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05 手続き色々


 属性とかが判明したことで、ますます兄の過保護が暴走しております。

 他のみなさんに言わせたら暴走でも何でもないらしいんだけど、どうもまだこっちでの感覚と言うか常識がよくわかってない事もあって、過保護な気がしてならないのですよ。

 で、その後数日、兄はあちこちに連絡したり報告に行ったりと忙しそうにしていたんだけど、今朝になって兄からちょっと出かけるから一緒に来いと言われ、只今馬車に揺られております。

 なぜかどこへ行くのか教えてくれなかった。でもね、兄が騎士っぽい服装してるんですよ。ていうか、近衛騎士の制服姿なんです。


 なぜ近衛騎士の恰好をした兄に連れ出されたんでしょうかね、私。おかしいよね、その格好している時点で向かう先の選択肢なんて限られてるんじゃないかと思うんだけど。


「……にーちゃん」

「なんだ?」

「どこ行くの」

「……そろそろ見えてきたな」

 そう言いながら、窓から外を見ろを促された。


 なんだろう。なんか、ものすごく大きな建物が見えるんだけど気のせいかな。


「なんか、お城みたいなのが見えるんだけど」

「城と言うか王宮だな」


 さらっと、とんでもない事言いやがったよ、この人。

 なんで私が王宮へ行くのさ!?


 猛抗議したら、深々と溜め息を吐かれた。

「言っただろうが。ただでさえ珍しい光属性、訓練次第で上級の治療魔法も使える可能性がある素質、これだけで国への報告は必須だ。そもそもお前が異世界人だって事でも報告済みだから、どちらにしろ近いうちに連れて来なけりゃならなかったんだ」

「なんでそんなことになってんの?」

「現在、確認されている異世界人としてはお前が三人目だ。馬鹿どもを牽制する意味でも、国として保護する方向で話はついている。ただ、身元引受人は俺だし、基本的にお前の暮らしに国が干渉することはない。たまの交流くらいは求められるかもしれんが、まあ、基本的には今と変わらん生活が保障されるだろうよ」

 どうやら兄、ここ数日忙しくしていたのはこれらの件をまとめる為だったらしい。

 何と言うか、こっちに来てからずっと守ってもらってたけど、私が知らない間に本当に色々と尽力してくれていたらしい。呑気に過ごしてた自分を殴りたい。

「取り敢えずは、色々と手続きがあるんで時間が掛かる事は覚悟してくれ。後は……まあ、義兄がうるさいかもしれんが、適当にあしらっとけばいいから」

「宰相様をあしらうとか、出来るわけないでしょ」


 何を言っているんだ、この兄は。


 そんな感じで話をしつつも、気づけば目的地にどんどん近づいて行ってる。……それにしても、お尻が痛い。

 乗る前に、兄がクッション用意してくれたんだけど、それでもお尻が痛い。ザックさんが言ってた通り、これ長時間は乗ってられない。絶対に無理。

 でも、今はお尻痛いのなんて吹き飛びそうなくらい、緊張してきた。だって、王宮の敷地内に入ったと思ったら、明らかにこっちじゃないだろうって方向へ進み始めたんだよ!?

「あの、こっち違くない……?」

「大丈夫だから、そう固くなるな」

 早くもガッチガチな私を、兄が苦笑交じりに見ている。

「お前に面会希望している連中がいるんだが、こっちの方が近いんだよ」

「は? 面会希望って、宰相様じゃないの?」


 しかも、複数形?


「行けばわかる」

 答える気はないらしい。おのれ。

 元々、拒否権はないらしいので、このまま大人しく付いて行く以外に選択肢はないんだけどさ。なんかもやもやするんだよ。

「ていうか近衛騎士、続けてたんだね」

「成り行きでな。まあ、俺は教育担当で今は週に二回の勤務って事になってる」

「そうなの?」

「ああ」


 教育担当……何するんだろ?


