第4話：どうして誰も私の言う事を信じてくれないの？
「マーガレット、体調を崩したらしいな。大丈夫か？」
「マーガレット、大丈夫？お医者様は大したことないとおっしゃっていたけれど…」
私の元にやって来たのは、両親だ。２人の姿を見たら、涙が込みあげてきた。お父様、お母様、私、親友だと思っていたマリンに裏切られたの。あろう事か、マリンはジェファーソン様と関係を持っていたのよ。
だなんて、さすがに言えない。それでも婚約破棄をしたい事だけは、伝えないと…
「お父様、お母様、私…」
「マーガレット、体調を崩したそうじゃないか？大丈夫かい？」
この声は…
扉の方を見ると、そこにはジェファーソン様の姿が。彼の姿を見た瞬間、一気に血の気が引くのが分かった。
「ジェファーソン様…どうしてあなたがここに？勝手に部屋に入らないで下さい…」
震える声で必死に訴えた。
「マーガレット、何を言っているの？ジェファーソン様は今日あなたの様子がおかしい事を気にして、わざわざ来てくれたのよ」
「そうだぞ、感謝はすれど文句を言うなんてお門違いだ」
なぜか私が両親に怒られてしまった。まあいいわ、ちょうど本人も来た事だし、この際だからこの場で婚約破棄を願い出よう。
「お父様、お母様、私とジェファーソン様は婚約破棄を考えております。どうか私達の婚約破棄を認めて下さい」
お願いします！と、言わんばかりに頭を下げた。
「マーガレット、お前は何を言っているのだ！」
「そうよ、一体どうしたの？」
「伯爵、夫人、実は今日、少しマーガレットと喧嘩をしてしまいまして。マーガレット、あれは本当に僕が悪かった。僕が愛しているのは、マーガレットただ１人だ。だからそんな悲しい事を言わないでくれ」
「私を愛しているですって？マリンと何度も何度も口づけを交わし、はだけたマリンの胸に顔をうずめていたくせに。あれは立派な不貞行為ですわ！」
これ以上気持ちを抑える事が出来ない。涙を流しながら、必死に訴えた。この国では不貞行為は立派な婚約破棄理由になるのだ。
「ジェファーソン殿、一体どういう事だ？マリン譲と口づけとは…」
お父様も目を丸くして驚いている。
「落ち着いて下さい、伯爵。僕は彼女と何の関係もありません。ただマリン譲にマーガレットの事を相談していたところを見て、僕たちが不貞行為をしていると勘違いしたのです。マーガレット、本当に僕たちは君の事を考えて話をしていただけなんだ。どうか婚約破棄だなんて、悲しい事を言わないでくれ」
「ふざけないで！何度も何度も口づけをしていたじゃない。私はこの目で…」
「いい加減にしてくれ！そこまで言うのなら、僕とマリン嬢が口づけをしていたという証拠を見せてくれ。マーガレットが嫉妬深いというのは知っていたが、虚偽は良くないよ」
虚偽ですって？あんな行為をしていて、私が虚偽を言っていると言うの？
「マーガレット、ジェファーソン殿の言う通り、証拠はあるのかい？映像を残してあるとか。この国では証拠が全てだ。証拠がなければ意味がない。それに真面目で誠実なジェファーソン殿が、不貞行為だなんてとても信じられない」
「そうよね、マリン嬢だって、侯爵令息のローイン様と婚約しているし。マーガレット、いくら２人が仲良くしていて気に入らないからって、虚偽は良くないわ。とにかく、２人の婚約破棄なんて認められないわ。分かったわね」
「そんな…お父様、お母様、私は嘘を言っていませんわ。どうかお願いです。婚約破棄を…」
「いい加減にしないか。ジェファーソン殿、娘が申し訳ない。娘にはしっかりと話をしておくから。どうかこれからも、マーガレットの事をよろしく頼む。ほら、お前も謝りなさい」
お父様が私に向かって怒っている。どうして？どうして私が謝らないといけないの？私は被害者なのに、どうして…
謝らない私の頭を掴み、無理やり頭を下げさせるお父様。どうしてこんなひどい目に会うの？どうして私の言う事を誰も聞いてくれないの？
悔しくて悲しくて、涙が止まらない。
「伯爵、落ち着いて下さい。マーガレットに悲しい思いをさせた、僕にも原因があるのですから。マーガレット、悲しい思いをさせてしまってすまなかった。これからは極力君の傍にいるから安心して欲しい。ずっとずっと傍にいるから…」
不敵な笑みを浮かべ、こちらを見つめているジェファーソン様。その姿を見た瞬間、凍り付いた。
私は一体、どうすればいいのだろう…
