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04 属性とスキル判明


 カレー作ったりお菓子作ってたりパトリック君たちの話し相手になっていたりと何かと忙しく過ごしていたら、気づけば十日が経過していた。

 何と言うか、本当に我ながら神経図太いなと改めて思ったよ。異世界に来たはずなのに、特に違和感もなく過ごしてるんだもん。

 まあ、兄がいるってのが一番の理由なんだろうけど、それ以外にもミサキさんって同じ体験した仲間がいるってのも大きかったんじゃないかなって思ってる。だって、一人じゃない、自分だけじゃないんだって、そんな気になれたんだから。

「さて……取り敢えず、車から荷物を下ろすかな」

 私と一緒にこちらへ来てしまった車、荷台部分の荷物は相変わらず一晩経つと復活している。

 取り敢えずと、一回分をエルさんとミサキさんにそれぞれ丸ごと押し付けて、それ以外は適度にミサキさんから貰ったバッグに移してます。


 物理法則ガン無視な不思議鞄。


 こちらでは異空間バッグと言うんだそうです。ゲームなんかでよく見るマジックバッグだね。

 容量は作る人の熟練度とか魔力量で変わるらしいんだけど、ミサキさんが取り敢えず使っとけとくれたのはウエストポーチ型の小さなバッグ。

 この存在を聞いた時から興味津々ではあったんだけど、とにかく高いと兄から聞いていたので自分が持てるようになるとは思ってもみなかった。ミサキさんにしてみれば車の荷台に湧く荷物の一回分で対価は十分との事だったんだけど、本当にそれでいいんだろうかと疑問にしか思わない。どう考えても対価になってないと思う。だって、どんなに安くても平民の平均年収以上って言うんだよ? そんな高価なモノ、飴玉くれるような感じで渡さないでほしいと、切実に思ったよ。


 さて。

 午後になり、ヴィクトル君がクリスさんと共にやって来た。以前から、週に何回かはパトリック君と一緒にお勉強しているらしいよ。同じ年の叔父と甥ってのはまだ慣れないけど、まあこの二人本当の兄弟みたいに仲が良い。よくよく聞いたら、数年前まではヴィクトル君が暮らすお屋敷で一緒に暮らしていたんで、本当に兄弟同然に育ったんだって。

 そんなお家の事情を、なぜか私は今、クリスさんとお茶をしつつ伺っています。暇なんで、ちょっと色々話聞かせてもらえませんかって声かけたの、私だけど。

 それに、兄含めてみんな忙しそうだからね。クリスさんはヴィクトル君のお勉強が終わるまでは待機だと言っていたので、その時間を有効活用させてもらおうと思った次第です。私のこと知っていて気軽に話を聞ける人って、貴重だし。

 そんな感じで、思い切ってお茶しませんか、ついでにちょっとお話聞かせてくださいってお願いしてみた。

 いや、最初はね、旦那様の妹と同じテーブルに着くなんてって言って座ってくれなかったんだけど、何とか説き伏せました。だって、色々と聞きたいし。

 あと、様ってつけるの止めてってお願いしたら困惑されたけど、そこは押し切った。兄は偉い人なんだろうけど、私はド庶民! 傅かれることに慣れてないんだから、本当に止めてほしい。

「じゃあ、このお屋敷って、褒賞で建ててもらったって事ですか? 王様に?」

「その通りです。未だ大陸最強と謳われる旦那様ですから、これまでのご活躍は本当に素晴らしいものなのです。ただ、褒賞の類はずっと辞退されていまして」

「あ~……あまりにも何も受け取らないから、強制的にこのお屋敷をって事ですか」

「はい」

 うん、何となくわかる気がする。兄、余計なものを受け取って、余計な事に巻き込まれるのを避けたかったんだろう。そうじゃなくても妬み僻みが凄そうだもんな。ただ、色々な手柄を立てた人に、何もなしってのも王様にとってはあまりよろしくなかったんだろうね。外聞もあるし。


 というかにーちゃん、そんなに強いの? 全然そんな風には見えないんだけど。


 さらっとクリスさんが大陸最強って言ってた気がするんけど、空耳じゃないよね? あまりにアレなんで、なんか流しちゃったけど。というか、なんでそんなハイスペックになってるの、あの人。確かに頭は良かったけどさ。