 ちらっと聞いた限りだと、兄は結構強いらしい。慕っている後輩も多いって、レティちゃんが言ってたんだよね。あ、元悪役令嬢レティシアとは仲良しですよ。というか、仲良くなりました。可愛いし優しいんだよ、あの子。自分なら年が近いから色々と力になれるかもしれないからって、わざわざ会いに来てくれて。そこで色々と話をしていたら、偶然にも私と同じ年だったこともあってね、意気投合してしまったんです。

 兄と色々な話をしているうちに馬車はとんでもなくでっかい建物群の中へ……王宮って、こんなにでっかいの? ここだけで小さな町くらいありそうなんだけど。

 規模の違いにぽかんとしてたら、馬車はその間にもどんどん進んで、気づけば一つの建物の入り口らしき所で止まった。

 兄に促されて馬車を降り、すたすた歩いて行く兄の後を慌ててついて行く。

 途中、すれ違った人たちに挨拶される兄を見ていると、ここでは偉い人らしいってのが良くわかった。妙にヘコヘコしている人と、親し気に挨拶してくる人と両極端だったのが気になったけど。

「ここだ」

 兄が扉の前で止まった。ノックすると、すぐに中から応答が。

「失礼します」

 兄が入って行ったので、後をついて中へ入ると。

「……どうした?」

 固まった私に、兄が声を掛けてくるが。


 どうしたじゃないよナニコレ!? リオネル王子にマリウス王子、シルヴァン様とその隣は公爵令息のディオン!? どうなってんのこれ!


 私の視線で気付いたんだろう兄が、横ででっかい溜息ついてる。仕方ないじゃん、これで興奮するなとか無理な話。こんなとこに予備知識なにも与えずにつれてきた兄が悪い。

「落ち着け、頼むから」

 頭をぐりぐりなでられた。やめて、髪がぼさぼさになるっ。

「その様子だと、自己紹介はいらなそうだね」

 くすくす笑いながら言ったのは、マリウス王子だ。ゲームだと婚約者の傲慢さに嫌気がさして女性に対してはかなり冷たい感じだったけど、雰囲気が全然違う。なんていうかこう、全体的に柔らかな雰囲気というか、優しそうと言うか。というか、皆さんゲームより大人になられて魅力が……視界の暴力だよ、これ。

「突然、招いて申し訳ない。ルシアンの所に異世界人が現れたと報告を受けてね、どうしても話を聞いてみたかったんだ」

 内心の大興奮を何とか抑え込みつつ落ち着こうとこっそり深呼吸してたら、マリウス王子が爆弾発言してくれた。


 報告、と言ってたから宰相様とかその周辺だと思ってたのに、待ち構えていたのが王族って! しかもこうなることわかってて連れてきたよね!? 酷い、にーちゃん!


 イラっときたんで、足踏んでやった。ちょっと顔しかめてたけど、しらない。

 それから一応、という事でお互いに自己紹介することに。

 そこで知ったんだけど、リオネル王子、もう王様になってた。陛下って呼ばなきゃいけない人だった。王道のメイン攻略対象だったこともあって、そのスペックは言わずもがな。王位について二年目らしいけど、早くも評判良いらしい。

 マリウス王子は王弟として王族に残ることになって、王宮魔導師の最高責任者って事になってるんだって。なんでも、卒業後にグラフィアスって国に留学して付与魔法を学んで、いまはこの国に設置された転移門の管理とかもしているらしい。というか、転移門って何?

 シルヴァン様は近衛騎士団に籍を置きつつ、リオネル陛下の側近兼護衛として仕えているんだって。なにそれカッコいい!

 ディオンは宰相であるお父さまの後を継ぐべく勉強中らしいよ。あれ確か兄がいたはずだよなと考えてたら、お兄さんが外交官としての仕事がしたくてそっちに進んだらしい。今は外務大臣補佐をしているけど、すでに次期大臣に内定しているそうだ。さすがだわ、ゲームの中でも秀才兄弟って設定だったもんな。

 そして、自分の番になった。

「えーと……江田真紀と言います。こっちにあわせると、マキ・エダでいいんだよね?」

 あってる? って意味で兄を見たら頷いてくれた。良かった。

「なぜ、自分がここにいるのかは本当に私にもわからなくて……気づいたら兄の家の裏にいた感じだったので」

「「兄?」」

 ここで、シルヴァン様以外の三人の声がそろった。

 あれ、これ言ったらいけなかったのかな?

