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23 年末


 初迷宮から帰ると、例の稀少な薬草の件でギルドマスターから兄に連絡があったと聞かされました。薬師の皆さん、大興奮ですごかったらしいです。さっさと逃げて正解だったわ。

 で、兄には薬草があった場所は伝えてあったので、レティちゃんのおじい様にはこちらで騒ぎになりつつあることは伝えてくれたそうです。そこで私が薬草を見つけた辺りを改めて確認したその結果、すぐ近くに非常に珍しい群生地が見つかったようで、今後は適切に管理することが決まったとの事でした。

 そのことをギルドマスターに伝えたところ、優先的に買わせてもらえないかとお願いされたらしいのですが、場所がグランジェ家の領地なのでシルヴァン様と話すように伝えたそうです。あ、シルヴァン様も薬草の件は知ってますよ。クリスさんが報告済みです。

 まあ、私に出来ることはないので、あとは兄とシルヴァン様がうまいことやってくれるでしょう。私はこれ以上関わらないよ!


 そしてなんやかんやと過ごしているうちに、年末が近くなってきました。

 兄宅は今日と明日、家門の方々が大勢いらっしゃるそうなので、私以外は数日前から大忙しです。ずいぶんと前から色々と準備してたのは知ってるけど、本当に大変そうなんだよ。集まりは今日の夕方からスタートで、終わるのは明日の昼間だって。え、貫徹? がんばれ、にーちゃん!


 私? レティちゃん宅でお子様たちと一緒にまったりしていますが、何か。


 いや、何か手伝う事ないかなとは思ったんだよ。居候の身だし。冒険者活動のおかげで多少稼げるようにはなったけど、相変わらず生活費は受け取ってくれないし。

 だからせめて、裏方でも手伝えることないかなと思って聞いたんだよ。そうしたら兄が、お前がいると余計な事を企むバカが増えるからレティちゃんの所へ行ってろって。

 そう言われたら、従うしかないじゃないですか。無理に手伝ってややこしいことになっても迷惑かけるだけだし。

 なので、大人しくシルヴァン様宅へお邪魔することにしました。


「ふふ、お父さまはマキが心配なのよ」

 心配かけてるのはわかってるんだけど、それにしたって過保護を通り越してないかな?

 私としては、そう思うんですが。

「私はお父さまの言いたいこともわかるわ。だってマキってば、いまだに外にいる時に気を抜いている事が多いんだもの。来たばかりの頃と比べたら改善されているけれど、それでもまだまだよ。ジゼルの方が警戒心が強いわ」


 うーん、レティちゃんに言われると反論できない……


 これに関してはレティちゃんの言う通りで、誰に聞いても私の警戒心、こっちに来たばかりの頃と比べたらマシにはなってるけれど、十分ではないって言われます。まあ、一緒にいる事が多いクリスさんにダメだしされてる時点で、本当にダメなんだなとは思ってるよ。

 でもさ、本当にわからないんだって。こればっかりは、育った環境が違いすぎるから仕方ないよなと、兄にも遠い目押されました。……平和ボケした日本人に、こっちの人並の警戒心を標準装備しろって言われても難しいってば。

「最近はマキも自分の感覚だと危ないって事は理解したみたいだから、まだ良いけれど。クリスも最初の頃は気が気じゃなかったみたいよ」

「それは……ハイ。反省してます」

 ええ、私の専属護衛となっているクリスさんには、一番心労をおかけしていることは間違いない。好奇心の赴くまま、入り込んだら危険な場所にも平気で行こうとして止められたことも、一度や二度ではないし。

 いや、だってさ、ちょっとした路地裏とか気になるじゃん? ほら、路地裏の隠れた名店とかあるかもって思って……その辺り含め、こっちでの常識とかもお説教されながらがっつり叩きこまれたけどね! ……知識としては、きちんと頭に入ってるんだよ。知識としては。行動に結びつかないだけで。

「この国は周辺の国と比べたら比較的スラム街とかは少ない方だけれど、全くないわけではないわ。それに、そう言った場所は犯罪者の拠点になりやすいのよ」

「うん、頭ではわかってはいるんだけどね……」

 知識としては、確実に蓄積されていってはいるんですよ。でもね、街中を散策していると、たまにそれがスコーンと頭から抜け落ちて、気になるモノが目に入るとそっちにフラフラっと……クリスさんに止められる、ってとこまでがワンセットで比較的よく起こります。その後、説教されることもしばしば。いや、本当にゴメンナサイ。