「あと、魔道具職人って、なんでしょうか」

 これ、兄の現在の職業聞いたら、仕事のひとつとして言われたもの。なんか、王宮勤めもしているみたいだし結構忙しそうなんだよ。兄。

「魔道具、と言われる道具はわかりますか?」

「えと……なんとなく、は」

 要するに、家電とかを電気じゃなくて魔力で動かす、みたいな感じらしい。兄からはそう説明された。

「まず、魔道具というものは誰にでも作れるものではありません。付与魔法という特殊な魔法が使えることが大前提となりますが、この付与魔法を使える者はそう多くはないのです。加えて特殊な素材を使わなければ魔道具化することも出来ません」

「ああ、それが魔石って言われているものですか」

「そうですね。魔石は代表的な素材のひとつです」

 ふむ。という事は、魔石じゃなくても大丈夫なものもあるって事か。

「他にも付与が可能な金属や布、魔獣素材等があります。ただ、これらは総じて入手が困難だったり扱いが難しかったりするのです。魔獣素材は比較的扱いやすいとは言われていますが、魔道具化するだけの耐性がある素材を入手しようとすると、かなりの高額にはなりますね」

「それは、希少価値って事ですか?」

「希少価値もそうですが、それ以上に素材を取れるような高ランクの魔獣を倒せる者がそう多くはないという事も関係しています。多くの職人は冒険者に依頼することが多いのですが、実力的にBランク以上のパーティーに依頼することになりますので、当然のことながら依頼料は高くなります」

 ああ、それだけコストがかかるって事なのか。兄が魔道具は高額なものが多いって言ってた理由、なんとなくわかったわ。

「なるほど……ところで、冒険者のランクって、どのくらいあるんですか?」

「スタートはGランクで、最高はSです」

「という事は、Bランクだと上から三つ目なんですね」

「ええ。Bランク以上が高ランクと呼ばれています。Bランク以上になるには実力もそうですが、人柄なども考慮されますので、金銭面に余裕がある依頼人は高ランクに依頼をすることが多いです。初心者とされるのがEとF、Gは見習いという扱いですね」

「冒険者かぁ……ちょっと、やってみたい気もするな」

 憧れるよね、やっぱり。RPGとかじゃ王道じゃん。

「冒険者に登録するだけでしたら基本的には誰でもできますが、旦那様が反対なさると思いますよ。旦那様もご自身で作成される魔道具の素材調達をギルドに依頼することが多いですから、ギルドに知り合いも多いので、言えば見学には連れて行ってもらえるでしょうけれど」

「む……こっそり行ってみようかと思ったのに」

「旦那様が心配なさるような行動はお控えください」

 苦笑交じりに止められてしまった。

 それにしても、どうやら何でもかんでも魔道具化できるってわけじゃなさそうだし、それなりにお金もかかるようだ。もうちょっとこう、便利に簡単に作れるものかと思ってたら、そうでもないんだな。基本的に、魔道具は高額になるってのも納得だわ。という事は、魔道具職人ってそれなりに資金がないと出来ない職業って事か。それとも、他にも何か資格とかが必要なんだろうか。

「その、魔道具職人って、何か資格とかが必要なんですか?」

 私にもできるなら、ちょっと興味あるんだけど。

「資格は特には必要ありませんが、適性が必須とはなります」

「適正?」

「はい。魔道具化するには、先ほども言いましたが付与魔法という特殊な魔法を使う必要があるのです。しかしこの付与魔法は誰にでも使える類のモノではなく、付与魔法の適性がないと使えないのです」

「へぇ、魔法にも適性とかあるんですね」

 それは知らなかった。というか、ゲームでは付与魔法なんて出て来なかったしなぁ。

「付与魔法以外にも、各属性魔法にも適性はありますよ。例えば私は風の適性がありますが、他の属性魔法が使えないかというとそう言うわけではないのです。適正とされる属性が一番長けている、といった感じでしょうか」

「え? じゃあ、別に適性なしでも使えるって事ですか?」

「基本的に、魔力が一定以上あれば使えるはずです。風・火・水・土。この四元素を元とする属性魔法に関しては、適性がなくても使えるとされています。ただし、これらに含まれない魔法は適性がないと使えません。代表的なのが光属性と闇属性ですね」

「なるほど……」

 思っていたより複雑だった。もうちょっとこう、単純なのかと思ってたんだけど。

 でも、一定以上の魔力があれば使えるって事は……それ以前に、適性とかって調べる方法があるって事だよね? それ、私にも可能性あるのかな?