 一瞬焦ったけど、兄がポンっと私の頭に手を置いて、

「このマキは、私の前世で妹だった存在です」

 さらっと、そう言った。

「「は?」」

 あ、また声がそろった。

 三人の視線が、私と兄を行ったり来たりしている。まあ、そうなるよね。

「えと……いや、ちょっと待てルシアン。お前、前世の記憶があるのか?」

「そうです」

 またもやあっさりと兄が肯定したもんだから、三人の顔が困惑に染まってしまった。

 そして、困惑した顔のまま視線がシルヴァン様へ。

「シルヴァン……知ってたのか?」

「当然です」

 こちらもあっさり肯定。

 どうやら兄、ゲーム開始くらいの時期にシルヴァン様には一通りの事は話していたらしい。その上で色々と協力してもらって、一緒にレティちゃん守ったんだって。

 兄の家でシルヴァン様と初めて会った時に、あまりにも普通に接してくるからなんでろうって思ってたんだよ。そうしたら日を改めて会いに来てくれたレティちゃんが色々と説明してくれて納得したと言うか。

「はぁ……どうりで。そういう事か」

 あれ、なんか思ったよりあっさり納得されてる。

「……兄さん、なにやらかしたの?」

「やらかした言うな」

「いや、だって。なんか、あっさり納得されてるよ?」

「あ~……まあ、魔道具関係で、色々とこの世界にはなかった道具を作ったりはしたからな」


 この世界になかった道具って!


「やらかしてんじゃん!」

「別にやらかしたわけじゃないだろっ」

「やらかしてるでしょーよ、十分に! あの家はあんまり違和感感じなかったのに、一歩外出たら違和感だらけでなんでだろうって思ってたらそれか!」

「あの家は俺仕様になってるっ」

「にーちゃん、それ胸はって言う事じゃないからね!?」

 兄の胸倉掴んでがっくんがっくんさせてたら、小さく噴き出す声にハッとなった。

 見ればシルヴァン様、顔を背けてるけど肩が震えてますよ。そして、お三方はぽかん顔。


 しまった、私もやらかしたよ。


 王様というか王族というか、国の重鎮たちの前でこの失態。さすがにマズいかな。

 内心、冷や汗だらだらだったんだけど、どうやら杞憂だったらしい。

「……うん。間違いなく兄妹だな、これは」

 ぽつりと呟かれたリオネル陛下の言葉に、他の二人も頷いている。

 え、なんで?

「叔父上が完全に素だった」

 いささか信じられないって顔をしてディオンが呟き。

「エルさんたちと話をしている時に近いものがあったね」

 マリウス殿下は、なぜか納得顔。

「はあ……シルヴァンが、家だと全然違うと言っていたのはこれか」

 そして、リオネル陛下もなぜか納得顔だった。なぜ。

「まあ、そうですね」

 否定しないんだ、シルヴァン様。

 ……ん? ちょっと待って、マリウス殿下、さっきエルさんって言ったよね?

「エルさんって、エルヴィラさんですか?」

「そうだよ。もう会ってたんだ」

 会っていたと言うか、こっちに来たその日に会ってます。多分、私に起こっただろうことを一番正確に把握している人ではないだろうか。

 それを言っていいのかわかんなくて黙り込んでいたら、代わりに兄が応えてくれた。

「妹が屋敷の裏手に転移してきたとき、魔道具の打ち合わせで我が家に集まっていました」

「ああ、そうだったんだ。でも、彼女の様子からしてエルさんの事は詳しくは知らないのかな?」

「まだきちんとは説明していません」

「なるほど。でも、エルさんが知っているなら、何かしら進展は望めるんじゃない?」

「はい。今は可能性を探ってもらっているところです」

「そっか。こちらで協力できそうなことがあれば、遠慮なく言ってほしい」

「ありがとうございます」

 こんな感じで、なんか王族の方々からもお墨付きをもらえたらしい私。というか、兄の前世の妹ですが通用すると思わなかったよ。びっくりだよ、本当に。

 その後、色々と聞かれましたとも。

 特に私の持つ知識について興味津々だったのがマリウス殿下。どうやら殿下も魔道具を作れる人らしくて、例えばこんな道具ありますよって言ったら食いついてきた。ついでに車のことも(兄に確認とって、許可を得てから)話したら、全員がものすごい勢いで食いついてきた。今度、乗せる約束しました。

