かと」

 さらに、バッサリ言われた。


 なんだろう。最近、クリスさんが私に対して遠慮が無くなってきている気がする。


 多分きっと気のせいじゃないと思う。慣れて来たってのもあるとは思うんだけど、それにしても遠慮がない。いや、私も最近は遠慮なく言ってるけど。最初の頃の緊張感どこ行った。

「いや……そりゃね、確かにこっちで生まれ育った人から見たら色々と足りないんでしょうけど」

「足りないと言うよりは、他人に対して優しすぎます。我々護衛はまた特殊ですが、それでも貴女のように襲って来た他人を傷つけることに恐れを抱いたりはしません」

「そりゃ、クリスさんたちはそれがお仕事だし、そんなこと言ってたら自分が危ないわけだし」

 頭ではわかってるんだよ。それは、自分にも当てはまるんだって事は。そんな甘っちょろいこと言ってたら、自分が殺されるだけだって事も。

 こっちに来て二か月近くも経てば、そんな場面も目にするようになる。私が巻き込まれたわけじゃないし危ない目に会ったわけじゃないけど、それでも目撃しただけで普通に命のやり取りしてるんだってのは理解できた。

 ただ、あんな風に狙われる人って言うのは、社会的に地位があるとかお金持ちとか、そう言う人たちだろうって考えが根本的には抜けてない。どっちにも当てはまらない自分が狙われる理由はないって、そんな考えは頭のどこかに残ってる。……こう考えてる時点でダメなんだってのは、わかってはいるんだけどさ。

「何度も言いますが、マキさんが旦那様の関係者というだけでも十分に狙われる理由にはなります。それに加えて、異世界人だという事も公表されましたし、それを機にマリウス殿下も後見人の一人として旦那様と共に名を連ねています。守りを固めやすくなった半面、面倒な連中からは利用価値が高いと認識されているのは事実ですよ」

 これも、もう何度も言われている。

 ただでさえ兄はこの国ではかなりの有名人。そこへ異世界人である私が転がり込んでいるとなれば、余計に注目を集めるのは当たり前だろう。


 それはわかる。わかるんだけどっ。


「だからこそ、多少強引な手を使っても手中に収めたいと考える輩は多いんですよ。これまでに異世界人と認定されているのは、クルキスにいる聖女様姉妹のみでした。妹さんはあまり表には顔を見せていない事にはなっていますけど、上位の治療魔法を使いこなす事は知られています。ご本人は、別にお仕事をされていてクルキスには滞在していないという事は公にはされていませんが」 

「その、ハイスペックな異世界人さんたちと私を同一視されても困るんですけど?」

「自分たちに都合よく考える事しかできない連中に、そう言った言い訳は通用しないと言う事をそろそろ認識しましょうね」


 またきっぱり言われたよ!


 いや、下手に隠されたりするよりは教えておいてくれた方が全然いいんだけどさ!

「そもそもですが、ご自分を過小評価しすぎです。魔獣と会話ができるなんて、すごい事なんですから」

「それ、本当にすごいんですかね?」

「すごいでしょう。魔獣と意思疎通できるなんて、それこそ出来ることが広がる可能性があります」

 そうなのかな。そうとは思えないんだけど。

 私が魔獣と呼ばれる存在と会話できるとわかったのは、つい最近。

 パトリック君がお友だちを紹介してくれた時だった。



 **********



 この世界、魔獣と呼ばれる存在を飼いならして家畜化したりもしているので、魔獣が身近にいるのは珍しくもなんともないらしい。しかし、中には魔法で特殊な契約して縁を結んで使役する魔獣使い……テイマーとよばれる人たちが存在する。私もその素質があるらしいけど、テイマーの多くは一般的ではない魔獣を使役して様々な仕事を請け負っているそうです。

 テイマーの存在自体は、そこまで珍しいものではないとの事。ただ、稀ではあるけれどテイマーじゃなくても魔獣と契約できることはあるそうで、そんな魔獣と呼ばれる存在がこの家にもいると聞き、見たいと兄にお願いしてみたんだ。

「あ~……あいつ、パットを主に選んで契約しているから……見るのは構わんが、ビビるなよ?」

「え? なに、怖い系?」

「普通に考えたら怖いだろうな」

 そう言いながら、なんで魔獣を飼う事になったのか、その経緯を説明してくれた。


 魔獣は、数年前にミサキさんが幼体を保護して連れ帰ったことがそもそもの発端だったらしい。

 ミサキさん、趣味で迷宮攻略をする人らしく、その日も森の中にある迷宮に潜っていたそうだ。そして、予定通りに攻略して出てきたときに、魔獣同士の争いがすぐ側で繰り広げられていたらしく、いくつかの死体が転がっていたらしい。大型の魔獣は、縄張り争いで殺し合いになる事も稀にあるそうです。