「あの、適性って調べられるものなんですか?」

「調べられますよ。……ああ、興味がありますか?」

「ものすごく!」

 ちょっと食い気味に返答したら、笑われた。

「では、私から旦那様に話をしておきましょう。適性はクルキス神聖国の認可を受けた神殿や教会で調べられます。魔道具を用いて調べるだけですので、すぐにわかりますよ」

 ああ、適性を調べるのは教会でってのはゲームと同じなんだ。

 時間軸的にゲームはとっくに終了しているはずだから、色々と相違点が出てくるのは仕方ない事だとは思うんだけど、グランジェ家とかゲームの設定からはかけ離れているから、私の知識はあてにならないなってちょっと思ってた。だってねぇ、今はシルヴァン様が伯爵様になってるらしいけど、ゲームだとあの家は没落ってなってたもの。

 そうそう、ゲームで思い出した。ヒロイン、ことごとく攻略失敗して今はとんでもないことになってるらしいのは、以前に兄から渡された手紙で知ってたんだけど、なんか今は外国の研究所預かりになってるらしいよ。当時の事はあまり詳しいことは書いてなかったけど、かなりぶっ飛んだ性格のヒロインだったみたい。

「魔力量も適性を調べる時に教えてもらえますよ。ですが私が見たところ、マキさんは魔力量は多そうです」

「え? 見てわかるもんなんですか?」

「なんとなく、でしたら。普段から魔法を使う訓練を積んでいるものであれば、感じ取ることは出来ます」

「へぇー!」

 そう言うものなんだ。

 こんな感じで楽しくお話を聞かせてもらっていたら、お勉強が終了したらしいヴィクトル君とパトリック君が乱入してきた。クリスばっかりまきちゃんとお話ししてずるいと騒ぐもんで、二人もお茶に誘ったよ。

 そして、時間になりヴィクトル君とクリスさんは帰って行った。クリスさん、その日の内に兄に説明してくれたらしく、近いうちに教会に連れて行ってもらえることになったよ。ありがとう、クリスさん。



 **********



 そんな話をした、翌日。

 まさか、クリスさんとそんな話をした翌日に連れて行ってもらえるとは思わなかったので、朝食の席で今日は教会に行くぞって言われて驚いたよ。

 兄たちが連れて来てくれた教会は、お屋敷から割と近い場所にある、こじんまりとした建物だった。どうやらここ、兄とシルヴァン様の両家が定期的に支援している教会で、孤児院も併設されているんだって。一緒に来ていたクリスさんが、自分はここの出身なんですって教えてくれた時は本当に驚いた。意外過ぎて。だって、絶対にどこかの貴族の家のご子息だと思ってたんだもん。

「ああ、クリスはなぁ……」

 兄にそれを言ったら、そう言って言葉を濁していた。何か知っているようだけど、言うつもりもないようだ。まあ、私も無理に聞こうとは思わない。


 ところでにーちゃん。適性を調べるのって、こんな大人数じゃないとダメなの? なんで両家の家族が勢ぞろいしているのか聞いてもいいかな。


 居候させてもらってるから、エレーヌさんとパトリック君が付いて来るのはまだわからないでもないんだよ。でも、なぜシルヴァン様一家まで来てるの? これプラス護衛だから、ものすごい団体さんになってるんだけど。