 しばらくそんな感じで話をしていたらだいぶ慣れてきて、和気あいあいしてたら宰相様と身なりの良いナイスミドルな感じのおじさまが入って来て。

 誰だろうって首を傾げてたらマリウス殿下が呆れたように父上って言ったものだからびっくり。

 先代の王様だったよ、マジでびっくりだよ。

 思わず兄を見たら、兄も知らなかったらしく首を横にぶんぶんしてた。完全に予定外だったらしい。

 予定外の乱入もありましたが、無事(?)に王家の方々との顔合わせと手続き諸々が完了しました。兄がちょっとだいぶぐったりしてたけど、まあ……しかたないよね。あれは。


 あ、そうそう、車なんですけど。荷物の件も意味不明だし原因不明のままだけど、ガソリンもですね、一晩経つと満タン状態に戻ってました。これでガス欠の心配はない! なので、皆さんを載せますとお約束できました。じゃないと、何時ガス欠になるかわかんないから、迂闊に約束できないしね。

 まあ、これでスマホとタブレットの充電問題も解決!

 タブレットは兄が抱えて放してくれません。色々な音源とか電子書籍の他、兄が好きそうな某曲芸飛行隊や某外国の島全体がサーキットになるバイクレースの動画とかたっぷり入ってたんで、しばらく貸してくれと懇願されました。ああ、そう言えば電子書籍、未完物がまだ結構あったのに……! きっと兄もいいところで終わってる作品を見てもやもやするに違いない。兄も私と一緒に、もやもやすればいい。



 **********



 さて。

 お城で諸々の手続きを済ませ、取り敢えず王家から身分証を発行してもらえることになりました。ただこの身分証、がっつり王家の紋章が入ってるらしいので、ちょっと迂闊には使えない。お出かけしたときに身分証の提示を求められてそんなもの見せたら、大騒ぎになるのは目に見えている。

 というわけで、たまたま来ていたミサキさんに相談してみた。

 手っ取り早く身分証明書代わりになる何かがほしいと言ったら、だったら冒険者ギルドに登録すればいいと言われたよ。


 冒険者。


 一応、ゲームとかで冒険者ってシステムはわかってるつもりだけど、私の知識と全く同じってわけではないだろうから確認したんだ。そうしたら、この世界では冒険者ギルドって国際的な組織となっているようで、各国や地域に支部はあるけど本部とされる中枢はミサキさんがいる大陸の、特殊な自治区にあるらしい。そこは国際協定で不可侵条約が制定されている場所で、どの国からも干渉を受けることはないようだ。もちろん、この自治区が他国に迷惑をかけるような事をしない事が前提となっているらしいけど。

「登録だけなら誰でもできるが、知り合いがいれば手っ取り早い」

 という事を教えてくれたミサキさんが一緒に行ってくれることになった。

 登録は冒険者ギルドならどこでもできるらしく、登録するだけだったら無料。その場で基本情報が詰め込まれたギルドカードを発行してもらえるそうだ。

 このカード、見た目はただの金属プレートなんだけど、魔道具に分類されるものらしい。冒険者ギルドに設置されている特殊な魔道具で情報を確認できるらしく、達成した依頼とかの記録は所持してさえいれば勝手にカードへ情報が蓄積されていくらしい。

「へぇー、ただの板にしか見えませんけどね」

 ミサキさんのカードを見せてもらいつつ、呟く。

 彼女のカードは黒で、表面には名前と現在の所属ギルド名が記されているのみ。

「ありがとうございます。なんか、魔道具って色々と便利なんですね」

「まあ、便利っちゃ便利だな。基本的に、多機能なものは作れんけど」

「そうなんですか?」

「ああ。魔道具化するにあたって組み込む術式の関係でな。その辺りの開発がうまくいけば、もうちっと便利なものも色々と作れるんだが」

 情報の記録と更新ができるって言ってたから、もうちょっと工夫すればパソコンみたいなものを作れるんじゃないかって思ってたんだけど、どうやらそう簡単には行かないようだ。