 その時、息も絶え絶えな一頭が森の奥へ入って行くのを視界の端で捕らえ、何となく気になって後を追ったそうだ。そして、行きついた先は藪に覆われた崖の下。そこで力尽きたその体に、崖の方からみーみー鳴きながらその魔獣の幼体が二匹近づいてきたらしい。

 流石にそれを見てしまうと放置はできなかったようで、母親らしき魔獣はその場に穴を掘って埋めてやり、幼体は保護して連れて帰ってきたとの事。

 その帰りに、迷宮があった場所に一番近かった(そうは言っても、別の国)兄宅へ来て、タイミングよく揃って遊んでいたパトリック君とヴィクトル君に見つかったらしい。

 ミサキさんが抱っこしていた幼体たちを見て、触りたい抱っこしたいと大騒ぎになったようで、好きな個体を選ばせて抱っこさせたそうだ。


 ちっちゃい子(当時二歳)に、ぬいぐるみみたいな可愛いの抱っこさせたら放さなくなるのは当然だよね。


 まあ、ミサキさんはそうなるとわかっていてやったらしいけど、その後は兄やエレーヌさんたちが何を言っても頑として放さず、一緒に居るんだと揃って大泣き。ついに根負けした兄が、きちんと世話をすること、大きくなったら森へ返すと約束させていったんは引き取ったんだそうだ。

 で、二人とも張り切ってお世話して、大切に育てていたので様子を見ていたら、いつの間にか二頭とも契約された状態になっていたらしい。

 どうも、契約した魔獣って体のどこかに印が現れるらしいんだけど、ある時その印が魔獣の額に現れて大騒ぎになったんだって。契約者は誰だって話になって、改めて二人と話をしたら、どうも二人とも魔獣と会話している様子が見受けられる=魔獣と契約していると判明したそうだ。

 これ、後から分かった事らしいんだけど魔獣たち、大きくなったら森に返される(捨てられる)と思って、勝手に契約したことにしてしまったようだ。

 そんなこと出来るのかって思ったけど、どうやら上位の魔獣の中には知能も高く、そういった事が出来てしまう種類もいるようで、そこまで珍しい事ではないそうです。


 そう。上位の魔獣らしいんだわ。パトリック君たちのお友だち。


 見た目はふっさふさの豹みたいな感じで、通常の毛色は全身がグレーで体よりやや濃いグレーのヒョウ柄らしい。ただ、パトリック君たちのお友だちはアルビノで、全身真っ白で薄い黄色っぽいヒョウ柄。目は赤い。何と言うか、すごく綺麗。

 この魔獣、フォレスト・パンサーという種類で、名前の通り森林地帯に生息する大型の肉食系の魔獣。雷魔法(風の上位属性だそうです)を操る能力を持っている上に、身体能力は森に生息する魔獣の中ではトップクラス、単独で遭遇したらまず助からないと言われている種族だそうだ。まあ絶対数が少ないので、お目にかかること自体、ほとんど無いそうだけど。