 ジトッとした目を向けたら、顔をそむけたよこの人。

「まきちゃん、こっち!」

「ぼくたちもね、去年、おたんじょうびに、しらべてもらったんだよ!」

 お子様二人が率先して案内してくれます。待って待って、そんなに手を引っ張らないで。

 両手をぐいぐい引かれて連れて行かれた先には、神父さんみたいな恰好をした年配の男性。優しそうな、やわらかい雰囲気のおじいちゃんだ。

「ようこそ。話は侯爵様から聞いておりますよ。さあ、こちらへ」

 そう言って、祭壇の下まで来るように促された。

 そこにあったのは、大きな球形の水晶だろうか。なんか、ソフトボールくらいありそうな透明の球が置いてあった。

「この水晶に手をのせてください。掌全体で包むような感じで」

 言われた通り、手を置く。

 神父さんが水晶が置かれた下の台を触ると、徐々に水晶が光始めた。

「眩しっ」

 あまりの光の強さに、一瞬目を瞑ってしまった。

 次に目を開けた時は光は収まっていて、なぜか目の前には呆然とした様子の神父さん。

「あの?」

 どうしたのだろうかと思って声を掛けると。

「おっ……おお、なんと! なんという!」

 なんか、感動しているっぽい。

 どうしたらいいんだろうって思って、兄たちの方を見る。こちらも大人はみんな一様にポカン顔。

「素晴らしい! 光属性の適性がおありですね!」

「は? 光属性?」

 思わず、聞き返してしまった。

 だって昨日のクリスさんの話だと、光属性って適性ないと使えないって類のアレだよね。しかも、適性を持ってる人って極端に少ないって説明だったけど……えええっ。

「マズイ……面倒なことになった……」

 ぽつりと呟いた兄が頭を抱えている。


 ごめん、にーちゃん。なんかよくわからないけど、ごめん。


 取り合えず、心の中で謝っとこう。

「魔力量も素晴らしい!」

 おじいちゃんは、ちょっと落ち着こうか。

 本来なら私が慌てるべきなんだろうけど、周りがこの反応だと逆に冷静になるよね。

「マキさん、こちらへ」

 ささっとクリスさんが近くに来てその場から下がらせてくれた。

 神父さんは兄の元に行くと、何やら興奮した様子でまくし立てながら訴えているけど……えっと、大丈夫? 私、大丈夫だよね? ちょっと不安しかないんだけど。

「まきちゃん、すごーい! 姉上といっしょだ!」

「まほう、母上におしえてもらったらいいよ! 母上、すごいんだよ!」

 お子様たちは、単純にすごいすごいと褒めてくれる。その後ろで大人たちが不穏な雰囲気になってるのもお構いなしで。


 ありがとう、パトリック君、ヴィクトル君。お姉さん、君たちのその反応に救われるよ。


 何となく、二人の頭をなでなでしてたらジゼルちゃんもやって来た。ひしっと足にしがみついてきたので抱っこしたら、なぜか頭をなでなでされた。ああ、癒されるっ。

「どうしましょう、シルヴァン。マキの護衛を増やさないと」

「そうだね。父上とも相談するが、早急に手を打った方が良さそうだ。母上、すぐに護衛に付けられる者はいますか?」

「そこは、ザックと相談かしらねぇ」

 こちらで、こんな話が進んでいれば。

「では、クルキスへは私から連絡を入れても?」

「ええ、お願いします。取り合えず、こちらでの生活がもう少し落ち着いたらクルキスへも連れて行くので、詳しいことはその時にでも」

「畏まりました。私の名で連絡を入れておきます。恐らく、中級くらいまでは問題なく習得できるでしょう。訓練次第では上級も可能性があるかと」

「ああ、出来るだけ早めに連れて行った方がよさそうですね」

「その方がよろしいでしょう」

 あっちでは、何か決まったらしい。当事者であるはずの私が置いてけ堀っぽいのは気のせいだろうか。

 その後もしばらくわちゃわちゃしてたんだけど、兄は着いて来てよかったって溜息ついてるしレティちゃんは私が魔法教えるわってなんか張り切ってるし、シルヴァン様はお城への報告がってちょっと疲れた顔しているしエレーヌさんは将来が楽しみだわってニコニコしているし。なんだろうか、これ。


 そして、なぜが来た時より増えた護衛に囲まれて帰宅。


 そのまま兄に連れられて兄の執務室へ。シルヴァン様も一緒。

 本気で止めてほしい、まだシルヴァン様は見慣れないんだよ! しかもこんな至近距離、私の心臓が持たない!!

「ああ、どうでした?」

 そんな私の心理状態を察してくれたのだろう、出迎えてくれたザックさん。さりげなくシルヴァン様の斜め正面の席に誘導してくれた。真正面や隣になるよりはましだと思おう。

 私たちが席に着くと、すぐにお茶を淹れてくれた。

「マズイ事になった」

 兄が言うと、ザックさんがきょとんとする。

「マズい事? 光か闇の適正でも出ました?」

「光だ」

「マジですか」

「あと、テイマーの素質有りだと」


 ん? それ聞いてないけど。

 テイマーって……あれだよね? 動物を操る的なアレ。


「……なんで、そんな珍しい所を二つも。何してくれるんですか、旦那」

「俺の所為じゃないだろ」

「まあ、そうですが」

 ちょっと驚いたような顔をしてちらっとこちらを見たザックさんだったけど、すぐに納得顔で頷いた。

「護衛、どのくらい増やします?」

「話が早くて助かる。どのくらい付けられる?」

「目立たないようにって感じなら二名。俺が鍛えた連中です」

「十分だ。すぐに手配を」

「了解っす。で、陰からの護衛は俺の部下で十分でしょうけど、一人傍に着けておいた方がいいっすよ」

「そこなんだよなぁ」

 ここまで、口を挟む暇もなくサクサクッと決めてしまった兄が考え込んでいる。

 すると、今後はシルヴァン様が口を開いた。

「父上、私から提案が」

「ん? なんだ?」

「当面はクリスを彼女に付けてはどうかと考えています」

「クリス? クリスか」

 兄が考え込んでるけど、ちょっと待って、なんでそうなるの!?

