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 領主エレガン、王国特使の俺をはじめ、ネロ、オクパトス。

 四大貴族のルイス、カタリナ、ファルス、カイ。

 領主邸の会議室に集まった常任理事たちに加え、俺とルイスとの間には、イシスという狐の獣人と軍人が並ぶ。

 ファルスは外に行商人を控えさせ、カイは側近としてレンを招いた。


「してやられたな。」


 俺の発言で、会議は動き出す。


「そうですね。何が起こったのか。整理していきましょう。」


 まずは、反乱軍の手口についてだ。

 やけに大人しくしている反乱軍の軍人バルカが、ゆっくりと話しはじめる。


「西の、孤児院のほぼ真上に位置する副結晶を使ったんだ。」


 そんなことは分かってる。

 恐ろしいまでの短期決戦が、どの様に仕組まれたのか。


「そんなことは赤子でもわかるわ。だが解せぬ。なぜお前たちはあれほどまでに統制がとれていたのだ。」


 自らの懐から発生した反乱。

 軍務部のルイスからすると、あの統制が最も不可解だったようだ。


「害獣期だ。害獣であっても傷つけることを禁じられ、何もできずに殺られた。実際、あの時期は何人も餌食になったんだ。」


 畑を食い荒らす害獣だと言って、鳥獣憐れみの令を軽んじるように、より残酷に殺されて吊るされた犬猫が発見されての適用拡大だった。

 思えばこの頃から、妙な悪知恵がはたらくヤツがいたのだ。

 その使い方は、褒められたもんじゃないが。


「犠牲を払い、群れて個として動くことさえできれば、大型肉食獣でさえ退けられることを知った。」


 人間軍として徴用された頃には、既に統率がとれていたってわけか。

 だが人間軍への移行も、獣人期に軍属のイシュの民の保護が進んだからだ。

 兵舎や家畜のいなくなった牧草地での訓練。

 外壁の外側のそういった場で、適法に保護されていった。


 いったいどこまでが計画のうちだったんだか。


「でも、森の中ではそういうわけにはいかない。でしたか。とんだ詭弁ですね。」


 そう言い出したのは、水務家のカタリナだ。

 過剰な護岸工事の言い分のことだろう。

 自らの管轄である治水が利用されたことで、腹に据えかねているだろう。


「事実だ。群れる強みは拓けた土地でしか出せない。武器が使えず、番犬も持てない状況では、はぐれれば餌食だった。」


 だから、広く森を切り拓く必要がある。

 群れを大きく見せるため、現場や作業路を広くとる。


「それがホンマやったからこそ、まんまと作戦の準備を許してしもたってことですか。」


 皆が一様に苦々しげな顔をする。


「財政への負担を低く提示したのも計算のうちかな?」


 ネロが指摘する。

 そう、過剰な護岸工事という副産物を、わざわざ否定する必要もないと思えるくらい。

 事実、ネロは何も言わなかった。


「軍の演習として森に入る。死傷者は徐々に減っていったからな。軍務の予算を転用する価値のある、効果的な演習だとさえ思ってしまった。」


 ルイスは当時、イシュの民を徴用しない、人間軍の可能性について豪語していたほどだ。


「それも嘘偽りない。視界や足場の悪い森での集団運用は、磨かれた。」


 ネロの指摘には答えず、死傷者が減った理由を洗練された結果だと答えるバルカ。

 はぐれれば餌食という言葉は、実感を伴った言だったのだ。


「合図とか、連携だね。大人数の、意識共有の効果に対しては、僕たちこそ、甘く、見させられていた。」


 イシスが深く考え込むようにそう言った。

 独白のようでありながら、腹の底から出されたような、遠く響く声だった。

 響く音が重ならないように、言葉の間に隙間を置く。

 橙らしい喋り方だ。


 模擬戦において人間軍の集団戦法は、近衛軍には格好の的でしかなかった。

 知能の壁を越えると、集団擬態は、威嚇たり得ないのだ。


「言い方が反省じみているが、聞いてもいいか?」


 質問を誘うようなイシスの露骨な仕草に反応し、カイの隣にいるレンが手を挙げて発言する。


「結果を出した。その時まで、誰にも、気付かれることなくね。怒れないイシュの民が、思慮深いことに対するのと同じで、僕たち例外種は、知恵に対する認識が、一段甘いのさ。戦術が強力だから、戦略を重要視しない。と、いうことへの、反省さ。」


 たとえ広場の反対側から見ていたとしても反省していることが分かることだろう。

 大げさな身振りが場違いで、慣れていないとその発言内容への反応は、一歩遅れる。


「そういうことか。お前たち近衛軍は、取り囲んだり、攻撃して散らしたり、追い詰めたりという、隊列を崩壊させるための連携だけで、こやつらを簡単に撃破できていたからな。」


 間髪入れずにルイスが理解を示し、掘り下げる。


「そうだね。僕たちも、これからは大局を、見据えてみるよ。」

「頼もしいな。味方のうちは。」


 強力な近衛軍の弱点がひとつ潰れたようで、条件付きで称賛する。


「イシュの民の楽園。それが害されなければ、味方でいられるさ。」


 今、どちらなのだ。


 この外壁の街をイシュの民の楽園たらしめるための水結晶。

 人間はそれを利用し、本来、楽園の主たるイシュの民を、まさに今、害したと断言したのだ。


 背筋が凍ったような気がした。

 それは、エレガンも同じだったのかもしれない。

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