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魔法使いとふしぎな旅  作者: さとやよあけ
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2

 


「...アリア」


 ラスの声の近さにハッと顔を上げると、いつの間にか私の前に庇う様にラスが立っていて、アリアの名前を呼んでいた。


「寿命、貴方の為に寿命を喰わせられる人がいないと、このまじないは解けないわ」

「君は、本当に魔物と契約をしてしまったの?あれだけ魔物と関わってはいけないと教えていたのはアリアだったよね」


 よく分からない話についていけず、私は近くにいるラスの袖を引っ張った。


「まもの?」


 私の問いかけに彼が振り返ると口を開いた。


「魔物は人の寿命を食べる生き物なんだ。契約は数年で出来るけれど、解除はもっと寿命を喰われてしまうし、何故か同じ人から寿命を取らないんだ」


 ラスの色白の肌が一層白くなった気がする。誰が自分の為に寿命をとでも思っているのだろう。


「アリアは僕が此処に戻って来れたらまじないを解く、そう約束をしたよね?少なからず過ごした月日があるから、君を信じていたんだけれど、君は堕ちるところまで堕ちたみたいだね。最初から僕を閉じ込めただけだった」


 背後からはどんな表情をしているのか見えないがラスの声はとても冷たい。


「......ラスの力が手に入らないなら、貴方はいらない。殺してしまおうかと思ったわ。でも私じゃラスに敵わないから」


 ラスは何も発することなく、彼女を冷たい目で見つめている。これからの事を考えているのかもしれない。

 ラスは最初から何でもできると思っていたが、とても優秀な魔女なのだろう。


 それにしても力が手に入らないからいらないなんて、自分勝手にも程があるわ。本当に魔女狩りをしていた魔法使いと同じね。


 私は手元の本を見つめる。そして徐にページをめくると本の中でもぞもぞと何かが動いていた。今まで何度も本をめくっても何も描かれていなかったのに。

 真っ黒の毛むくじゃらでしっぽと角が生えている。おそらくこれが魔物という生き物なのだろう。

 魔物はくすくすと意地悪な笑みを浮かべていて気味が悪い。


「何年必要なのかしら」


 ぽつりと魔物に向かってつぶやいた声はラスの耳にも届き、彼はハッとした様な顔になると私の肩を掴んだ。


「リティ絶対だめだよ」

「大丈夫よ、話を聞きたいの。答えてくれる?」


 私の問いかけに、暫くして毛むくじゃらの悪魔は本の中から出て来きてニヤリとまた意地の悪い笑みを浮かべた。


「50年、と言いたいところだけど、君なら5年でいいよ」


 そう言ってくすくすと笑いながら私を見上げる魔物は小さく、そんな不思議な力を持っているようには見えない。


 鋭い爪に長い牙、例えるなら顔は全然違うけれどふさふさの毛が生えたネズミみたいに小さいわ。


 本の上にぽつりと座る魔物をを見つめる。

思ったよりも短い期間に少し安堵する。とはいえ5年と言う月日は長いけれど、50年喰われてしまうのはもっと長い。


「貴女、本気?おかしいわ、貴女たち会って数日でしょう?ラスに惚れているのかしら?」


 嘲笑う様に言うアリアに私は首を振った。


「いいえ、彼に利用されていようとなかろうと、私には十分な楽しさを貰ったから。これはそうね、恩返しよ」


 座り込んだままのアリアを見つめながら口を開く。

 私はきっと彼に出会わなかったら世界を見に行くことなんて出来なかった。私が見た世界がほんの一部だったとしても、大切な思い出になったのだから感謝している。


「それじゃあ魔物さん、貴方に5年をあげるわ。ラスさんを解放したいの。どうしたら渡せるのかしら」

「リティ、駄目だ。君は後何年命があるか分からないんだよ。5年後には死んでしまうかもしれない」


 前からラスの呼び止める声が聞こえるけれど、私は思っていた事を口にした。


「私は、ラスさんから見たら何も知らない箱入りのお嬢様よ。さっきも言ったけれど、貴方が私を利用しようとしてるの、何となくわかっていたわ。まさか寿命をあげることになるとは思わなかったけれど、私は貴方が連れ出してくれて、色々な国を見せてくれて、初めて心から楽しいと思えたから利用されても良いと思えるのよ」

「...リ、ティ」

「魔物さんでいいのかしら?5年以上寿命を喰べたら許さないわよ」


 クスクスと魔物の笑い声が聞こえた。いつの間にか私の体は動かない。ただじっと魔物から目が離せないでいる。


「目を瞑っていて」


 そう魔物に言われるままに瞳を閉じると体から温かいものがぬける感覚に、くらりと眩暈がした。


「約束通り5年もらったよ」


 目眩が続く中、なんとか手元に持っていた本は淡い光に包まれ、一瞬目を開けていられない程眩しく光り目を瞑る。

 手の中にあった本の感触が消え、薄目で手元を見るとそこには何もなかった。


「ラ、スさ」


 我慢できないような世界がぐるぐると回る酷い目眩に私は意識を手放した。最後に見えたラスの顔が、なんとも形容し難い表情をしながらこちらに手を伸ばしていた。




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