「母上、今日はパットはこないの?」

 突然の乱入者。いえ、最初から一緒にいましたけどね。只今おやつタイムなので。ちなみにジゼルちゃんはお昼寝中です。ちょっと前までいたんだけど、睡魔に勝てなかったみたい。

「今年から、開会の挨拶だけは顔を出すのですって。それが終わったらこちらに来るわよ」

「そっかぁー」

 ヴィクトル君、納得したようです。

 カンタール家の次期当主となるパトリック君、今年で八歳になったので次期当主として家門への顔合わせの機会を徐々に増やしていく予定なんだそうです。本格的なモノは十歳のお誕生日を予定しているらしいけど、今から少しづつ経験を積ませるんだって。

 それを聞いた時、まだ八歳なのにって思わず兄に言ったら、お前よりよほどしっかりしてるし次期当主であることも自覚していると返されました。どういう事かな、にーちゃん!?

「パットもヴィクトルも、歳の割にはしっかりしているから頼もしいわ」

 レティちゃん、ニコニコ。うん、二人ともしっかりしているよね。本当にお子様かと疑いたくなることが多々あるもの。

 まあ、二人とも周囲の大人が規格外な人たちばかりだし、ああなるのもある意味必然かなとは思うんだけどさ。でもまあ、年相応だなって思う事も多いし、良い子たちだよね。

「ねーねー、まきちゃん」

「うん? なにかな?」

「しかくいはこ、たくさんもってきたでしょ? なににつかうの?」

「あー、あれはね」

 四角い箱。おせち用の重箱です。なんでそんなものを持っているのかと言えば、ミサキさんに相談したから。

 ミサキさん、職人繋がりでかなり顔が広いらしく、おせち作りたいのでどこかで重箱が手に入らないかと相談したところ、知り合いに漆器職人がいるから作らせると仰いまして。え、いいのと思ったんですけど、ミサキさんもおせち食べたいとの事だったので、お願いすることにしました。食材は前からエルさんにあれこれ相談しててほぼ集まっていて、手間のかかる料理のいくつかはすでに作って異空間バッグの中で保管してます。ほら、昆布巻きとか時間かかるじゃないですか、だからちょっと前から仕込んでたんですよ。でね、どうせなら入れ物もそれらしくしたいなと。

 ちなみに重箱は三段の特大のが八個、ミニサイズが五個ほど届きました。あれ、大きいの五個と小さいのふたつくらいあるといいかなって言ったはずなんだけど、ずいぶんと多くない?

「あれね、新年用のお料理を詰めるのに使うんだよ」

「しんねんようの、おりょうり?」

 こてんっと首を傾げるのが可愛らしいっ。

「そう。私が前にいたところではね、一年の一番初めの日をお正月って言うんだけど、そのお正月に食べる特別なお料理があるんだ」

「とくべつ!」


 そこに反応するか!


「そう。普段とはちょっと違うお料理をたくさん作って、四角い箱に少しづつ詰めるんだよ。それを、みんなでお正月に食べるの」

「ぼくも食べたい!」

「うん、ヴィクトル君たちの分も作るからね」

「じゃあ、ぼくもおてつだいする!」


 おや、お手伝い宣言が。


 私は明後日まで帰って来るなと言われているので、明日はここの厨房を借りていくつか作る事になっていたんだけど、強力な助っ人をゲットしました! うん、流れ的にパトリック君も加わるだろうし、こっちで作るのはお子様でも危なくないメニューを選ばねば。

 お子様達には、ちょっと大変かもしれないけど栗きんとんの芋餡部分でもお手伝いしてもらおうかしらと考えつつ、同時並行で作った方が良さそうなものを考えていると。

「奥様、申し訳ございません。お約束のないお客様がお見えですが、お帰り頂いでもかまいませんでしょうか」

 侍女さんが来客を告げに来た。しかし、約束のないお客さまって時点で嫌な予感しかしないんですが……てか侍女さん、追い返す気満々なのね。一応、確認してからにはしたみたいだけど。

「どなたかしら?」

「お尋ねしてもご当主様に会わせろと仰るだけで、お答えいただけません」

 侍女さん、ニコニコしてるけど、なんか怖いっ。そして、それを聞いたレティちゃんの笑顔も怖いっ!