「常に知らない人間が傍にいると言うのも、慣れていないとストレスになるでしょう。その点、クリスなら彼女も自然体でいられるようですから、負担も少ないかと」

「ん~……私としては、クリスがついてくれるなら有難い。だけどシルヴァン、お前は大丈夫なのかい?」

「問題ありません」

「では、決定だな」


 いやいや、問題あるでしょ!? クリスさん、貴方の従者でしょうが!

 シルヴァン様が気を使ってくれてそう言ってくれてるのはわかるんだよ。でもさ、さすがにそれはマズくないかな!?


 そう言いだかったけど、言えなかった。だってその前に兄があっさり頷いちゃったんだもん! にーちゃん、もうちょっとちゃんと考えようよ!

「……旦那。マキさんが考えてから発言しろって言ってますよ」

「考えてるから」

 ザックさんの言葉を兄が否定してるけど、私がそれを言ったって事は疑問に思わないんだ。声に出してないのに。シルヴァン様は……あ、なんか苦笑している。

「ところで、旦那」

「うん?」

「なんでこんな事になってるのか、マキさんに説明は?」

「あっ」


 あ、じゃないよ。あ、じゃないよ、にーちゃん!

 そもそも、それだよ! 何にも説明されてないんだけど!?


「あ、じゃないっすよ。一番肝心なことを本人に説明しないでどうすんですか」

「いや、すまん」

 呆れ顔のザックさんに、兄が素直に謝ってる。

「えーと、だな。マキ」

 やっと、説明してくれるらしい。

「この世界の魔法……属性というものがあるんだが、これについては聞いたな?」

「うん。基本の四元素と光と闇があるって教えてもらった。四元素は適性がなくても使える可能性があるけど、光と闇は適性がないと使えないって」

「その通り。で、お前は光の適性がある。光の適性があるってだけでもかなり珍しいんだが、お前の場合はその適性のレベルがやや高い」

「適正にレベルなんてあるの?」

 それは初耳だけど。

「まあ、レベルって言い方はしないけどな。その属性魔法を使う事で発生する抵抗力が小さければ小さい程、適性が高いという事になる」

「抵抗力……? 摩擦でも起きるの?」

「考え方としては、間違えていないかな。まあ、要は体にかかる負荷の大きさだ。当然、負荷が大きければ体力も魔力も消費は激しくなる」

「適性が高ければ、その負荷も小さくなるって事?」

「その通りだ。だから、基本的に魔法の訓練をするときは、まずこの適性である属性を伸ばす訓練をする。それが済んでから、他の属性を学ぶのが一般的だ」

「わかったような、わからないような」

「お前には馴染みのなかった世界だ、言葉だけで理解しろと言っても難しいだろう。きちんと学びたいなら、講師をつけてや」

「ぜひお願いします!!」

 食い気味に言ったら、ちょっと引かれた。失礼な。

「……うん、魔法なんかなかったもんな」


 そうだよ、そんなものは空想の中だけに存在するんだよ!

 それが使えるかもってなったら、興味抱くの当たり前じゃない!


「で、だ。話を戻すぞ。お前は光属性の適性があるだけでなく、その適正レベルが高い。そうだな……わかりやすく、十段階のレベルがあるとする。通常、適性が高いとされるのが七~八くらいなんだが、お前の場合もそれに近い」

 言われたことを、頭の中で反芻する。

 適性が高いと言われる範囲に自分が入っているという事は、頑張ればかなり上位の魔法を使えるようになる可能性があるって事なんじゃないだろうか。

 そう思って兄に聞いたら、頷いた。

「その可能性は高い。そして、この国でそんなレベルの治療系魔法が使えるのは、今はレティ含めて三人だけなんだ」

「は?」

 なんか、兄がとんでもないこと言ってる気がする。


 だって、という事はだよ? もし、私が上位の治療系魔法を習得出来たら、国で四人目って事だよね? ……国、だよ? 国単位で、だよ?