 そんなモノを普通にお友達認定しているお子様たちがちょっと怖い。確かに、大人しくしていれば可愛く見えなくはないけどさ。


 ちなみに残りの一頭も、森へ帰ることなくヴィクトル君に可愛がられているそうです。

 ミサキさん、どうやら何かと狙われる立場の子供たちのボディーガードになるんじゃないかと考えて引き会わせたらしく、その思惑通りになっているとの事。

 で、私もそのお友達の存在を聞いて興味がわいたので、パトリック君にお友達を紹介してもらったわけなんですが。

 パトリック君の隣に、ポニーくらいあるんじゃないかって巨体がちょこんとお座りしているのを見た時は、腰抜かすかと思ったよ。

 でもね、パトリック君に大人しくなでなでされてゴロゴロ言ってるのを見てたら、もうネコにしか見えなくなって。

「でっかいネコだね……」

 って、思わず言っちゃったんだ。

 そうしたらその直後に、

『誰がネコか。一緒にするな』

 って声が、聞こえて来たんだよ。

 えっ、てなるじゃない。いきなり、聞いたことがない声が頭の中に響いてきて驚いていたら。

『ん? そなた、我の声が聞こえているのか?』

 キョロキョロしていたら、またそんな声が聞こえて来て。

『どこを見ておる。目の前にいるだろう』

 目の前と言われ視線を正面に戻しても、見えるのはきょとんとしたパトリック君とでっかいネコだけ。

 ただ、そこでまさか、と思い至った。

「え? このネコ、しゃべるの?」

「なに言ってんだ、お前」

 思わず呟いたら、速攻で兄に突っ込まれた。

『ネコではない!』

 ぐるる、と低い唸り声と共にそんな声が聞こえて来た。

「いや、ネコじゃん。パトリック君になでなでされてご機嫌になってるネコそのものじゃん」

『違うと言うに! 我にはビャクヤという名があるのだぞ!』

「え、白夜って言うの? なにその和風な名前、誰が付けたのよ」

 ネコが喋っていると言う事実に混乱しながらも、ついついそんな感じで話をしていたら、兄はぽかんとしてるしパトリック君は目をキラキラさせてるし。

「まきちゃんすごい、まきちゃんもビャクヤとおはなしできるの!? すごい!」

 パトリック君、大興奮。

「マキ、お前、ビャクヤが何言ってるかわかるのか?」

 少々困惑しているらしい兄に聞かれ、頷いた。

「だって、さっきから喋りまくってるじゃん、このネコ」

『ネコじゃない!』

「なんか、ネコじゃないって怒ってるけど」

「いや、マキ。あのな、普通は魔獣と会話なんてできないんだぞ? 俺は鳴いたり唸ったりしているとしか認識できん」

「へ?」

「魔獣と会話できる可能性があるのは、テイマーくらいだ。それも、契約済みの魔獣でよほど相性が良いとか魔獣の知能が高いか、そう言った場合のみなんだが」

「は?」

「それだって、絶対じゃない。パットはビャクヤとよほど相性が良いのか普通に話をしてるみたいだが、それは契約が成立しているって前提があっての事だぞ」

「うそっ!?」

 兄に説明されて、それはもう驚きましたとも。

 その後、パトリック君がヴィクトル君を呼んできて、彼のネコも紹介してもらって……こちらも、普通に会話出来ました。なぜ!?

『契約もなしに我々の言葉を理解する者がいるとは。何とも面妖な』

 開口一番にそう言われたよ。ヴィクトル君のネコさんに。氷河ヒョウガって言うらしいよ、この子は。


 しかし、面妖なって失礼だな、このネコたち。


 そう思った時に、ふと兄貴から聞いた話が頭をかすめた。

 このネコたち、数年前にミサキさんにみーみー鳴いてたとろを保護されたと言っていた。という事は、だ。

「にーちゃん、このネコ、まだ若い?」

「うん? はっきりとはわかっていないが、寿命が一説には五十年とも百年とも言われている種だからなぁ……というか、ネコじゃないからな? 成長は速いとはいえ、まだもう少しでかくなるだろうし、成獣には遠いな」

「成獣になるのにどのくらいかかるの?」

「八年から十年くらいではないかとは言われている」

「あ~……じゃあ、まだ普通なら親にくっついてる時期なのかな」

「そうだな。そろそろ独り立ちに向けての準備はするくらいかもしれんが」

「ふーん……」

 偉そうなことを言っていたが、まだまだお子様というわけだ、コイツラ。

 じろっと見ると、ビクッてなってる。虚勢張ってたな。

 さっと近づくと、最初に話しかけて来た方、両手でビャクヤのほっぺたを引っ張ってやった。みょーんってよく伸びる事。

『何をする!』

「こんの、お子様の分際で偉そうに! 私らに合わせたらいっててもまだ十歳前後でしょうが、子供は子供らしくしてなさい!」

『はなせ、痛い!』

「当たり前でしょ、つねってるんだから!」

『我はパットの守護獣だ! 早く大きくなって強くならねばならんのだ!』

「うっさい、大人ぶったって大人になれるわけじゃないでしょ! 一緒に大きくなっていけばいいのよ、無駄に背伸びしない! 疲れちゃうでしょーが!」

 そんな感じでぎゃーぎゃー言い合っていたら、もう一頭も乱入してきて同じように騒いでた。しばらくしたら、パトリック君とヴィクトル君に止められたけど。いじめちゃダメって。

 いじめたんじゃないよ、まだ子供なのに色々と我慢してるから、我慢しなくていいんだよって教えてたんだよって言ったら、二人して一生懸命になでなでしながら何やら言い聞かせてたよ。無理しちゃダメだよとか、嫌なことは教えてねとか、一緒に居てくれてありがとうとか。なんて可愛い良い子、パトリック君とヴィクトル君!


 そして、私は。


「成獣じゃないとはいえ、相手は牛を一撃で殺す魔獣だぞっ。もうちょっと考えて行動しろ!」

 兄からお説教食らいました。がしっと頭抱えられて、ぐりぐりされた。痛かったぞにーちゃん!