 二人で話しをしつつ歩いて行くと、大きな建物に到着。

「ここだ」

 開けっ放しの入り口から中に入ると、なるほどと思う光景が広がっていた。

 色々な種族の人たちが、情報交換したり依頼が張り出された掲示板を見ていたりと、ゲームや漫画で見た場面がそのまま目の前にあった。

「すごい……!」

 内心、大興奮だったけど、ミサキさんがすたすたと進んでしまったのでおいて行かれないようについて行く。

 すると、カウンターの一番端っこの窓口へと連れて行ってくれた。

「ひとり、新規の登録を頼みたい。身元は私が保証する」

 そう言って、自分のギルドカードを受付に出したミサキさん。

「はい、新規……!?」

 受付のお姉さんが、固まった。

 ギルドカードとミサキさんを何度も交互に見ていたけど、ミサキさんは慣れているのかまったく気にしている様子はない。そして、その様子に近くにいた冒険者らしき人たちも何事かとカウンターを覗き込んで……数人が、目の前のお姉さんみたいに固まった。

 どうしたのかなと様子を見ていると、ミサキさんが、指でカウンターをトントン叩いた。それで、お姉さんがハッとなる。

「しょ、少々、おまち、くださいっ」

 そう言って、ミサキさんのカードを持ったまま大慌てで奥へ引っ込んでしまった。そして、後ろでは同じように固まってた人たちが集まって何やらヒソヒソ話している。

 そして、お姉さんのあまりの慌て用に他の職員らしき人たちはぽかんとしていたけれど、奥から体格の良い男性がこれまた大慌てで出てきたことで今度はギルド全体がざわつき出してしまった。

