26 クリスさんの出自が判明
妙な事と言うか、続くもんなんですかね。またもや王宮へと呼ばれましたよ。私が、じゃなくて。クリスさんが、だけど。
アレですよ、年末に兄が言っていた、クリスさんへの面会要請。恐らくクリスさんの兄弟だろう人からの申し込みらしいです。なぜそれに私が同行しているのか。私、お邪魔なだけだと思うんですが。
そう言ったらですね。
「お前の同席は決定事項。黙って座ってればいいから」
兄からはそう言われました。……しゃべるなってことですか? 別い良いけどさ。
どういった話し合いになるのかはわからないけど、少なくとも私がお役に立てることはなさそうな気がする。だって、正式な外交の席だって聞いているし、政治的な話とかになったら絶対についていけないし。置物になってる以外に出来ることないじゃん。ヘタなこと言って迷惑かけるようなことになったら目も当てられないし。
「……うん。私は貝になろう」
『ルナがいるよ』
決意を口にしたら、ふわりと膝に上に乗ってきたのはルナちゃん。昨夜、今日の事を話してお留守番をお願いしたら、絶対に行くってきかなかったんだよ。まあ、ルナちゃんは大人しいので問題ないだろうと王宮側からは許可をいただいております。ありがとうルナちゃん、とても心強いです! ルナちゃん、どこにいたのかって? お向かいに座っている兄のお膝でくつろいていましたが。
「あ~……一応、王宮の極一部にはルナがフクロウじゃなくてストラスだってことは報告してある。してはあるが、迂闊に人前でルナとしゃべるなよ」
「わかってるよ」
報告した極一部って、ちょっとそこの人選が気にはなるけれど。まあ、私に何かすればルナちゃんが暴れる可能性が大なので、注意喚起という意味でも報告はしておいた方が良んだそうです。そうしておけば、万が一にもルナちゃんが暴れた時に、だから言っただろで済むんだとか。……本当にそれで済むのか、ものすごく疑問なんだけど。
「申し訳ございません、旦那様。私事でご迷惑をおかけしまして」
隣に座っていたクリスさん、本当に申し訳なさそうな顔をしてます。ええ、当然ですがクリスさんも同乗していましたとも。足元にはギベオンも良い子で寝そべっています。……主人想いのギベオン。ルナちゃんから教えてもらったらしくて馬車の前で待機していました。こっちも一緒に行くって主張がすごかった……最終的には兄が根負けして許可しましたが。いやだって、悲し気にクンクン鼻を鳴らしながら兄の足に延々とぐりぐり頭をこすりつけてるんだもん。私と一緒で基本的には動物大好きな兄、それで陥落しました。あれは反則。
まあギベオンはそこまで珍しくもない種類だし、王宮警備の騎士団にも警備犬として数頭が飼育されているそうなので、特に連絡する必要もない事から大丈夫だろうと判断したらしい。……ギベオンがとんでもなくレアな亜種だってことはもちろん内緒です。ちょっと体が大きな子なのでと言っておけば誤魔化せると前にエルさんが言ってたので、兄はそれで通すそうです。本当かな。
「気にするな。あちらの目的が分からない以上、私も同席した方がよさそうだしな」
クリスさんを孤児院から引き取って養育してきたのは兄なので、その辺りの事情もあっての同席だそうです。まあ、それもそうか。
そんなわけで、若干の不安を抱えつつの面会となったわけですが。
ただいま私、兄、シルヴァン様はちょっと外野になって見物中な感じです。
なんかね、髪と瞳の色がクリスさんと同じ色の紳士がですね、目の前で大号泣しているのですよ。クリスさんの手を握ったまま。クリスさん、困惑しつつも振り払う事も出来ずにされるがまま。もう一人の人も、号泣している人に落ち着けと声をかけてはいるんだけど、今の所は効果なし。……どうしたもんかね、これ。
「こうして見ると、クリスと面差しがよく似ていますね。お二人とも」
「だなぁ」
兄とシルヴァン様は、その様子を見守りつつそんなことを話しています。完全に他人事だな、ふたりとも。口挟める雰囲気じゃないから仕方ないけどさ。
ただ、このままだと話すらできないのでどうしたものかと考えていたら、ギベオンが動きました。
のっそりと二人に近づくと、クリスさんの足元で良い子にお座りして、小さくひと吠え。唐突なギベオンの登場に気づいたあちらのお二人、ようやく我に返ったらしい。いや、我に返るべきは一人だけだったか。
そこから号泣していた紳士がもう一人の紳士に軽く説教され、改めて全員が席に着いたのは部屋に入ってから三十分は経っていただろうか。だいぶ時間を無駄にした感じがするな……