「そう。お帰り頂いていいわ」

「畏まりました」

 深々と礼をすると、音もなく去っていく。

 兄宅もそうだけど、レティちゃん家の使用人さんたちって特別な訓練でも受けているのかな? たまに、気配もなく背後にいたりするからびくってなる事がちょいちょいあるんだけど。

 まあ、色々と逆恨みされることも多いって聞いているし、皆さん身を守る術がないと危ないのかもしれない。

 そんな事を考えていたら、レティちゃんが立ち上がって窓の側へ。どうしたのかなと思ってたら、例のお客様を確認していたようです。

「あの方、確か伯爵家だったわね。約束もなしに押しかけたばかりか娘まで連れて来るなんて、本当に何を考えているのかしら」

 呆れのこもった声で、レティちゃん。

 実はですね、例の夜会の後にクリスさんが伯爵家の養子となった事が一斉に社交界に知れ渡ったようでして。身分の問題さえクリアできればかなりの有力物件という事で前から注目されていただけに、直後から縁談が殺到したんだそうです。それこそ高位貴族の家からもお話が来てたようです。

 通常なら、格上の家からの話は断りにくいみたいなんだけど、ここで思わぬ威力を発揮したのが、マリウス殿下のお名前。

 当然、クリスさんがそれなりの身分を得ればこうなる事はわかり切っていたので、マリウス殿下は先手を打ってました。


『我が国で保護している異世界人マキ、その専属護衛であるクリストフ・フォックスの活動を制限・妨害・または本人の意思とは関係のない接触は認めない。面会を希望するのに正当な理由があれば、まずは王室経由で申し込むことを義務付ける』


 クリスさんのことを公にすると同時、こんな声明がマリウス殿下のお名前で発表されたそうです。要するに、私的な理由で勝手に接触しようとするなって事ですね。自重しろって言ってるけど、実質禁止だそうで。

 マリウス殿下が直々に声明を出した事で、【あ、これは手を出したらダメなヤツだ】と、ほとんどの人は察したそうです。ただ、どこにでもおバカさんはいるんですよね。

 王家に申し込んでおけば問題ないとか、個人的に親しくなれば関係ないとか、そんな解釈した人が一定数はいるとの事で、そう言った連中がここや兄宅、兄の兄宅へと訪問してくるんだそうです。あと、勝手に暴走しているご令嬢とかは上からの通達なんぞ気にせずに我が道を行く状態だそうで……それで問題を起こせば自分の家族にも迷惑が掛かる可能性大だと思うんだけど、その辺りは考えないのかな?  恋は盲目って言うけどさ、後先考えなさすぎじゃない?


 ていうか、それよりも。


「そもそも、陛下直属の近衛騎士であるシルヴァン様が、こんな時間に家にいると思っている時点でおかしくない?」

 当然の疑問を口にしたら、ヴィクトル君がうんうん頷いている。

「おかしいよねー。父上、おしごと中だよ」

「そうだよねー」

 ほら、お子様だってきちんと理解しているじゃない。

「本当よね。私みたいにある程度は時間に融通が利く勤務形態ならともかく。夜勤こそ免除されているけれど、日中はほぼ陛下と行動を共にされている事は有名なのに」

 レティちゃん、完全に呆れ顔です。

 シルヴァン様、陛下の専属護衛だけど、側近としてお仕事のお手伝いなんかもしているので、基本的に日勤だけなんだそうです。まあ、成績優秀だったシルヴァン様の頭脳を使わないのはもったいないって、周囲からの意見もあっての事らしいですが。本当はね、宰相様が自分の後を任せる人材としてするヴァン様を狙ってたらしいですよ。本人が近衛騎士を目指していたんで説得しきれなかったらしいけど。

「あのおじさん、おしごとないのかなぁ」

 ヴィクトル君が不思議そうな顔をしてそんな事を言うので、思わず吹き出しそうになってしまった。

 お仕事がない、ある意味そうかもしれない。

「違うわよ、ヴィクトル。お仕事がないのではなくて、お仕事が出来ないから時間が余ってるの」

「そっかぁ」


 レティちゃん、辛辣! そしてヴィクトル君、納得しちゃうんだ!?


 いや、私もそうだろうなとは思ったよ? だって年末が近いこの時期、お城勤めの方たちは最後の追い込みでいつも以上の激務だって聞いているし、領地持ちの家ならそれこそ王宮に提出する収支報告の作成とかもあるから時間なんていくらあっても足りないって聞いてるし。まあ、資料のまとめとかは部下がやるだろうけど、最後の確認とかその他諸々は当主じゃないとダメって兄も言ってたし。

 そんな時期に娘連れてふらふらしてるんだから、いても役に立たないと判断されているって事なんじゃないのかな、と思うわけですよ。もしくは言っても聞き入れないから誰も何も言わないか。

 どっちにしろ、当主に変わって仕事をする優秀な人材がいないと無理な話なんじゃないかな。あの兄でさえ、ザックさんをフル活用しつつ、領地にはものすごく優秀な代官を置いているから何とかなってるんだって言ってたもんなぁ。



 **********



 夕方になり、パトリック君がネコに乗ってやってきました。……部外者がわんさかいる今日に限って、なんでそんな目立つことしたの???