 一体、何が起こっているのかと様子を見ていると、その男性がミサキさん前まで来た。

「……ん? リカードか、久しぶりじゃん」

 ミサキさんが声を掛けると、その男性がにかっと笑った。

「マジか、本物か! 相変わらず暴れてるらしいな、ミサキ!」

「うっせーよ。つーかお前、姿見ねーと思ってたら、ここにいたのか。いつの間にギルマスになったんだよ」

「一昨年からだな。いや、元気そうで何よりだ!」

「いってーな、加減しろ! それよりも、登録」

 バシバシと肩を叩かれたミサキさんがこちらを見る。

「知り合いの妹だ。ちと訳ありでな」

「お前の知り合いで訳ありじゃねぇ奴のほうが珍しいだろ。嬢ちゃん、ここのギルドマスターのリカードだ。よろしくな」

 でっかい手を差し出されて一瞬戸惑ったものの、その手を握り返す。

「マキです。お嬢ちゃんは止めてください、これでもニ十六なんで」

「へぇ、そうは見えねぇなぁ。……ああ、ミサキ。お前の仲間か」

「しばらくは面倒見る予定だ。で、登録できんの」

「おう、すぐ済ませる。それじゃあ、取り敢えず登録前の確認事項と……ミサキ、記入方法は教えてやれ」

「了解。保証人、私一人で問題ないよな」

「Sランクが保証人で文句言う奴いねぇよ」

 豪快に笑いながら、リカードが言うと。

 一瞬、ギルドがシンッと静まり返り、一気にどよめいた。

 その反応に、ミサキさんがちょっと嫌そうな顔している。

「いまここ、Sいねーの?」

「残念ながら。なんだったら、移籍してくれてもいいぞ」

「面倒」

「つれねーな! まあ、登録が終わったら二人で俺の部屋に来てくれ。……案内、頼むぞ」

「わかった。ほら、マキ。ここ座れ」

「あっ……うん」

 促されて、席に座る。

 正面には、最初に対応してくれたお姉さんが、ちょっと顔をひきつらせた笑顔を浮かべていた。

「では、登録前にいくつかの確認と、登録までの流れをご説明しますね。まず、これが……」

 数枚ある書類をカウンターに並べ、お姉さんが一つ一つ丁寧に説明してくれる。

 私の後ろにはミサキさんが立っていて、一緒に説明を聞いていた。

 一通りの規約とか免責事項とかを聞いて、同意書にサインして。

 登録用の情報を記入する用紙に、ミサキさんから指示があった場所にだけ記入していくと、最後の保証人欄にミサキさんがサインしてくれた。

「これで頼む」

「はい。ギルドカード発行の準備をしますので、少々お待ちください」

 まだ、ちょっと笑顔が引きつっているのが気になったけど、お姉さんが自分の後ろにある箱の一部を開けると、下の台の引き出しから白いカードを取り出し、そこに入れた。

 そして、カウンターの下をごそごそして、何やら側面に筒状のモノが付いた球形のモノを置いた。

「マキ様、これに手をのせてください。掌全体を密着させるように……そのまま、指を筒の上部に置いてください。はい、そのままで動かないでくださいね。少しチクッとしますが、手を引っ込めないでください」

 あれ、ミサキさんのとカードの色が違うなとぼんやりしながら言われた通りに、筒状の上部に指を置く。お姉さんが位置を確認し、カードを入れた箱の表面にある赤い石に触れると一瞬だけど筒の上に置いた指先がチクッとして、同時にカードがピカッと光った。

「はい、もう大丈夫ですよ。こちらがマキ様のギルドカードになります。初回は無料で発行しますが、紛失や破損等で再発行となった場合は費用が発生しますのでご注意ください」

「わかりました」

「それと、カードの情報はあちらの魔道具で確認することが出来ます。使い方は……」

 そう言って、ちらりとミサキさんを見る。

「教えるからいい」

「畏まりました。それからカードの色ですが、全部で五種類あります。見習いに分類されるGが白です。Fに上がると初心者となりカードは緑色になります。DとCが中級となりカードはシルバーに、B以上は上級でゴールドのカードです」

「なるほど。色でだいたいのランクがわかるんですね」

「そうです。そして、黒は最上級であるSランクの証です。Sランクは全体を見ても現状では一桁の登録数しか存在しません。つまり、それだけ少ないんです」

「へぇー、そんなに少な…………え?」

 思わずミサキさんを見る。

 相変わらず、周囲からの視線に面倒くさそうな顔をしているけれど、彼女が出したカードは黒だった。間違いなく、漆黒のカードだった。

「ですので、冒険者をしていても拠点としているギルドにSランク保持者がいなければ、会える機会などないんです」

「あっ……それで、あの視線……」

 あちこちからこちらを伺うような感じの人が多いなとは思っていたけど、そんな理由だったとは。

 ミサキさんは、相変わらず我関せずを貫いているようだけど……わかっていて、完全に無視している。というか、まさかミサキさんがその一桁しかいないって言うSランク保持者とは。

「それでは、以上で登録は終了となります。何かありましたら、お気軽にお尋ねください」

「はい、ありがとうございました」

 ギルドカードを受け取り、席を立つ。

「そのまま、その職員と共に奥へお進みください。階段を上がって正面の部屋がギルドマスターの執務室となっております」

 いつの間に来ていたのか女性がすぐ側で待っていて、そのままミサキさん共々ギルドの奥へと案内されました。

 ミサキさんは慣れているのかなんでもなさそうな顔しているけど、始めて来たのにいきなり内部に入り込むって、ちょっと緊張するんだけど。

 案内してくれたお姉さんが一番奥の扉をノックすると、中から先ほどの男性の声。

 開けてくれた扉から中へ入り、促されてソファーに座った。

 お姉さんは部屋に備え付けられていた茶器でささっとお茶を淹れて配ると、ささっと退出してしまった。

「さて。ミサキ、いつくか質問させてもらうぞ」

「どうぞ」

「近々、国王が異世界人を保護したことを公表するそうだ」

「そうなんだ」

「……お前の同郷って事か?」

 ちらりと私に視線を送りつつ、確認している。

 あ、これは確信があるんだなとは思ったけど、私は口を挟まない。下手に何か言って、後からマズい事になっても困るし。これ以上、兄に迷惑はかけられない。

「そう言う事だ。ちなみにコイツの後見人、ルシアンだから。コイツになんかあったらアイツがガチ切れするぞ。冗談抜きで」

「カンタール侯爵か、それは……」

 呟いたギルマスさんの顔色が悪い。そんなにも兄って恐れられているんだろうか?