 とはいえ、図体のでかいお子様ネコたちは、自分たちを大切に育ててくれたパトリック君とヴィクトル君の為に強くなりたいと願っているのはわかったから、それは兄に伝えておいた。そうしたら兄、二頭にありがとうな、でも無理はしなくていいんだぞ、負担がかからない程度に頑張りなさいって言いながらなでなでしてたよ。

 どうやらネコたち、兄は逆らったらいけない存在と認識しているらしく、兄の前ではマジで借りてきたネコ状態。兄曰く、特に何かしたわけではないんだけど、最初からこんな感じだったんだそうだ。本能で兄のヤバさを察してたのかな? まあ、兄が名付け親でもあるらしいので、一応は従ってるだけかもしれないけど。



 **********



 こんなことがあり、自分がある意味特殊なスキルも持っているらしいと判明したわけですが。

 今の所は使い道なさそうだし、何かに役立つとも思えないんだけど、兄は出来るだけ隠す方向で調整すると言っていた。こういったあまり周知されていないスキルは公表しない方が無難なんだって。あ、テイマーの素質がありましたって言うのは、公表してるよ。

「別に、知られたところでって感じだけどなぁ。珍しいってだけでしょ」

 そう言ったら、クリスさんに溜息つかれてしまった。

「貴女がその認識を改めない限りは、危なくて目が離せません」

「そこまで?」

「そこまで、です。先ほども言いましたが、ご自分の価値を過小評価しすぎですよ。貴女、魔獣どころか屋敷に飛んできたフクロウとも話をしていたではありませんか」

「あれは……だって、なんかふらふらしてたし、お腹すいたって聞こえたから!」

 そうなんだよ。

 ネコさんたちと話せることがわかってから、ちょっと注意して周囲の声に耳を傾けていたら、それまでお屋敷の使用人さんたちの声だと思ってたのがそうじゃなかったって事が何度かあった。気づかなかった自分もどうかと思うけどさ、まさか警備用に飼われている犬たちの会話が聞こえてたなんて思わないじゃん!

 まあ、気づいてからは聞かないようにはしていたんだけど、ある時、外から『お腹すいた』って可愛い声が聞こえて来たんだ。

 さすがにちょっと気になって庭に出て見たら、木の枝にフクロウがいた。

 見た感じで、元気ないなってわかるくらいだったんで気になってしまって、そっと近づいてどうしたのって話しかけてみたんだよ。そうしたら、また可愛い声で『お腹すいた』って言うからさ。

 お肉とお魚、どっちがいいって聞いたらお魚は食べないって言うじゃん。それで、急いでキッチンへ行ってお肉を少し貰ってきて庭に戻って、おいでって言ったらふらふらと目の前に飛んできて地面に降りて。

 お皿に盛ったお肉を置いてあげたら、がつがつ食べてた。

 で、食べ終わった所で話を聞いたら、親元から自立したけれど狩りがうまく出来なくて、もう何日もご飯食べてなかったらしい。

「餌付けして、完全に懐かれましたよね」

「うっ」

 クリスさんの指摘に、返答に詰まってしまった。

 だってその時のフクロウさん、完全にペット化している。女の子だったからルナちゃんって名前つけたら喜んでくれて、もっふもふな体をこすりつけてくるから可愛くて!

 兄に話した時は呆れられたけど、まあ、フクロウ一羽くらいは問題ないと許可を貰えたので、そのまま部屋にお招きしましたとも!

「どうやら、貴女は魔獣以外にも好かれる性質のようですから。人に対しても警戒心が薄すぎるところがありますし、本当に危なくて見ていられません。妙な連中に捕まっていい様に利用されるのが目に見えるようです」

 そう指摘されたけど、なんか納得いかない。

 魔獣と話が出来るだけじゃん。それが、何かしらの利益に繋がるとは思えないんだよね。何か役に立つことってあるのかね?

「納得されていないようですので、例えを一つ」

 見抜かれてた。

「魔獣と会話が出来るという事は、魔獣から情報を得る事が出来るという事にもつながります。例えば、体の小さな魔獣や鳥型の魔獣を旦那様の屋敷に侵入させ、どこに何がある、警備はどこにどう配置されていると言った情報を探ることが可能かもしれません」

 説明され、ハッとなった。

 確かに、そうだ。

「諜報活動をする上ではかなりの有効手段となるでしょう。他にも色々な可能性があります。その力をどう使うかによっては、貴女の価値は計り知れないものとなるのですよ」

 クリスさんに指摘されて、その可能性に気づいて。

 背中がゾクッとなった。だって、私の存在が、何かを大きく歪めてしまう可能性がある。

「ですが、旦那様の庇護下にいる以上、その心配は無用でしょう。貴女に害なすものを旦那様が見過ごすことはありませんし、徹底的に排除なさるでしょうから。私としても、そんな連中を生かしておくつもりはありませんので、ご安心を」

「……いま、ものすごく物騒なことさらっと言いましたよね?」

「そうですか?」

 なんか、すまし顔で当然ですって感じで言ってくれたけどさ。こっち来てからの兄やクリスさんを見てるから、それを否定できない自分がいる……!