「父上がね、ぼくのお友だちだからって、かもんのみんなに、フブキをしょうかいしてくれたんだ!」

 パトリック君、初めてお友だちを紹介出来てご機嫌なようです。挨拶する時も、フブキに乗って会場入りしたんだって。いやもう、会場の反応が目に浮かぶようだわ。


 次期当主のパトリック君、いくら年の割にしっかりしているとはいえ、まだ八歳。当然、そこに付け入ろうとする者はいるわけです。

 ザックさんの息子がパトリック君の従者兼護衛って事で同時にお披露目されたらしいんだけど、確かこの子もまだ十代前半。はっきり言って、まだまだ力不足。

 そこで兄、パトリック君と契約しているネコ(フォレストパンサーって言う、A級の魔獣)の存在を公表したらしい。ネコも中身はまだ子供だけど、見た目だけはデカいし威圧感あるしね。牽制するには丁度良いと考えたようです。確かに、守りとしてはこれ以上ないだろうけどさ。普通の人じゃ絶対に勝てない相手だろうし。

 とにかくまあ、そんな魔獣にまたがって次期当主が登場したわけですよ。


 その結果、しばらく会場中が静まり返っていたそうだ。


 そりゃそうでしょうよ。いくら契約者がいるとはいえ、普通に遭遇したら死を覚悟するような魔獣らしいからね? 確かに、あのぶっとい前足で、ちょっとパシッてやられただけでも致命傷になりかねないだろうけど。

「お父さまも、酷な事をなさるわ」

 楽しそうにコロコロ笑いながら言う事じゃないと思うんだけどね、レティちゃん。まあ、パトリック君の今後を考えたら、最初にガツンとやっておいた方が後が楽ってのはあるんだろうけどさ。


 ただね、兄も考えなしにやったわけではなく、多少の配慮はしていたそうで。


 最初に当主と次期当主、当主代理だけを会場に入れ、パトリック君を紹介したんだって。まあ、この時点で数人の女性もいたらしいんだけど、当主、もしくは当主代理としてバリバリ働いているような人たちだったんで、兄は大丈夫だろうと判断したんだと。兄曰く、家の命運を握ってるような女性たちの方が、よほど肝が据わっていると。

 事実、女性たちは驚きはしたものの、皆さんフブキを見てキレイな子だって褒めてくれたそうです。どっちかというと、おっさんたちの方が顔色悪かったり倒れそうになっていたりしたらしい。

「あと、ヒョウガって子もいて、その子はヴィクトルのお友だちなんだよって言ったら、あわせてほしいっていってたよ」

「そうなの? じゃあ、こんどいっしょにあいにいってみようか」

「そうだね。あしたのお昼くらいまではいるっていってたから、いっしょにあいにいってみよう」

「うん、そうしよう」

 どうやら明日にもヒョウガまでお披露目されるようです。

 良いのだろうかという思いを込めてレティちゃんを見るも、楽しそうにしていらっしゃるだけでした。こういうトコ、やっぱりにーちゃんの娘だよなぁ。

「それなら、お父さまには私から連絡をしておくわ。二人とも、それでいいかしら?」

「「はい!」」


 ノリノリな感じだけど、本当に大丈夫かな。フブキ見て倒れそうになってたオジサマたち、二頭も目の前に現れたら気絶するんじゃないの?


 若干の心配はあるけど、兄は許可するだろうなぁ。むしろ、しっかり恐怖心を植え付けておけとか考えてそうな気がする。

 その後の話し合いで、朝ごはんを食べてから二人で向かう事が決定しました。それぞれネコに乗って向かうそうです。……乗っていくんだね。

 まあネコたち、大人でも普通に乗せて走れそうなサイズだから、子供一人乗せたところでどうってことはないんだろうけどさ。いっその事、乗りやすいように専用の鞍でも作ってやればいいんじゃないかな。


 何気にそんな事を口にしたらお子様二人はそれだって顔して大賛成、レティちゃんまでノリノリになっちゃったよ!