 こっちに来てひと月近くたつけど、姿は違えど兄は兄だし……あんなイケメンに生まれ変わってるのに、私には一緒に暮らしていたころの兄にしか見えない。基本的には優しくて頭が良くて、たまに大人げないあの頃の兄そのままだ。だから、何がそんなに怖いのかがまったくわからなかった。

 そんな疑問が顔に出ていたのかもしれない、ミサキさんがその理由を教えてくれたよ。

「あいつ、未だに大陸最強って言われてんだよ。実際、この国っつーかこの大陸じゃあいつに勝てる奴なんていないだろうし」

「え、そんなに!?」

「実力だけでもそれなのに、数年前に侯爵位を継承したし王族とはそれ以前から懇意。本人が権力に興味ないんで政治の中枢に食い込むことはしてないが、それでも王族への強い影響力を持っている。加えてかなりの資産家でもあるからな。あいつに敵対してる連中もヘタには手を出せん存在なんだよ」

「まあ、カンタール侯爵に喧嘩売ったら、潰されるのは仕掛けた方だろうしな」

 リカードさんも話に入ってきた。

 なんだろう……こっち来てから兄とは結構話してるはずだけど、そんな感じには全然見えないんだけど。子供好きは相変わらずだし。

「あそこのお抱え騎士、ルシアンが直接育てたのが多いだけのことはあるぞ」

「そうなんだよな……グランジェ家は元から武の名門だったけどよ、カンタール家もそうなる可能性が」

「あるんじゃねーの。それよりも、要件さっさと言え」

 ミサキさんが呆れたように促している。

 そうなんだよね、なんで呼ばれたんだがまだ聞いてないんだよ。

「ああ……まあ、大した用じゃねぇんだよ。Sランクが懇意にしている新人となると、やっかみも多いだろうからな。登録直後にここへ呼んだことが知れ渡れば、下手な事すると俺が動く可能性が高いと周りは思うだろうさ。……単純な脳筋が多すぎんだよ、ここの支部は」

 げんなりした様子で、そう説明してくれた。

「お前が大声でSランクと言わなければ、広まらなかったと思うが?」

 ミサキさんがジト目で見ている。私も知れは思った。

「アホか。堂々とブラックのギルドカードを提示した時点でバレバレだっつーの」

 呆れ気味に返されたミサキさん、黙り込んでる。確かに言われてみれば、普通にギルドカードをテーブルに置いてたな。あれで受付のお姉さん以外にも数人、固まってたし。

「まあ、お前に喧嘩売るようなバカは……いねーとは思いたいが、何かあればすぐに教えてくれ」

「軽く躾けるか?」

「ヤメロ。絡んでくるバカ共は好きにすればいいが、それ以外は止めてくれ」

「ちっ」

「舌打ちすんな!」

 なんか、どこに行っても誰を相手にしていても、ミサキさんはミサキさんなんだなぁと思ってしまった。ギルドマスターって、要するにここの一番偉い人だよね? 普通、ギルドマスターにこんな態度とる人っていないよね?

「とにかく! 嬢ちゃんに妙な気を起こさないように注意喚起しておくが、そっちでも対策はしろよ」

「ああ、護衛つけることになってっから問題ない」

「カンタールのお抱え騎士か?」

「いや、シルヴァンの側近」

「はっ!?」

 ギルマスさんが素っ頓狂な声を上げてる。そんなに驚くような事? というか、シルヴァン様の側近ってだけで、誰の事かわかってるのかな?

「側近って……あの、孤児院育ちの……」

「ご名答」

「金髪の悪魔……」

 呟くギルマスさんの顔色が悪い。


 いや、それよりも! なんか、悪魔とか失礼なこと言ってる気がするんだけどっ。


 あの優しいクリスさんを悪魔とかふざけてんのかと言いたくなるくらいイラっときたんだけど、ギルマスさんの様子を見ていると別に侮辱する意味で言ったわけではなさそうで。

 どういう事と思いながらミサキさんを見ると、ああと呟いてから説明してくれた。


 クリスさん、幼少期に兄に引き取られて当時のグランジェ家の私設騎士団に見習いとして入り、その当時から直接兄に指導されてめきめき頭角を現し、シルヴァン様の護衛を務められるまでになったそうだ。シルヴァン様も相当に強らしいけど、クリスさんはその上を行くらしく、政敵が放った刺客なんかも悉く葬ってきた事から恐れられる存在となっているらしい。