 まあ、取り敢えずは考えても仕方ない事なので、私は私に出来ることをするしかない。

 まずは、一人でも街に行く許可が下りるように頑張ろう。



 **********



 まあ、そんな決意をしてみたものの、兄からは取り敢えずこの家で学べることが有る間は大人しくしていろと言われましたが。


 でもね、この家、明らかにオカシイんだよ。


 転移して来た私が違和感なく過ごせている時点で普通じゃない。だってこの所、お城へ行ったりクルキスへ行ったりと他の貴族のお屋敷ってのも見たけど、この屋敷が飛びぬけてオカシイのは早々に理解したしこれまでに何度も指摘してるけどさ。本当に、なにしちゃってんの、にーちゃん。

「電力の代わりに魔力、燃料の代わりに魔石、家電の代わりに魔道具が発達したって考えれば、そこまでおかしなことでもないだろう」

 つっこんだら、そう返された。

 言いたいことはわかるけど。

「その、魔道具がオカシイじゃん。何この家。最初にキッチン見て違和感を感じなかった時点で気付くべきだったんだろうけどさ、あまりにも違和感なさ過ぎて逆に疑問にも思わなかったんだよ? 現代日本のキッチンに慣れてる私が」

 そうなんだよ。あまりにも違和感を感じないキッチンだったんだよ。現代日本の標準的なキッチンに馴染んでいる私が違和感を感じなかったって時点で、かなりオカシイだよこの家。

 孤児院とかのキッチン見せてもらった事があるからわかるけど、移動可能な箱型のオーブンとかミキサーとかその他諸々の便利グッズ、普通にあるだけでおかしいから。

「不可抗力だから」

 兄がそっぽを向いて言い訳してます。

 兄宅とシルヴァン様宅は全体的におかしいんだけど、両家ともにキッチンが飛びぬけておかしなことになっている。その理由は、奥さんであるエレーヌさんだそうです。

 エレーヌさん、武の名門であるグランジェ伯爵家の跡取り娘だった事もあって、万が一の事態に備えて自身も騎士としての修練を積み、野営とかでも困る事がないように料理とかも一通り学んでいたんだそうです。で、料理を習っている時についでに簡単なお菓子の作り方も教えてもらったらしく、以来お菓子作りが趣味なんだそうだ。

 奥さん溺愛の兄が、それならと気合を入れて前世の記憶を頼りに色々とキッチンをより使いやすく便利にと改造していったらしい。そんな時にエルさんやミサキさんと知り合い、更にそれが加速していった結果が、今の状態だそうです。

 ちなみに兄曰く、キッチンはエルさんの家が一番すごいとの事。どう凄いのかって聞いたら、キッチンが売りのモデルルームみたいだと言ってた。なにそれ、ちょっと見てみたいんだけど。

「別に、にーちゃんの家だし好きにすればいいとは思うんだけどさ。お客さんとか来て見られたら困るんじゃないの?」

「そこは何とでもなるぞ。俺も一応、魔道具開発者として名が知れてるしな」

 そうだった。この兄、魔道具の開発者としてもそこそこ有名だと言ってたな。自分でそっち関係の商会立ち上げて成功させているくらいだし。

「……この世界のにーちゃん、色々とチート過ぎない?」

「俺程度でチートとか言ってたら、エルはどうすんだよ」


 兄以上にオカシイ人を引き合いに出されても。


 こっちに来てそれなりに親しく付き合う人も増えて来たけど、その中でもエルさんは断トツでオカシイ。普段は、知識豊富な常識人って感じで、色々と教えてもらう事は多いんだけど……なんかね、本当に色々とオカシイのですよ。もはや存在自体がチートどころではないと言っても過言ではないくらいに、オカシイ。

「エルさんの名前出すのは卑怯。あの人は別枠」

「まあ、そうだな」

 なんか、あっさりと納得されてしまった。

「納得しているけど、にーちゃんも十分に普通じゃないからね?」

「魔獣と会話できるお前に言われたくないわ」

 指摘したら、指摘し返された。

 これもね、エルさんと話していてわかった事なんだけど、転生者とか転移者って何かしら特技と言うか他の人とは違う何かを持ってるらしい。

 例えば私、テイマーっていう素質の他にも動物と言うか魔獣と普通に会話が出来たりとかする。これ、本来はあり得ない事らしいですよ。

 兄やミサキさんは身体能力的な加護みたいなものがあるそうです。

 ほら、筋力とかって鍛え続けないとすぐに落ちるじゃない。でも、兄達の場合はそれこそ半年とか寝たきりにでもならない限りは筋力が落ちる事はないらしい。おかげで仕事で忙しくしていても体力や筋力が落ちる心配もないので有難いって言ってました。あと、感覚がものすごく鋭いらしい。それこそ野生の魔獣並みって誰かが言ってた。兄がいまだに最強とか言われてる理由の一端がそれだそうです。やっぱり人外だ!

