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魔法使いとふしぎな旅  作者: さとやよあけ
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2

 


 真っ赤な林檎にふわふわとした茶色の焼き目のついた丸いパン。胡桃入りのクッキーに干し肉や干した果実。

 幾つかの食糧を買って人混みを抜けると、ラスは腰についた小さな鞄の中にどんどん食糧を入れていく。


「この町の人たちは魔法が嫌いだから、内緒ね」


 何でも物が沢山入る魔法鞄なのだとか。流石に私の鞄は重量的に難しかったようで入らないが、便利な鞄だ。


 ラスを見ていると魔法使いになれば何でも出来そうだと思う。




 ガーネット国は薬草を求めて色々な国から人たちが集まるそう。現にラスもいくつか薬草や何かの種を買い込んでいる。


 ラスが買った薬草には薄桃色の綺麗な花が咲いていて、匂いを嗅いでみると、とてつもない臭いで顔を顰める。


「ははっ、それは微睡の花。美しい見た目と名前に惑わされるけど、とてつもない臭さなんだ」


 ラスは私の顰めっ面を見て笑いながら、先に教えてくれればいいのにと少しむっと頬を膨らませながら彼を見る。


「こんなに臭い花が薬になるのね?」

「上手く調合出来ればだけど。そうだね、いちばん効果があるのは不眠症にかな」


 不眠症...ラスはいくつもの薬草を買い込んではいるが、何に使うのだろうという疑問は飲み込んだ。



 それから、休憩がてらガーネット国特産の紅林檎の飲み物を飲んだり食べたりしながら、街並みを見る。

 商店街を抜けた先には、先ほどとは打って変わり静かな林檎畑が広がっていた。辺り一面真っ赤な道。ちょうど旬の季節に訪れたようだった。



「次の街、アメシスト国はガーネット国よりも街が大きいし、都会なんだ。きっと楽しめると思うよ。ただガーネット国は土地が広いから少し歩くよ」


 それからラスに右手を引かれると、どんどん人気の無い森の奥へと進んで行く。

 太陽は傾きかけていて、もうすぐ夕方くらいになるのだろう。歩きながらラスは腰についた鞄から先程買った干した果実を差し出してきた。


 赤色の小さな塊を受け取って恐る恐る口に入れてみると、仄かな酸味の後に甘味が広がる。


「美味しいでしょう?」


 表情に出ていたのか、ニコリと私に笑いかけるラスに頷く。


「この干した果物もガーネット国の名物なんだ。これもガーネットの宝石のかけらに見えるでしょう?お腹は空かなくても偶に食べたくなるんだよね」



 然程疲れてはいないが何時間歩いたのだろうか。ラスは時々話しかけてくれるが、殆どは無言のまま歩き続けている。

 辺りは一面、森の中。見たこともない植物や、発光するキノコに何か唸るような音がする花たち。なんて不思議な森なんだろう。

 一人で歩いていたら、きっと怖くて歩けない程、不思議で不気味な森も、少し前を歩くラスが一緒だと胸が躍るような、ワクワクとした気持ちになる。


 もう少しで夕日が暗闇に消え、夜が訪れる。

このまま薄暗い森を歩き続けていると自分が何処にいるかわからなくなりそうで不安になる。

 ラスは急に左手に着けているブレスレットに何やら唱えるとブレスレットは淡く光り、優しい光が辺りを照らす。

 暗くなっていた道も、少し先まで見える。


「もう少しだから、着いたら夕飯にしよう」


 言葉通り少し歩いた先に一本の大きな樹木があった。ラスは樹木の前で立ち止まり、木の上を見上げている。

 私のスカートが急にふわりと舞うと、私たちは浮いていた。ラスが魔法を使ったのだ。

 魔法で私たちをふわりふわりと木の1番上まで浮かばせると、太くて大きな枝に腰を下ろした。

 ラスのブレスレットの淡い光は木の中を照らしている。よく見ると様々な色をした小さな木の実が沢山実っていた。


「綺麗でしょう?此処で夕飯を食べようか」


 また魔法鞄から何やら飲み物と肉や野菜が入ったサンドイッチを受け取る。


「軽食ばかりでごめんね、明日はちゃんとしたものを食べよう」


 お礼を言い受け取りながら、目の前に実っている木の実を見る。光っているように見えるのは気のせいだろうか。


「ああ、星の実が気になる?」

「星の実?」


 私は首を傾げると、ラスがふうっとブレスレットに息を吹きかけた。すると辺りは暗闇に包まれる。そして少しすると木の実がきらきらと光出した。


「木々の間から夜空が見えるだろう。木の実たちが星に見えない?これは夜にしか光らないから星の実なんだ」


 きらきらする木の実を見つめながら、食い意地が張っている訳ではないが、ふと星の実を食べたらどうなるのだろうと疑問に思う? 


「食べたらどうなるのかしら」

「綺麗だけど美味しくはない。身体が発光するよ」


 実際に体験したかのような口振りに、彼が発光しているところを思い浮かべ思わず顔を顰めた。

 今でさえ、きらきらした金髪に整った顔立ちなのだから眩しくて目を向けられないに違いない。


 ラスはまた何やらブレスレットに呟くとまた辺りは明るくなる。

 本当に魔法って便利だわ。


「今日はこちらに泊まるの?」

「まさか!食べたら進むよ。この樹のてっぺんに扉があるのさ。リティの思い出になればと思って。疲れちゃった?」


 ラスの問いに首を振る。

 きらきらと光る星の実。私はあと幾つ思い出を作れるのだろう。ひとつひとつ思い出が増える度、家に帰ると覚悟していた筈の気持ちが崩れていきそうで怖い。


「足は痛くない?」

「大丈夫よ、ありがとう」


 確かに長い距離を歩いたのだが、そんなに疲れてはいない。思ったより体力があったのかしら?いえ、きっとラスが何か魔法をかけてくれたのね。



 旅が終わるまで、あと6日。



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