 え、ちょっと待って、光属性の適性者って、そこまでレアなの!? それちょっと色々とマズいんじゃ……!?


 今更ながら、兄が頭抱えてた理由が分かった。頭抱えるだろ、それは。私も頭抱えたいよ、自分の事だけどっ。

 なんか、顔から血の気が引いていく感じが……あ、ちょっと、クラってなった。

「理解できたようで何より。で、この光属性は知っての通り、治癒・治療系といった回復魔法が多い。光以外にも水属性にも回復系の魔法はあるが、全てにおいて光属性の方が上だ。そして、お前の適正レベルだと訓練次第では高レベルの回復魔法を習得出来る可能性がある。……要するに、レティと同じとまではいかないが、それにかなり近づける可能性があるって事だ。中級レベルまでならそれなりに使える者はいるんだが、それ以上となるとな」

 兄の説明に、頭痛までしてきた。


 だって、そんな高レベルの回復魔法って。それ、下手しなくてもヤバい連中に捕まったらとんでもないことになるよね? だって、国単位で一桁の人数しかいないような感じなんでしょ? 下手したら、生存権握れるよね? という事はだよ、面倒ごとに巻き込まれる可能性大ってことだよね!?


「マキさんは、きちんと様々な可能性を考えることが出来る方のようですね」

 感心したような声は、ザックさんか。多分、褒められてるんだろうけど、それを気にする余裕すらないよ、今の私には。だってこの状況って、間違いなく兄に迷惑かけるじゃん。

 ある程度、自立できる目途が付いたら仕事を紹介してもらってとか、気楽に考えてたのが全部ダメになった気がする。

「難しく考える必要はないですよ、マキさん。光属性の適性者は国で保護することが決まっているんです。加えて、クルキスで手続きすればあの国の市民権を得られるので、どこに居ようと保護対象になるんです。まあ、そんなものよりここにいた方が遥かに安全ですが」

「そうだぞ、マキ。ここにいれば守ってやれるし、自衛できるようになれば行動範囲も広げられるようになる。まあ、しばらくは不自由するかもしれないが」

「でも……迷惑……」

「迷惑でも何でもない。今までも散々、レティを狙ってくるバカどもの相手をしてきているんだ。その辺りはみんな慣れているから気にする必要すらないな」

 兄がそう言うと、シルヴァン様も頷いた。

「父上の言う通りです。私も父上も、実力を認められた騎士です。そして、私と共に父上の教えを受けたクリスも実力者です。貴女が心配するようなことにはなりません」

 きっぱりと言い切ったシルヴァン様。

 もちろん、これまでの経験からそういった判断が出来るんだろうとは思うんだけど、でもやっぱり迷惑かけてしまうんじゃないかって思うと、怖い。だって、私の所為で、この素敵な家族の誰かに何かあったら。

「本当に、心配いりませんよ、マキさん。貴女を狙ってくるだろうバカ共より、旦那や若を狙ってくる連中の方が遥かに厄介ですから」

「え?」

 ザックさんの言葉に、思わず兄とシルヴァン様の顔を見てしまった。

「ああ、俺は、ほら。元々のカンタール家の後継ぎ候補だった連中の遠縁だし。本来なら俺が継ぐはずがなかった家だからな、ここ。かなり恨み買ってると思うぞ」

 何でもない事のように、兄が言う。

 そう言えば、手紙にもそんなようなことが書いてあったような気がする。

「グランジェ家も代々騎士の家系ですので、恨みは買いやすいのですよ。ですが、我が家の騎士たちはそれらを制圧できるだけの能力がありますので、心配は無用です」

 やけに自信満々なお二人。

 なんだろう、なんか、来るなら来やがれ的な何かを感じるんだけど、この二人。

 あれ? 兄とシルヴァン様って、本当の親子じゃないよね? そう言えば、なんか顔もどことなく似ている気がするんだけど、どういう事?

「ああ、混乱してますね。若は奥様の血縁者ですが、同時に旦那の血縁者でもあるんですよ」

「は?」

「俺のばあさんの弟が、カンタール家の前当主の父親。つまり、シルヴァンの祖父と俺のばあさんが姉弟」

「え?」

「シルヴァンはじいさん似で、俺はどっちかっつーとばあさん似」

「ついでに言えば、若のお爺さまと旦那のお婆さま、そっくりだったらしいですよ」


 え、そんな事ってあるの???