 穏やかなクリスさんしか知らない身としては、全く想像もつかないんだけど……

「色々と優秀ではあるけどな、クリスは。ただ、敵に対してはやりすぎる事が多々あるんで、悪魔なんて一部では呼ばれてるのも事実だ」

 ミサキさんはそう言ったけれど、そうだとしても失礼な話だと思う。

 反撃されるようなことをする方が圧倒的に悪いと思う。シルヴァン様の護衛なら、守ることを最優先に考えるのは当たり前だろうし、その結果としてやりすぎるのであれ、それは不可抗力だろう。

 そもそも、だけれど。

「あんなに穏やかで優しい人がそうなるって、それ、怒らせた方に原因があるでしょう」

「穏やかで優しい……?」

 正直に思っていることを言ったら、ギルマスさんにものっ凄く怪訝そうな顔をされた。


 え、何それ、どういう事?


 ギルマスさんの反応が腑に落ちなくて、こっちも怪訝そうな顔をしてしまう。

「勝手にバラすと後で制裁来るかもしれんぞ」

 ミサキさんが何やらギルマスさんに忠告してる。不穏なものを感じたのは私だけだろうか。

 そう思ったけど、どうやらギルマスさんも同じだったらしい、口を噤んでしまった。それを、呆れたように見ているミサキさん。

「取り合えず、マキに関してはしっかりと護衛が付くから問題はない」

「まあ……そうだな。カンタール侯爵の采配なら間違いはないだろう」

 なんか、この手の事には信用があるらしい。兄は。

「つーか、今更だけどよ。別に、ギルドカード作る必要なかったんじゃねーか? 王家が身元を保証してんだろ」

「王家の紋章が入った身分証なんざ普段使い出来ねーだろ」

「……まあ、それもそうか。それより、嬢ちゃん」

「マキです」

 嬢ちゃんは止めてほしい。

 そう思いつつ、ちょっと強めに言ったら目を丸くされてしまった。なぜ。

「ほう、さすがお前の知り合いだな。臆することもないか」

「ルシアン相手にも食ってかかるぞ、コイツ」

「マジか」

 なぜか、信じられないって感じの目を向けてくる。


 いやいやいや、公表は出来ないけどあの人私の兄だからっ。兄にちょっとした不平不満を聞いてもらってるだけだから! 兄妹でちょっと言い合いしてるだけだよ!


 そうは思いつつも、そんなこと口には出せない。そして本当に今更だけれど、ギルマスさんの話を聞いてたら兄って実はとんでもない人なんじゃないかと思い始めてる私。いや、私にとっては、にーちゃんはにーちゃんなんだけどさ。

「取り敢えず、嬢ちゃんはくれぐれも単独では行動すんなよ。下手にふらつくと誘拐されるからな? マジでやめとけよ?」

「…………」


 なんだろう。何の心配をされているんだろうか、私は。

 言い方が子供に言い聞かせるみたいな感じで、なんかこう……おかしいな。年齢は伝えたはずなんだけど。


 色々と腑に落ちない感じで考え込んでいたら、ミサキさんが呆れ気味に溜め息をつきつつ立ち上がった。

「コイツが慣れるまでは私もここに顔を出すことになるだろうが、面倒事は持ってくんなよ」

「んなこと言わずに!」

「コイツの付き添いで来るだけだ。初心者向け以外は受けねーからな」

 私にも立つように促しつつ、ギルマスさんを牽制するミサキさん。完全に力関係が分かるよね、これで。

 ギルマスさん、残念そうにはしていたけど、一応は承諾したみたい。まあ、ミサキさんの知り合いみたいだし……下手に強要して機嫌損ねる方が怖いのかも。反応見てると、そんな気がする。


 こうして、無事に冒険者登録できたので、近いうちに依頼の受け方とかミサキさんが教えてくれることになりました。

 楽しみだわ。





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