石の塔
「君のその、使命っていうのはなんなんだい?」
ピンクは、時々思い詰めた表情をする。彼女の横を飛びながら、ロバジョイはそれを心配していた。
「悪魔王を倒すのは、私がしなきゃいけないこと」
「ドルトムントを目指すんだから、そうだと思った。でも、無理だよ。君がどれだけ強いのか、それとも全然強くないのか知らないけど、悪魔王は倒せないよ」
「なんでそんな言い切れるの? 私の強さも知らないでしょ」
「じゃあ君は、悪魔には勝てるのかい?」
ロバジョイがそういうと、ピンクは黙ってしまった。
「ごめん、責めたりしようとしてるわけじゃないんだ。無駄に死んでほしくないんだ」
「あなたは、悪魔王にあったことはあるの?」
「ないよ。僕はまだ生まれて2年だからね、まともなヒトと会うのも初めてなんだ」
「じゃあ、なんで悪魔王のこと知っているの?」
「さあ……なんでだろう」
ロバジョイとピンクは、それ以上の会話はしなかった。
2人はエンケルクに向かって黙って進んだ。
しばらく歩くと、遠くに古びた塔のようなものが見えてきた。塔といっても、3階あるかどうかくらいの、チャチなものだ。
岩でできているみたいだったが、ところどころ苔むしていて、今にも崩れそうだ。
「本当に地図はあそこにドーナツがあるって?」
「うん。でもこの感じだと、生存者がドーナツの隠し場所にしているだけかも。どちらにせよ、ドーナツは貰っていくけど」
永遠に広がっているように見えた草原も終わりを迎え、あたりは深い緑の木が生い茂る森になっていた。
サンケルクの庭、と呼ばれる。
塔以外に建物は見当たらないが、地図によればもう少し進めば村があるようだ。
「村には行かないのかい?」
「ええ。悪魔のせいで村の人たちの警戒心は高いの。勝手に入ったら、こっちが殺されちゃうわ」
「ピンクはさ、どこからきたの?」
ロバジョイは、初めから思っていたがなんとなく避けていた質問を口にした。
「……エルパニア」
「エルパニア?! エルパニアって、たそがれの草原から100キロ以上あるよ!」
「あなたは、なんでそんなに知っているの? まだ二歳なのに」
「さあ? 鳥だからかな。そんなことよりピンク、君はどうやってここまできたんだい」
「どうやってって……歩いて。ドーナツホースもいなかったし」
「悪魔に、出会ったでしょ。倒したの?」
「……」
「君を怪しんでるとか、怖がっているんじゃあないんだ。ただ、疑問なんだ。女の子が到達できるような距離じゃないでしょう。何度か死にかけたりしたんじゃないの」
「死にかけたり……してない。今、私は無事にここにいるの。いいでしょう、それで。塔に入るよ」
塔の中はカビ臭かった。ここら辺は草原と違い雨が多いからだろう。入るまでの地面の土も少し湿っていたし、至る所にコクが生えている。
「この部屋じゃない、ドーナツがあるのは、きっと……」
ピンクは奥の部屋の扉を指差した。
「ああ、その部屋ね、行こうよ」
ピンクはじっとロバジョイのことを見ている。
「え? 行かないの?」
「違う。あなたが見てきて」