 つい、二人の顔を交互に見てしまった。なんか、今までは先入観があったからか気にもしなかったけど、こうして改めて見てみると確かに似てる。髪の色合いが正反対だから印象は全然違うけど、親子ですって言われたら確かに疑わないわ、これは。

「ええ、そんな裏設定があったなんて……」

「裏設定言うな」

 思わす零したら、兄に突っ込まれた。


 だってさぁ! そんなの公式ガイドには載ってなかったよ!? そんなオイシイ設定あったならゲームに盛り込んでくれたらよかったのに! ……あれ、もしかして続編とかではその辺りも明かされたのかな? 私は続編はやらなかったからわかんないけど。


 そんなことを考えてたら、頭をわしっと掴まれた。なにするんだよ、おい。

「取り敢えず、そろそろゲームと混同するのは止めようか。似て非なる世界だからな、ここは」

 なんで、バレたんだろう?

「声に出てましたよ」

「え、うそっ」

 ザックさんに突っ込まれた。心の声が駄々洩れだったらしい。

「まあ、お前のゲーム話に散々付き合わされたおかげで色々と助けられた俺が言う事じゃないかもしれんがな。とにかく、余計な心配はしなくていい。ある程度、こっちに馴染むまでは好きに過ごしていろ」

 そう言いながら、頭をくしゃくしゃされた。

 ゲーム……そういや、散々兄にも語ってたよなぁ、私。でもまあ……うん。役に立ったのなら、良かったよ。



 **********



 なし崩し的にクリスさんが私の護衛に着くことになり、ちょっと居たたまれなさがハンパない今日この頃です。

 だって、クリスさんってば背は高いし顔の造形整ってるし優しいし性格良いし、色々とアレ過ぎてとにかく居たたまれない! イケメン過ぎるんだってば、私の心臓が持たないよ!

 だから、兄にもそれとなく別の人に変えてくれってお願いしたんだよ。そもそもクリスさん、シルヴァン様の従者じゃん。私にくっついてたらダメでしょ。

 そう言ったら、

『いや、問題ないぞ? シルヴァンが本格的に領地経営に関わるようになってからだな、クリスの存在がより必要不可欠になるのは。当面はまだまだ元気が有り余ってる義両親が領地をしっかり守ってくれるし、しばらくはシルヴァンの好きにさせてやりたいって言ってくれてるし』

 ってな感じで、返された。

 いや、でもさ。話に聞く限りでもクリスさんってかなり有能な感じじゃない? それが、私の護衛とか人材の無駄遣いにも良い所じゃない? もっと他にやってもらった方が良いことあるんじゃないの?

 頑張って、そうも言ってみた。

 そうしたら、

『お前ね、この前の話を聞いてなかったの? ただでさえ貴重な光属性の適性者、その中でもお前はレティに匹敵するレベルになり得る可能性があるんだ。レティなんか未だに他国の王侯貴族や有力者から妃にとか正妻にとか言われてるからね? 子供二人産んでるのに。独身のお前の事が知れ渡ったら、誘拐されて既成事実作られかねんぞ。最低限、クリスくらいの実力ないとお前を守り切れんわ。クリスと同レベルの騎士なんかそう居ないから』

 呆れ顔で、そう指摘された。何も言えなかった。

『だいたいな、お前、クリスとは仲良さそうじゃないか。あいつ、あの容姿だからモテるんだけど、恋人もいた事がないし浮ついた噂も聞いたことがないから、心配いらないぞ』

 とも、言われた。心配いらないって、なにが。

 そりゃね、クリスさんと話をしているのは楽しいよ。この世界の事とか、色々と教えてもらってるし。ちょっと話しただけでも、この人、頭が良いんだなってわかるくらいだし。ものすごく気を使ってくれてるのわかるし、一緒に居るとほっとするのも事実だよ。

 でもね、同時に視線が痛いんだよ! にーちゃん、クリスさんモテるんだよ! 私、敵視されるんだよ、クリスさん狙ってる子たちから!