 いや、あの、ネコに鞍をつけるってどうなのって、自分で言っておいてなんだけど、ちょっと問題ないかなと一応は止めたんだけど、ダメだった。もうダメだ、これは私じゃ止められない。


 ネコたち、余計なモノを装備させられたらごめんよー。



 **********



 只今、シルヴァン様宅の厨房をお借りして、せっせとおせちの準備をしております。

 取り敢えずはお世話になってるみなさんに、ちょっとだけでも日本風の年末年始を体験していただこうかなぁ、と思いまして。

 食材の大半はエルさんが調達してくれたので、本当に助かりました。この辺りでは全く見かけない食材も多くて、どこから見つけて来るんだと兄が呆れていましたが。

「まあ、大半は同じか類似品があるから助かるけどねぇ」

 一人で黙々とおせちをお重に詰める。

 昆布もあったし、たづくり用の煮干みたいなのもあったし、レンコンやタケノコなんかもあったので煮物も作れたし。さすがに数の子はなかったけど。

「まきちゃん、こっちも出来たよ」

「あ、ありがとうございます!」

 シルヴァン様宅の料理人さんたちも例によって手伝ってくれています。元々兄が継いでた家だからね、みなさん和食系も難なく作ってくださいます。説明楽でいいわぁ。

 兄、流石におせちは再現できなかったようで、おせち作るからしばらくキッチンに籠る宣言した時なんか、速攻で許可くれました。兄も食べたかったらしい。

 エルさんとミサキさんなら作れそうなもんだけど、作ったことはなかったんだって。別に作れないとかではなく、単純に年末年始は何かと忙しくて作る暇がなかったんだそうです。

 まあ、おせちって簡単にぱぱって作れるわけではないしねぇ。品数半端ないし。でもまあ、黒豆とか本当に良く見つけて来たなと思うよ。おかげでふっくら美味しそうなお豆の煮物が出来ました。

「昆布巻きもいい感じに柔らかく煮えたし……考えたら、身欠きにしんもよく見つけたよね? 本当に、どうやって捜してきたんだろ」

 なんか、食材関係はエルさんが独自のルートをもっているらしいんだけど、それにしたってだよ。まあ、貰ったのが本当にニシンかはわからないんだけれど、少なくとも味と食感は変わらない。うん、美味しく柔らかく出来た。

「マキ、エルから追加でなんか届いたぞ」

 みんなで味見という名のつまみ食いをしていたら、ひょっこり兄が顔を出しました。わざわざ届けに来てくれたらしい。でもさ、今日もまだ忙しいんじゃないの? 家の方は大丈夫なのかな。

 でもまあ、ついでなので。

「にーちゃん、味見!」

 すかさず、美味く煮えた黒豆と昆布巻きの小さいのを小皿に入れて差し出す。代わりに手に持ってた荷物は受け取った。

 ついでに箸も渡せば、器用にお豆をつまんで口に放り込む兄。……本当に、当たり前のように箸使ってるよね、この人。この、西洋人風な容姿でさ。まあ、私も何も考えずに箸渡したけど。

「あー……これこれ。これだよなぁ、年末年始」

 次々とお豆さんを箸で掴んでは口に放り込む兄。

 見た目が完全な西洋人だけど、やっぱり味覚と中身は日本人のままらしい。普段の食生活で分かってたけど。

「いい感じに煮えてるでしょ」

「うん、美味い」

 昆布巻きも食べて、空になった小皿を箸を受け取る。

「ところで、追加の食材って? 何も頼んでないんだけど」

「ん? ああ、急遽、作ってもらったと言ってたぞ」

 兄も中身は知らないらしい。

 作ってもらったと言う言葉に首を傾げつつも、取り敢えず包みを開けてみる。

「うん? ……あ、お餅!」

「餅!?」

 お餅だった。しかも、まだ柔らかい。

 思わず兄と顔を見合わせる。

「お雑煮? お汁粉?」

「雑煮。おせちと一緒に食いたい」

「じゃあ、お雑煮にしよう。子供達のはこう、ジゼルちゃんでも余裕で飲み込めるくらいに小さく切って」

「俺はデカくてもいいけど、食ったことない連中はこえーな」

「ああ、そっか。じゃあ、小さくもするけど、薄く切った大根かなんかで挟む? 多少は違うんじゃない?」

「そうするか。って、そろそろ戻らんとヤバいな」

 若干、嫌そうに呟いてる。だって、お昼くらいまでは親戚たちの相手をするわけでしょ。ちょいちょい休憩を入れるとはいえ、大変だろうなって思うよ。

 なので、笑顔で言ってあげましたとも!

「がんばれ!」

「お前、他人事だと思って……」

 ぶちぶち言いつつも、兄退場。


 そう言えば、いまお子様二人が猫に乗って兄宅へ行ってるんだったな。会場の反応、どんなだったのか聞けばよかった。

 本当は、ちょっと見てみたかったんですけどね。うっかり面倒な人に見つかってもアレなので、止めておきました。

 まあ、二人が帰ってきたら、聞いてみるとしましょうか。






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