「申し訳ない、感極まってしまって」
落ち着きをとし戻してしゃんとした姿を見て、思わずクリスさんを見てしまった。顔、よく似てるんだもん。夜会の時に見たお兄さんらしき人、隣にいる人が多分そうだろうけど、その人よりもクリスさんに似ている。いや、クリスさんが似ているのか。
「改めて。バシュレ公爵家当主のゼインです。時間を取ってもらい感謝します」
そう言って頭を下げる紳士。実家は伯爵家だけど、幼いころから母方の伯父にあたる公爵家に養子に入ることが決まっていたそうで、今はそちらを継いでいるとのことでした。
そして、これに応えたのだこちらの代表である兄。
「ルシアン・カンタールです。クリスを引き取り養育した者として、本日は同席させていただきます」
兄が名乗ると、公爵様が軽く目を見開いた。
「もしや、竜殺しのルシアン・グランジェ伯爵……でしょうか?」
「はい。グランジェ家はここにいる息子に継がせ、現在は遠戚だったカンタール侯爵家を継いでいますが」
ガタンっと音が響いた。公爵様、なにやら興奮した様子で立ち上がっておられますが……?
「兄さん、落ち着いて!!」
もう一人、弟さんだろう人が暴走しそうだった公爵様の腕をつかんで座らせました。
はっとした公爵様、咳払いすると何事もなかったかのように座りましたよ。
「失礼。竜殺しの英雄にお会いできるとは思わず……」
「申し訳ございません。兄は自国では将軍の参謀を務めておりまして……カンタール侯爵の武勇伝は我が国では英雄譚となっておりますもので、その、少々興奮したようです」
「あ、ああ、そうなのですね」
兄、ちょっと引いてる。弟さん、お兄さんの暴走を止めるために同行したのかな。確か外交官だよね、この人。
なんか、だいぶ話が脱線しているような気がするのが気のせいだろうか。
でもね、それを聞いたシルヴァン様が機嫌良くなってるのはなんか微笑ましいんだよね。この人も本当に兄の事が大好きだよなぁ。他国で英雄視されてるって聞いて、自分のことのように喜んでるんだもん。
「そういえば、そちらの国では将軍は代々王族が就くのが慣例でしたね」
「おっしゃる通りです。現在は第二王子殿下がその地位に就いております」
さすが兄、他国の事情も良く知っているようで。
後で聞いたところ、将軍は全騎士団の総括というよりは象徴的な存在としての意味合いが強いんだそうです。とは言ってもそれに甘んじる王族は少なくて、それなりに武勇に優れた王族がその地位に選ばれて就くことが大半なのだとか。なので、実力不足とか役不足とか、そういったことはほとんどないんだそうですよ。にーちゃん、他国のことなのによく知ってるね。
そして、ここからやっと本題に。公爵様に任せると話が進まないからと、弟さんがメインで話すことになりました。
「まず、フォックス伯爵家のクリストフ殿ですが、我がガーラント伯爵家の前当主が父親で間違いありません。そして最初に申し上げておきたいのは、弟の母である女性は父が既婚者であることは知らなかったという事実です。こちら、当時の出生証明書の写しになります。こちらはその他の参考資料です」
丁寧な説明と共に並べられた数々、代表して兄が確認中です。……公爵様、先ほどからギベオンを構っておいでですが、わんこ好きなんですか? 弟さん、横目で呆れ気味ですよ? ルナちゃん? 私の肩で大人しくしてます。たまにすりすりしてくるからくすぐったい。
「……ああ、やはり。最近になって、ガーランド伯爵家の婚外子という扱いになったのですね」
兄、クリスさんの出自に関してはだいぶ前から知っていたそうです。一応ね、調べたんだって。だから、認知されていない存在だってことは知っていたんだそうですよ。
「はい。どうやら私が長兄にもたらした情報をどこからか得た母が、次兄と何かを企んで急ぎ届出を行ったようです。敢えて隠してはいなかったのですが、それでも母の耳に入るような状況ではなかったはずなのです。父にも報告はしておりませんので」
「前伯爵は関与していないと?」
「あの人は家族には興味のない人です。息子である私が言うのもなんですが、男としても父親としても尊敬できるところなど皆無な男ですので。弟以外にも婚外子が三人いますが、産ませただけで金銭的な支援はおろか認知すらしていません。全員女の子でしたので辛うじて母が手を下すまでには至らなかったようですが、産んだ女性たちへの報復はありました。そもれ知っていても放置するような男です」
うん、なかなかの屑ですな!