「……お前今、ものすごく失礼な事を考えなかった?」

「気のせいじゃない?」

 半眼でこっち見てるけど、危ない危ない。バレたら、こめかみぐりぐりされる。

「それよりもにーちゃん! この家、やっぱりこっちの世界の標準から外れすぎてない?」

「開発者の家なんてこんなもんだろ」

 気にならないようです。そりゃ、作ってる本人だしね。

 本当にね、キッチン以外にも便利道具がたくさんあるんですよ、この家。特に兄専用の工房なんて魔改造されまくってるからね。


 お世話になっている兄宅がこんな感じなので、この世界での普通を学んでいる最中の身としては、この家での生活って本当に参考にならないんだよ!


 なので、ここ数日は兄の許可を得て兄が信頼している人の家を見学させてもらったり、一般的な庶民の生活って事で使用人さんたちの実家にお邪魔させてもらったりもしているわけです。

 一般的な庶民生活なら、お屋敷の使用人たちの生活を見ればいいだろうって? 兄や兄の商会で開発された最新の魔道具を実験がてらに使いまくってるような人たちが、普通の一般的な使用人生活してるわけがないじゃん。そうじゃなくてもここの使用人ってかなり待遇良いみたいだし、少なくとも屋敷内で生活してたら一般的な庶民の生活からはかけ離れていると思う。普通じゃなさ過ぎるんだもん、こことお隣。

「つーか、この家の設備だけでも、どんだけ先行ってるんだろうね?」

「下手すると百年単位かもな」


 事もなげに言ってるよ、この人。


 でもまあ、百年単位ってのは大げさではないんだろうなって気はする。だってこの世界、ネットとかあるわけじゃないから、情報が遠方に伝わるまでにはそれなりに時間が掛かるわけですよ。大きな国だと、国内でも端から端まで伝わるのに下手すれば数週間とか掛かるわけです。主な移動手段は馬とか馬車だからね、この世界。まあ、手紙とかは魔鳥を使ったりもするらしいけど、確実ではないので重要な情報は人力が基本だそうです。

 情報伝達だけなら通信の魔道具もあるんだけど、所持しているのは本当に一部。普通は国家間や国内でも各防衛拠点との連絡用とか、割と大手の商会とかでは普通に使われているらしいんだけど、兄みたいに個人で所有しているのは多くないらしいですよ。しかも兄が持ってる奴、普通の通信用魔道具じゃないし。

 あとね、このお屋敷、空調設備(?)も充実している。お屋敷全体にエアコンついてる感じ。過ごしやすいけど、おかしいでしょ。

「お城よりも快適って、問題にならないの?」

 お城は建物内でも場所によっては全然室温とか違ったからね。本来はあの状態が正しいはずなんだけど。

「うらやましいとは言われる」

「言われるんだ」

「お忍びで来た事もあるからなぁ」

 若干、呆れをにじませた兄に、誰がとは聞けなかった。だって、その状況でお忍びで来るって時点で、該当者はかなり限られてくる。

「お前の予想は外れてないと思うぞ」

 こちらの思考を察したらしい兄に言われた。

「そんな電撃訪問いらないんだけど」

「アポなしで来られると防ぎようがないんだよ」


 アポなしで来るのか。


 それは確かにどうしようもないわ。しかも兄のこの様子を見ると、一回二回って感じじゃないよね。

 そんな意味を込めて見ていたら、でっかい溜息ついたよ。

 兄の話によると、どうやらリオネル陛下は学園時代にシルヴァン様と意気投合してから、ちょくちょく来るようになったそうです。今は頻度こそ減ってるけど、来るんだって。全然知らなかった。

 マリウス殿下は魔道具関係で兄とはよく話すをするそうで、相談がてらに来ることがあるそうです。ただ、この二人はきちんと連絡した上で来るって。


 ん? でもさっき、アポなしで来るって言わなかった?


 そんな疑問が頭に浮かぶ。

「まあ、義兄が一緒に来るし護衛も少ないながら連れて来るからまだいいんだが……一度だけ、本当におひとりで来られた事があって、あれはマジでビビった。心臓に悪い」

 続いた兄の言葉に、あれ該当するの一人しかいないじゃんと、そう思い当たってしまった。


 だって、その言い方だとアポなし電撃訪問かますのって、前国王様だよね?