 なんかさ、この世界って女性は二十歳前後で結婚してるのが普通らしいじゃない。二十六の私なんて行き遅れもいいとこなわけでしょ。私みたいな年増がクリスさんの傍にいたら、そりゃ嫌だろうさ。いくら仕事だとしても。


 そんなことを考えつつぶちぶち文句たれてたら、それをレティちゃんに聞かれてしまいまして。

 まあ、当たり前だよね。だって私いま、レティちゃんから魔法の使い方の基礎を教えてもらってるんだから。その、ちょっとした休憩の時に独り言で愚痴ってたんだから。レティちゃんが席外したのを見て、油断してたわ。いつの間に戻って来てたんだろう。

「ねえ、マキ。その話、詳しく教えてくれないかしら?」

 なんだろう。顔はにっこりしてるんだけど、にっこりしてない。ちょっとマジで怖いんだけど。

「いや、その……い、言われても、仕方ないかなーって思ってるし、別に気にしてないから」

「あら、それはダメよ。我が家の使用人がそれを貴女に聞こえるように口にしたのであれば、それ相応の対処はしなければいけないもの」

「そんな、大袈裟な」

「大袈裟でも何でもないわ。貴女はお父さまの大切な家族なの。つまりは、私にとっても家族なのよ。そもそも、主が招いているお客様に対して侮辱するような言動は容認できないわ」


 え、これあの子たち真面目にマズいのでは?


 レティちゃん、激おこ。これはちょっと、私では止めきれないかも。

 私は別に、陰口叩かれるくらいはそんなに気にはならないんだけど。とはいえ、睨むのは止めてほしいなぁって感じかな。

 なんてことを呑気に考えてたら、ヴィクトル君が乱入してきたよ。

「母上、おせんたくのメイドたちだよ! まきちゃんに、いじわる言ったの!」

「あら、あの子たちなのね」

 あああ、ヴィクトル君が言っちゃったよ……君には見られちゃったもんねぇ、さっき。というか、一緒に居たもんね。あの子たちは気付いていなかったけど。

「本当に、懲りない子たちね。この短期間でまた同じような事をするなんて」

「ん?」

 ちょっと待って。もしかして、やられたの私だけじゃないの?

 その疑問が、顔に出ていたんだと思う。レティちゃん、説明してくれたよ。

「あの子たち、シルヴァンに憧れてかなり強引に我が家に来たのよ。お爺さまの伝手で半年だけという約束だったから受け入れたのだけれど……シルヴァンに相手にされなくてクリスに変えたのね」

 あ、元はシルヴァン様狙いだったのね。相変わらず人気が高いようだわ。まあ、あの容姿だし国王様の護衛兼側近だし、家はかなりの資産家だし。正妻は無理でも、愛人にでもなれたらって考えるおバカさんは多そうだなぁ。でも、相手にされなかったから、ターゲットをクリスさんに変えたのか。なんだかなぁ。

「わかったわ。教えてくれてありがとう、ヴィクトル」

 お母さんに褒められて、ヴィクトル君嬉しそう。

 

 その後、例のメイドたちはレティちゃんに呼び出されて、その場で即刻解雇を言い渡されてた。なんか、レティちゃん相手にぎゃーぎゃーわめいていたけど、それ、自分たちが働いている家の女主人に向けていい態度じゃないから。おバカさんな子たちだなとは思ってたけど、ここまでおバカさんだったとは。

 後から聞いたら、どうやらみんな男爵家や準男爵家のご令嬢で、嫁ぎ先が決まっていないお嬢さんたちだったらしい。一応、嫁ぎ先を探す前に名門伯爵家で働いて箔をつけたいって名目で来ていたらしいけど、実際にはグランジェ家お抱えの騎士を捕まえられれば安泰って感じだったのだろうって事みたい。どうやらグランジェ家の私設騎士団って、その実力もそうだけど好待遇でも有名だったらしい。なので、そう言った意味でも割と狙われているんだそうだ。

「大変だねぇ、レティちゃん……」

 訓練後、お茶しながらのひと時。名門ならではなのかもしれないが、そんな事情を聞いていました。家同士の繋がりとかがあるから、何でもかんでも断るわけにはいかないんだって。本当に、そんなおバカさんの教育をしなければならないとか、気の毒でしかないわ。

「ふふ、大丈夫よ。私、これでもグランジェの直系だもの。女主人として使用人の教育は当然だわ」

「はあー、カッコいい!」

「あら。うふふ」

 ニコニコする美女、眼福です。

 もうね、いろんな意味でレティちゃんが自分と同じ年だと思えないよ。しっかりお母さんしているのもそうだけど、現役の王宮勤めの魔導師だっていうし。しかも近衛騎士団所属の魔導師なんだって。すごいよね、夫婦で近衛騎士だよ。

 本当、尊敬します。





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