「子供は女子なら家督に影響しないので、見逃しただけという事でしょうか?」
兄が確認すると、三男さんは頷いた。
「はい。ただ、母の事ですから、何かあれば利用しようと考えていたのかもしれません」
「まあ、ありえない事ではないでしょうね」
そう答えつつも、兄は不機嫌そう。顔には出してないけど。奥さん大好き子供たち大好きな兄からしたら、信じられない所業でしょうよ。まあ、正妻さんも浮気された上に他所で子供を作られたんだから、怒るのはまだ分かるけどさぁ。
女の子なら家督に関係ないので辛うじて見逃すことが出来たみたいだけど、クリスさんが生まれてしかも男の子だったことから、正妻さんにバレたら激怒するのは火を見るより明らかだったそうです。正妻さん、かなり苛烈な性格をしているようで、あのまま手の届く範囲にいたらいつ殺されてもおかしくなかったんだそうで……なので、クリスさんがもう少し大きくなったら遠方へ逃がす算段もつけていたそうですよ。しかし、それにしても。
正妻さん、いくら何でも過激すぎない? 生まれただけの赤ちゃんに何の罪があるのよ。
その後も詳しい話を聞いたんだけど、本当に酷かった。
まず、父親! 男爵家の庶子だったらしいクリスさんのお母さんに独身だと偽って近づき、お母さんが騙されたと気づいたときにはすでにクリスさんを身籠っていたらしい。そもそも成人したばかりの世間知らずな女の子に、表面上は誠実な対応を続けていたみたいだし。
お母さん的には、大切にされていると思ったんだろうね。実家ではあまり良い扱いを受けていなかったみたいだから、優しくされて嬉しかったのもあったんじゃないかな。その上で結婚しようって言われて、新居まで用意されたらさぁ。信じちゃうのも無理はないんじゃないかな。さすがにこの状況で略奪したなんて言葉は出てこないでしょ。普通は。
でもね、その当時は騙されていたことを知ってショックを受けはしたものの、とにかく授かった子供を無事に生まなければってことだけを考えてそのまま暮らしていたんだって。何でそんな事を知っているのかと言えば、長男さんがクリスさんのお母さんの存在を知って、こっそり支援していたから。
実は長男さんと三男さんだけは、クリスさんのお母さんとは交流があったんだそうです。というか、父親が新しく女性を囲い込んだと最初に気づいたのが長男さんだったそうで。
そこで前伯爵であるおじいさまに相談したところ、息子の愚行に頭を抱えはしたけれど騙されたクリスさんのお母さんにも生まれてくる子供にも罪はないからと、支援するための手助けをしてくれたんだそうです。なんで当時十歳の長男さんがメインで動いていたのかというと、おじいさまが動くと間違いなく正妻さんが察して何をするかわからなかったから。事実、女の子を出産した愛人さんたちは悉く制裁を受けて体と心に大きな傷を負ったんだとか。
まあ、この愛人さんたちは既婚者と知った上で関係を持ち、あわよくば正妻さんの地位を奪ってやろうと考えていた野心家でもあったらしいのでおじいさまも静観していたらしいんですが、クリスさんのお母さんは状況が全く違ったので守るために動くことを決断してくれたんだそうです。
もう、ここまででお腹いっぱいですよ……
「フローラさん……彼の母の名です。彼女が我々からの援助を怪しまれることなく受けられるように、私が偶然を装って接触して、取り合えず父から遠ざけるためにおじいさまが支援していた救護院へと移しました。そこで彼が生まれて、私と弟は奉仕活動の一環として救護院へ定期的に通って、フローラさんとは交流していました。それが、彼が生まれて半年ほどだった時に、フローラさんの事が母に知れてしまったのです」
ギベオンをなでなでしながらそう語る長男さんの表情は、暗い。色々と後悔しているらしいことが見て取れる。いや、当時十歳の貴方に出来ることなど少なかったでしょう、そこまで気にすることではないと思うんだけど。それよりも父親はどうしたんだ。
そんな事を考えていたら、そもそも正妻さんにバレた原因が判明しました。引き続き長男さんの口から語られましたよ。
原因、父親でした。クズ親……!!