「え? 王様がお友だちだったの?」

「バカ言うな、恐れ多いわ」

 聞いたら速攻で否定された。

 じゃあ何でって聞いたら、要は新しいもの好きらしい。先代の王様。

 王子二人を生んだ以外は全くと言っていいほど何の役にも立たなかった前王妃様の尻ぬぐいと通常業務で、本当に余裕がなかったらしい前王様、同級生で仲の良かった宰相様の家に愚痴りに行くことがよくあったらしく、そのついでにこっちへ来ることが何度かあったらしい。宰相様の所には兄が関与した珍しい魔道具があったりするので、それに興味を持って……という流れだそうだ。毎回。

「ああ、宰相様と王様が仲良しなんだ」

「お互いに遠慮がないから、会議とかで意見が対立するとすごかったらしいぞ」


 それは、同席した人たちの胃が心配になるね。

 

 宰相様は何度か会った事があるけど、見た目ほど取っ付きにくい人ではなかった。国の重鎮だし頭の固い人かなと思ってたら、全然そんなことなかったし。初対面の時に兄の妹だって認識されているとは思わなかったよ。まあ、兄が事前に説明していたらしいんだけどさ。

「見た目とのギャップ凄いよね、宰相様って」

「まあ、な。見た目は厳ついし堅苦しそうだし頭固そうだし」


 にーちゃん、酷いな。


「でも、優しいよね。私にも、ものすごく気を使ってくれるよ」

「俺の妹って時点で義兄にとっては身内だから。あの人、身内認定した相手は本当に大切にするんだよ」

 うん、そんな感じはしてた。兄の事も自慢したくて仕方ない感じだったし。でも、兄の今の言い方だと、身内ってだけで大切にするわけでもなさそうな気が。

 そして、それは気のせいでも何でもなかった。

 兄曰く、宰相様は基本的には身内には優しいけれど、それは宰相様が認めた人に限るのだそうです。

 例えば、色々と問題ありすぎた前カンタール侯爵夫妻。夫人が宰相様の従兄妹だったらしいんだけど、身内認定した事はないんだそうですよ。なぜかと言えば、コイツラ幼いシルヴァン様を虐待するような人でなしだから。そもそもシルヴァン様を兄が引き取ったのも、虐待の噂を聞きつけたエレーヌさんが兄に相談、調べた結果が真っ黒。慌てて多方面に根回しして連れ出したんだそうです。よくやった、にーちゃん!

 で、シルヴァン様救出後、カンタール家は徐々に衰退、兄が継ぐまでの数年間は没落一歩手前な状態だったらしいんだけど、どうやら宰相様が裏で色々とやっていたらしいです。……兄もちょいちょい嫌がらせみたいなことはしていたらしいんだけどね。宰相様は、爵位以外に縋るモノがない人でなしどもが、爵位を手放さざるを得ない状況へと追い込んでいたらしいよ。こわっ!

 まあ、こんな経緯があり、兄夫婦はシルヴァン様をそれはそれは可愛がって大切に育てた結果、現在の両親大好きなハイスペック息子が誕生したんだそうです。ゲームのシルヴァン様より実際のシルヴァン様の方が数段ハイスペックになってる気はするんだけど、絶対に兄の影響受けまくってるでしょ。

「でもさ、いくらお偉い貴族様の家とは言え、王様とか気軽に遊びに来る家ってどうなの?」

「ホントだよな」

 兄が疲れた顔をしています。気持ちはわかる。

 だってさ、それって、自分が住んでる国の首相クラスの人がいきなり家に来るようなもんでしょ?  ビビるなって方が無理だと思うの。

 でも、その主な原因って。

「にーちゃんが、あっちの世界の知識を利用してポンポン新しい魔道具を作らなければ、そんな事にならなかったんじゃない?」


 少なくとも、マリウス殿下が通ってくるようなことにはならなかったんじゃないかな。


「……言うな」

 さすがに自覚はしてるらしい。

 いやでも、記憶取り戻した時点でこっちの生活不便に感じるのは仕方なかっただろうし、付与魔法が使えちゃったのもある意味良くなかったんだろうね。便利だったころを知っていれば、それに近づけたいと思うのはある意味し方のない事だろう。自分で作れるんだし。

