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魔法使いとふしぎな旅  作者: さとやよあけ
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ガーネット国へ

 


 汽車を降りて、駅を出ると思ったより人混みが少なかった。私が暮らしていた街とはがらりと雰囲気が変わり、辺りは白色で統一された建物がいくつも建っていた。あちらこちらに何やら草のような物が吊り下がっていたり、積み重ねられた木箱の上には束になって置かれていた。


「少し先に商店街があるから、食糧を買ってアメシスト国に向かうよ。商店街にはいろんな国の物が出されているから気になったものがあったら言って」

「気になったもの?」

「君の初めての旅記念に贈り物をさせて」

 そう言ってにラスはこやかに笑った。


 前を歩く私より少し背の高いラスのさらさら靡く髪を見ながら、記念になんて何もいらないと思う。流れる景色を見つめる。見たことがない物や町並み。この景色を覚えていれば何もいらない。手元に思い出の物があれば、きっと私はまた逃げ出したくなってしまうから。




 少し歩くと辺りはがやがやと騒がしくなってきた。横から声をかけられたと思えば、また反対側からも声がかり、今までにない体験にきょろきょろと辺りを見回してしまう。


「新鮮な紅林檎はいかがー?」

「傷口に効く薬草の軟膏はどうだい?」


 色とりどりに物が溢れる商店街は見ていて飽きなかった。

 ある店には小さな赤子くらいある瓶に何やら奇抜な色をした液体が入っていて、その中では何かが動いている。またある店では食べた事がない食材が並び香ばしい匂いが鼻に届く。

 ずっときょろきょろと好奇心旺盛な幼い子どものように辺りを見渡す私にラスがクスリと笑った。


「すごいでしょう?せっかくだから紅林檎とパン、あとは干し肉を買って行こう。ああ、そこの胡桃クッキーも美味しいんだ」


 そう言って次から次に買っていく彼はガーネット国に何度も来たことがあるようだ。思っていたより買い物したので、ラスの両手には荷物が沢山になってしまった。私の旅行鞄も持ってくれているのだから余計に沢山に見える。


「あの、私も持つわ」

「んー、じゃあクッキーを持っていて」


 差し出されたクッキーは小さな紙袋に入っていて、重さもない。これでは彼の助けにならないだろうとラスを見れば笑みを浮かべるばかりだ。

 優しいのか女の子の扱いに慣れているのか。ふと、歩きながらお店の人や通りゆく人を見た。

 ガーネットの宝石のような瞳はこの国の人たちの特徴。失礼にならない程度に赤い瞳を見てみると、きらきらしていて本当に宝石のようだった。その他にも褐色の肌をした異国風の人や、頭上に猫耳のようなものが生えた人もいて、いろいろな国の人たちが買い物に来ていることが分かった。


 何だか夢の中にいるような気持ちだ。


 私にこんな不思議なことが起きるなんて、少し楽しい気持ちになりながら気付く、ラスの姿が見当たらない。

 私がよそ見をしている間に見失ってしまったのだろう。どうしよう、一気に楽しい気持ちから不安になる。


 とりあえず端に寄ると、その横に路地裏があった。興味本位で中を覗くと薄暗く、人であろう何かが寝転がっていたり、壁に寄りかかって座っている。大通りの明るい雰囲気との差に驚くが、奥の方でゆらゆらしている何かがいることに気づいた。私の存在に気づいた何かが、こちらに手招きをしているのだ。


 怖い。恐怖が押し寄せる。目が離せず、じりじりと背後に下がるとぽんっと誰かに当たった。


「す、すみませんっ」


 慌てて振り返り謝ると、見慣れた金色が目に入った。

 どうやらそんなに離れていなかったようだ。


「ラスさんっ!」


 安堵に少し涙が滲む。そんな私の右手をラスは荷物を持っていない手で握ると「ごめんね」と言った。

 そして少し離れた賑やかな場所でベンチがあり、そこに腰掛けると、落ち着けるように深呼吸をした。

 ラスの話では、この辺りは人の意識を壊す薬草も売っているのだとか。飲んでしまうと意識が朦朧として気持ちが良くなるらしい。だから普通の人ならば、近寄ってはいけない。

 ラスは私を安心させるように、今だに繋がれた右手を安心させるかのように握ってくれた。


「そういえば、私たちあまり離れられないじゃない!大丈夫だった?」


 ラスは私が持っている新緑色の本から離れられない。離れすぎると見えない壁にぶつかり、本の方へと引きづられてしまうから。


「そんなに距離は開いていなかったんだ。僕は横の露店を見ていたんだけど、声をかければ良かったね。ごめんね」


  つまり私が慌てて寄った端とラスが見ていた露店とは反対側だったということだ。もっとちゃんと辺りを探していれば、髪の色や整った容姿で目立つラスを見つけられたかもしれない。慌ててしまったのが恥ずかしくて話を逸らした。


「何を見ていたの?」

「これ」


 差し出されたのはいくつかの小さな粒。

 手に取って見てみると、それは何かの種のようなものだった。


「種?」

「種だよ、調合に使ったりするんだ。薬草の種類が豊富な国だから、この国に来たらいくつか買っていてね」


 落ち着いてきた私はラスに手を引かれ、歩き出す。


 あの不気味な光景を思い出して顔を歪めてしまう。ずっと家にいる私は世間から見れば所謂箱入り娘だ。正確に言えば、あまり外に出させてもらえなかったのだが、初めて見る物ばかりの中でかなり強烈な出来事だった。


「...世の中には理解できないものがあるのね」


 私の呟きにラスは「そうだね」と小さく呟いた。

俯いていた私は前方を歩くラスの表情がとても冷たいものだということに気が付かなかった。




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