どうやら父親、フローラさんの事はかなり気に入っていたようで、おじいさまからもう関わるなときつく言われて一旦は関係を断つことを了承したらしいんだけど、やっぱりもう少し遊びたいと思ったらしく、勝手に行方を捜し始めたんだそうです。その過程で正妻さんにフローラさんの事がバレてしまったらしい。なんて余計なことを……
母の苛烈な性格をよく知っていた長男さん、自分が持ち出せるありったけのお金を袋に詰めて救護院へ直行、おじいさまにお願いして手配してもらった馬車にフローラさんと生後半年のクリスさんを乗せて、とにかくこの国から出るように言ったんだそうです。当時、すでに末の弟としてクリスさんのことを可愛がっていた長男さんは、絶対にフローラさんもクリスさんも死なせたくなかったんだそうです。一緒に救護院へ通っていた当時四歳の弟さんも、仲良しのお姉さん(フローラさんの事)の赤ちゃんを可愛がっていたそうで、それもあって絶対に助けるんだと決意していたんだって。
その後も色々と説明してくれたんだけど、いやもうね、私もそうだけど兄もあまりの内容に言葉が出なかったよ。しばらく。
まあ、そんな経緯があったので、クリスさんの無事な姿を見て、立派に成長した姿を見て感極まってしまったのだそうです。うん、それなら仕方ない。
「……そちらの事情は理解しました。そして、貴方がクリスを逃がすために尽力してくださったことも。クリスはいま、私の息子であるグランジェ伯爵にとっては掛け替えのない存在となっていますので、守るために行動してくださったことには感謝します」
「いえ、感謝するのはこちらもです。そちらに引き取られ、使用人とは思えない待遇で育てていただいたことは聞きました。本当に、何とお礼を申し上げればいいか」
深々と頭を下げる長男さん。この人、さっきから思ってたけど公爵様とは思えないくらい腰が低い気がする。兄が同席しているせいだろうか。
「それと、以前実家に彼の事を知らせてくれたことがあるとお聞きしました。確認したところ、対応したのが伯爵家を継いだ次男の妻で……母によく似た性質であった事と母のお気に入りだった事もあり、彼の事は何一つ伝えていなかったのです。その所為で無視する形となり、大変に失礼しました」
「ああ、いえ。こちらも軽く問い合わせただけでしたので、お気になさらず。理由を知った今では無視されて良かったと理解しています」
そうだね、次男さんの奥さん経由で正妻さんに知られてたら、どうなっていたかわからないものね。まあ、今なら知られたところでクリスさんに返り討ちにされるだけだろうけどさ。兄もシルヴァン様も黙ってないだろうし。
「それから、フローラさんについてですが」
弟さんが再び口を開いた。
「国を出てからも母は執拗なまでに追っ手を差し向けていたこともあり、このままでは親子ともども始末されると考えて、彼を孤児院に置いて行ったのだと思います。彼女は国を出て三か月後に、隣の大陸で……結果的には、自ら命を絶ちました。母が放った追っ手から逃れる事が出来ないと悟って、川に身を投げたそうです」
ああ、クリスさんのお母さん、自分がいなくなることでクリスさんを守ったんだ。自分があちらの手に落ちてから、どんな方法でクリスさんの居場所を追及されるかわからないから。魔法や薬を使って、無理やりしゃべらされるかもしれないって。
そう思ったら、なんかものすごく悲しくなってきた。だってクリスさんのお母さん、どう考えても結婚詐欺の被害者じゃない。