 その結果、この家の魔改造。

 エルさんやミサキさんと知り合って更に加速したらしいけど、それもある意味、相乗効果で当然の結果だよねぇ。

「いっその事、お城ごと魔改造しちゃえば?」

「それやると国内貴族どころか他国からも問い合わせ殺到するだろーが」


 ああ、そうか。そう言った可能性もあるわけか。


「ウチは俺が魔道具職人って知れ渡ってるから見慣れないモノがあっても言い訳できるが、他だとそうもいかん」

「シルヴァン様のお屋敷は?」

 あっちのお屋敷も、かなり魔改造されていたけど。

「あそこは俺がもともと住んでたんだぞ」

「あ、そっか。シルヴァン様が継いだ時には魔改造済みな状態だったわけか」

「そういう事だ」


 なるほど、納得。


 そもそも、魔道具を作れる人間がそう多くない上に材料が特殊で値段が跳ね上がりがちだから、普及させるのは難しいんだそうです。量産体制は簡単には整えられないらしいしね。それでも、庶民向けの生活向上に繋がりそうな魔道具は頑張って値段を抑える努力はしているらしいよ。その分、貴人向けの贅沢品に上乗せしているそうです。 

「はぁ……一応、色々と考えているんだねぇ」

「一応ってなんだ、失礼な」

 いや、だって、兄の事だから趣味に突っ走った結果じゃないのかって思ってたんだよ。

「大半は旦那が気の向くまま趣味に走って作っただけで、その内のいくつかがたまたま大衆受けして爆発的に売れてたってだけですよ」

 いつの間にか来ていたザックさんがお茶を淹れてくれつつ、そう解説。あ、お茶ありがとうございます、いい香り。

「たまたまってなんだよ!」

「ああ、またまたではありませんね。奥様からキッチンで使える何か良い道具はないかと相談されて暴走した結果でしたね」

「にーちゃん……」

 その光景が容易に目に浮かぶのは気のせいだろうか。

 兄、ザックさんに言われて何も言い返せなかったらしく、ふいっと横を向いた。すねるなよ、いい歳して!

「まあ、旦那の暴走のおかげで当時のグランジェ家の資産がとんでもなく増えたのは事実です。しかもその時の魔道具がきっかけでミサキさんと知り合い、更にエルヴィラさんに繋がるのですから、本当に何がきっかけになるかわからないものですよ」

「へぇー、エルさんたちとの出会いって、そういう経緯だったんですね」

「ええ。グランジェ家に年に数回来ていた行商からの紹介です。たまたま旦那が作った魔道具を見て、似たようなものを作る職人を知っているという話になりまして。試しに旦那が作った魔道具をいくつか預けたら、ご本人が来襲するという結果になりました」

「来襲」


 そんな、攻めて来たみたいな言い方どうなの。


 そう思ったんだけどね、ちゃんと聞いたら来襲で間違いなかった。だってミサキさん、いきなり飛竜に乗ってきたって言うんだもん! 半ば強制的に同行させられたらしい行商のおじさん、腰抜かしてたって。

「普通に、最短ルートでも五日はかかる距離です。それをわずか半日かからずに来たんですから、本当に驚きですよ」

「それ以前に街の中に飛竜が来たってんで大騒ぎになっただろうが」

「フル装備の騎士団が押し寄せてきましたからねぇ」


 ザックさん、それ、そんなしみじみ言う事?


 サラッと聞いた感じだと、ミサキさんが乗ってきた飛竜って、高ランクの冒険者がたくさんいて何とか倒せるくらいの魔物らしいよ。というか、この世界では前提として竜と呼ばれる種類の魔物を飼いならすことは不可能とされているらしく、ミサキさんみたいに乗り物代わりにしている人なんて、記録上ですら存在しなかったんだって。

 まあ、ミサキさんはちゃんと拠点を置いている街の冒険者ギルドを通して自分の騎獣だと登録していたし、それを証明するタグも付けていたので問題なかったらしいけど、それでも確認が取れるまでは大騒ぎだったそうだ。

「ウチが騎士団に囲まれたからな。俺が知り合いの冒険者だって説明するまでマジでヤバかった」

 その後は兄の元近衛騎士としての知名度と信頼度、ミサキさんが自らSランク冒険者であることを証明したので、一応はお咎めなしとなったそう。厳重注意は受けたみたいだけど。

「ミサキさん、大胆」

「大胆どころの話じゃねーわ」

 ぽそっと呟いたら、兄に速攻で突っ込まれた。まあ、そうだろうけど。

「強制連行された行商の親父は完全に腰抜かしてたからな。マジで気の毒だった」

 そりゃ、主な移動手段が馬とか馬車なこの世界の人からしたら、空飛んで移動とか有り得ないでしょ。しかも、五日掛かる距離を半日? どんだけスピード出るのよ。

 哀れな行商のおじさんは、兄宅で一晩ゆっくりした後、正規ルートでお帰りになったそうです。ミサキさんが送るって言ったらしいんだけど、断固拒否してたって。そりゃそうだ。


 なんかもう、本当に普通じゃない人たちに囲まれてるんだなぁと、改めて思ったよ。







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