たそがれの出会い
無限に広がるピンク色の空。雲は水色。まるでわたあめのような雲は、ちぎって食べてしまいたいくらいかわいい。
ああ、愛の大陸『ラブランド』。中でもここは「たそがれの草原」。見渡す限り広がるイキイキとした緑色の雑草たちは、風に靡いて歌っているように音を立てる。
香りも最高。どこからともなくマカロンの香りが漂ってくる。いや、マカロンかはわからない!
とにかく、甘い香り。そこがラブランドのいいところ。この大陸に住む人たちはみんな、ドーナツしか食べない。飽きないのかなって思うけど、飽きないんだと思う。
ほら、1人旅人がやってきた。
「何1人で話してるのさ」
ピンク色の髪、ショートヘアで少しパーマがかかってる。女の子なのかな。話しかけてきた。
「やあ。僕はロバジョイ。幸せを呼ぶ青い鳥とは、僕のことさ」
僕は小さな青い羽をはためかして、ご挨拶した。
「そう。1人で話してるから、おかしい人かと思って」
彼女は少し冷たく話しているけど、口元は緩んでいた。
ラブランドは広さの割に人が少ない。ましてやここら辺の野原は余計にね。だからきっと僕に会えて嬉しかったんだろう。
「失礼だね 君は何してるんだい」
「ドルトムントに向かってるんだ、仲間を探しつつ」
「ドルトムント!? そんなところに行って何をするんだい」
僕がそういうと、旅人の表情は少し暗くなった。ドルトムントは、最悪の場所だ。
「私の使命なんだ。やらなくちゃ」
彼女はそう言い切った。けどその言葉には力強さこそあったものの、覚悟と希望がないように聞こえた。
「1人で?」
「……理想はそうだけど、流石に無理。王都とかで仲間を見つけようと思ってる」
「……そう。じゃあ僕も手伝おうかな! 人と会うのなんて久しぶりだし」
「やめた方がいいんじゃない。あんた、弱そうで使い物にならなそうだよ」
「だから、失礼だね! 君、名前は?」
「私は……”ピンク”。ピンクって呼んで」
「ピンク? 随分そのまんまだね」
ロバジョイは、その安直すぎる名前に少し驚いた。
「覚えやすくていいでしょ」
「そうかも。で、どこに向かってるの?」
そうロバジョイが聞くと、ピンクは持っている黒い手提げバックの中から白い板のようなものを出した。大きさは手のひらほどだ。
「何それ!」
ロバジョイの疑問を無視し、ピンクはその板の側面にあるてっぱりを押し込んだ。するとその白い板の片面が光光り、ここ”たそがれの草原”の地図を液晶に表示した。
「すごいや! どうなってるの?」
ロバジョイが近づいてみると、光っていない方の面にはリンゴのマークが刻印されていた。
「スマホ、っていうのよ。知らないだろうけど」
「知らない! それで? どこに向かってるんだい?」
「特定の場所を目指しているわけじゃないの。スマホのこのアプリを使えば、”ドーナツ”のありかがわかるのよ」
ピンクは画面をロバジョイに見せた。確かにマップにはチラホラドーナツのマークが表示されている。
「ほんとだ! これでドーナツ集めをしてるんだね」
「違うわ。ここを見て」
ピンクはマップをスライドさせ、ある一地点を指差した。そこには多数のドーナツのマークが重なっている場所だった。
「うわあ、ドーナツがたくさん! ここに行けばドーナツがたくさん食べれるんだねえ!」
「違うわ。不自然にドーナツがたくさんあるってことは、誰か他のヒトがいるってこと。ここに行けば、誰かしらに会える可能性が高いの。王都に行かなくとも、仲間が見つかるかも」
「ああ、なるほど!」
「とりあえず、目指すのはここ、”エンケルクの庭”N543、ここには確か廃村があったはず、仲間が見つかるかも」