「フローラさん、本当に我が子の事を慈しんでいました。もう少し大きくなったらこの国を離れて、どこか遠くで親子で暮らしますって、そう言っていたのです。ですので、孤児院に置き去りにしたのは決して本意ではなかったと思います。そうする事でしか、守れないと判断しての事だったのだと」
フローラさん、クリスさんを孤児院に置いて行った後も、赤ちゃんを連れて行動しているように見せかけていたそうです。そうやって何とか隣の大陸まで逃れて、運よく行商の馬車に乗せてもらえて更に遠くまで移動して、到着した街で仕事も紹介してもらえて、やっと落ち着けると思っていたんだろうね。それがわずか二か月で崩れるなんて、思ってなかっただろう。
「彼女の死を知ったのは、彼女たちを逃がしてから一年ほど経った頃でした。冒険者ギルド経由で祖父に手紙が届き……そこで、手紙を届けてくれた冒険者から聞きました。フローラさん、生前に自分に何かあった時には手紙を祖父に届けてほしいと、冒険者ギルドに依頼していたそうです。その手紙で、彼女が最後を過ごした街へたどり着くまでの経緯を知りました。ただ、息子をどうしたのかは書かれていなかったので……恐らく、手紙が母の手に渡る可能性も考えて、あえて書かなかったのだと思います」
お兄さんの話を、ただ静かに聞いていたこちら一同。クリスさんも思うところがあるのだろう、やや険しい顔をしている。
そうして一通りの事を聞き、しばしの沈黙が続いた後。
最初に口を開いたのは、兄だった。
「クリスの母に関しては、こちらでも行方を追っていたのですが……そうですか。すでに故人でしたか」
「はい。逃がすだけで、結局は守ることもできませんでした」
そう言って、項垂れる公爵様。いやいや、さっきも言ったけど当時十歳の貴方に出来ることなど限られていたでしょう。そんな中でも最大限に最善の行動をしたんじゃないかと思うよ。そうじゃなければお母さんもクリスさんも、早々に殺されていた可能性の方が高かったんじゃないかな。
「クリスの母のことは残念ですが、当時の貴方の行動があればこそ、クリスもここまで成長できたのだと私は思います。改めて息子の大切な親友でもあり従者でもあるクリスを守ってくれたこと、感謝します」
穏やかな声で、相手を労わるように兄が言った。
公爵様は軽く目を見開いて……俯いた。小さく、ありがとうございますと呟いて。
その後、兄弟だけで話をする時間を作り、三人はずいぶんと長いこと話をしていた。当初は警戒していたクリスさんも彼らと話すうちにそれも和らいだようです。赤ちゃんだったころのクリスさんがどれほど可愛らしかったかを力説する公爵様に、ちょっと困惑してはいたようですが……色々と話を聞けてクリスさんも納得した様子。ギベオンが加わったこともいい方向に作用したようです。
そうそう、お二人が会いに来た目的ですけどね、一番は無事な姿を見たかったという事らしいです。それとひとつ、忠告というか面白くない情報ももたらしてくれました。
それが、伯爵家を継いだ次男さんの動向。
次男さんというか正妻さんがクリスさんの情報を入手して、伯爵家にとってというか自分がより優位に立つために都合の良い縁談をまとめようとしているらしいです。次男さんも自分が家を継いだ以上は、自分の役に立てるのが当たり前だと考えたようで、父親似のクリスさんなら使えると考えているんだとか。父親である前伯爵は、相変わらずだそうで。……伯爵家、いろんな意味で終わってない?
