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魔法使いとふしぎな旅  作者: さとやよあけ
8/14

3

 



「ラスさん」

「ん?」


 宿に着くと私たちは離れられない為、同じ部屋にいた。

 何の特徴もない部屋は机がひとつに、椅子がふたつ。あとはベッドがふたつあるのみだ。

 勿論、異性が2人同じ部屋だからと甘い空気なんてものはない。彼は顔立ちは整っているが、私くらいの身長なのもあるが、顔立ちから私より年下に見えることもあり、弟のように感じてしまう。


 私は隣の寝台に寝転ぶ彼に近づくと、寝転がって本を読んでいたラスに声をかけた。


「この国の人たちは太陽の光を浴びるとどうなってしまうの?」

「さあ、そこまでは聞いた事がないかな。とある本には肌が弱いと書いてあったから、陽を浴びれないのかもしれないね」


 それは結構大変な事なんじゃないかとは思う。私たちにはなんて事ない事も、彼等にとっては一大事なのだ。


「ラスさん、私の我儘を聞いてくれる?どうしたら装置を直せるの」


 ベッド端に手を付いて、彼を見つめる。


「そこまでする義理はないでしょう。君は嫌な思いをしている訳だし」


 淡々と話す彼に私は言葉を繋げた。嫌な思いとはクッキーを盗まれたことだろう。


「ラスさんにも目的があるからだけど、私は貴方が外に出してくれる事が嬉しかった。私は何も力がないし、貴方にお願いする事しか出来ないけれど、助けてあげたいの。ラスさんが私を助けてくれたように」

「...大袈裟だね」


 やれやれとため息をつく彼は私に顔を向けると仕方がないと言うように起き上がった。

 さらりと綺麗な金色が揺れる。


「仕方がないなあ。ほら、異性のベッドにそんな近づいちゃだめだよ」


 そう嗜めながら、彼は優しげに微笑んだ。


「僕が直さなくても他にも魔法使いはいると思うんだよね、なかなか協力的な奴はいないけど、鉢合わせたら嫌なんだ。あとは褒美に銅像が立つ」

「ラスさんの銅像?」


「そ」と呟くラスさん見つめる。

 街中にラスさんの銅像が建っているところを頭に思い浮かべる。可愛らしい銅像に違いない。

 なんてことを想像しながら、私も自分のベッドに戻ると腰掛け、ラスの方を見つめた。


「感謝の意を表して銅像を建てるんだ。なんせこの国の救世主だからね。僕はそんなのはいらないから迷惑なんだ。リティ机の紙を一枚取ってくれる?」


 私は立ち上がり、机に備え付けの紙を一枚取るとラスに手渡した。


 また何やら聞いたことのない言葉を発すると、ラスの瞳の色は青から淡い緑色、赤色に変わる。そして、たちまち一枚の紙は淡く光、形を変える。幻想的な光景はすぐ終わり、それは見たことがある姿に変わった。


「鳥だわ」


 真っ白な鳥の姿になった紙は私の膝の上に飛んでくるとぴょんぴょんと歩いては首を傾げている。


「かわいい」

「ちょっと待ってて」


 私が鳥に夢中の間、ラスは何やらまた呟いている。

 数分が経った頃、ラスは立ち上がると私の膝上にいた鳥も彼の肩へと飛び移った。


 ラスの手には小さな丸い玉が握られていた。それは夜の帷のような色をしている。


「これで夜を繋げるんだ。この鳥に運んでもらうよ」


 ラスが窓を開けると、外の賑やかな声が聞こえてくる。下を覗き込むと、いくつものランプに照らされた通りは賑わい、お店も開いている。

 彼等は自分の国が一大事な事に気付いてないのだろうか。空からはまだいくつものチラシが舞っているというのに。 


 彼は小さな鳥に夜の帷色の玉を咥えさせるとふぅっと優しく息を吹きかける。すると鳥は空高く飛んで行き、少し先にある大きな時計台の方へ飛んで行った。


「これでお終い、お腹は空いた?」

「大丈夫よ。ラスさんありがとう」


 少し前に木の上で食べたからかまだお腹は空いてはいない。

 振り返ったラスの瞳はまたライラック色に戻っていた。その綺麗な瞳に室内にあるランプの灯りに照らされて、更にキラキラと輝いているように見えて、じっと見つめてしまう。

 なんて綺麗なんだろう。

 赤色や青色、様々な色に変わる瞳。どの色も美しく、つい何もかもを忘れて見つめてしまう。


 私は元の国ではありがちな青色の瞳。ただ少しだけ、色が薄く、くすんで見える。


「...あの、僕に惚れた?」

「あ、いえ。ごめんなさい」


 あまりにも見つめすぎていたみたいでラスに気付かれる。茶化した笑みを浮かべるラスに謝罪しながら、綺麗な色を持つ彼を少しだけ羨ましく思った。


 今まで自分のことで精一杯で誰かを助けようなんて考えもしなかった。ラスさんには迷惑をかけたけれど、彼がこの国を救ってくれた事が嬉しい。


 私は眠たい目を擦りながら、椅子に腰掛け騒がしい街並みを窓から見ていた。


「自分の国の問題なのに、みんなはお気楽だね。誰かが助けてくれるって、人任せなんだよ、この国は」


 ベッドに戻るラスの呟きをただ聞くことしかできなかった。




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