まあ、兄もこう言った可能性を危惧していたからこそ、クリスさんをフォックス家の養子としたようです。なので、今更出自が明らかになろうと、今になってあちらの伯爵家の子息として認知されようと、すでに他家の養子となっている以上は手出しできないんだって。これが同じ国内だったらちょっとややこしいことになりかねなかったらしいんだけど、国を跨いでのことになるのでヘタに騒いだら外交問題になるから、黙らせることは可能だそうですよ。
ただ三男さん曰く、次男さんは浅慮な上に激昂しやすい性格なようで、自分の思い通りに事が運ばないとその傾向が強くなるんだそうです。……え、本当に大丈夫? そんな人が当主でいいの、伯爵家?
取り合えず、公爵様たちはまだしばらくこちらに滞在するそうなので、後日グランジェ家にもお越しいただくことになったようです。シルヴァン様がお二人をグランジェ家に招待したいと伝えたら、公爵様が目をキラッキラさせてたけど……大丈夫かな、この公爵様。次男さんとは別の意味で心配だよ。
まあ、そんな感じで会談は無事に終了して帰ってきたわけですが。
帰るなり兄の執務室で会議です。新たにザックさんを加えて。あ、クリスさんはシルヴァン様と共にグランジェ家へと帰りました。今後の事を色々と相談するそうです。
「あ~……まあ、こっちで把握してた情報とそれほど違いはないっすねぇ」
兄から一通り聞いたザックさんの感想。そうですか、あらかた把握はしていたんですね。そういえば、前にそんなことを言っていたような気もする。
「いっそのこと、次男が旦那にケンカ売ってくれれば手っ取り早いんですけど。……旦那、ちょっと行って挑発してきません?」
「何をする気だ」
「面倒なんで潰しておこうかと」
「やめなさい」
なんか、ものすごく物騒な会話をしているような気がするんですが。
「ゼイン殿の懸念は注視しておくべきじゃないっすかね」
「まあ、なぁ」
確かに、注意しておくに越したことではないですよね。聞いてた感じだと、相当な我儘坊ちゃんな感じなのかな。伯爵様な次男は。絶対に問題児だよねぇ……お母さん似らしいし。外見も性格も。
「クリスを直接狙うよりは、周囲に手を出しそうだからな」
「そうなるとマキさんが標的になる可能性が高いでしょうねぇ」
「え、私?」
いきなりザックさんに名指しされて、びっくり。
ここで私、登場ですか? 全然嬉しくないんですけど。
「そうなる可能性は高いですよ。ちゃんと自覚した上で行動してくださいね」
ザックさんからも注意受けました。……自覚しろと言われても。そんな理由で狙われるとか、意味わからんのですが。
「マキさんに何かしようものならルナが暴れるのは目に見えてますからね。周囲を巻き込んでの大惨事になりますよ」
指摘されて、思わずルナちゃんを見る。……ルナちゃん、私の肩でずっと良い子にしてたんですよ。今はうとうとしてる感じです。でもまあ、確かにルナちゃんが本気出したらとんでもない事になるのは想像がつく。トレントを丸裸にした実績があるし。
「気を付けます」
うん、本当に気を付けよう。ルナちゃんが本気で怒ったら、どれだけ被害出るかわからないもん。その所為で危険だなんて言われかねないし。ルナちゃんの安心安全のためにも、気を付けよう。
「……ルナの心配より、ご自身の心配をしてほしいんですがねぇ」
呆れた感じで、ザックさん。こちらの考えが筒抜けなようです。
相変わらず、本当になんでわかるのかな。
「まあ、取り敢えずは全体の警備体制も見直しておきますね。旦那、そっちも進めといてくださいよ」
「わかってる。マキ、お前も不用意に出かけるんじゃないぞ」
「わかってるよ」
流石にあれだけ言われれば注意しますよ。
そんな感じで、この日のお話は終了しました。しばらくは落ち着かない日々が続きそうです。




