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王国の落胤

「ええー……また来たのかよ……」


 私の顔を見るなり、ルドルフはあからさまに顔をしかめる。

 義父上となるフリーデンライヒ侯爵から彼の存在を教えてもらい、初めて会った時から私は彼のいる教室へ足繁く通っていた。


 本当は政務も山のように抱えているため、あまりこまめに王立学園に通うのは厳しいのだが、それでも、優秀な参謀を引き入れるためにはそのようなことも言ってはいられない。

 ……仕事を押し付ける形になってしまったノーラには、睨まれてしまったがな。帰りに彼女の喜びそうなスイーツでも買って帰るとしよう。


「まあ、そう言うな。それより、君に相談したいことがあるのだが……」

「だ、騙されないぞ! この前もそんなことを言って、俺に橋梁工事の仕事を押し付けてきやがったじゃねーか!」


 ルドルフは勢いよく立ち上がり、全力で拒否の姿勢を占める。

 チッ……気づかれたか。


「だ、だが、今度の仕事は難しいが、成功したあかつきには、かなりの報酬を約束するぞ。それこそ、男爵家の一年分……いや、二年分の収入に匹敵するほどにな」

「お、おお……」


 よしよし。報酬につられて、ようやく聞く耳を持ったか。


「ちなみに、君に頼みたい仕事は王都から十二キロ先にある街、“スヴェンハイト”の区画整理になる。そうだな……明日から一か月で作業を完了してくれ」

「いやいや、いくら何でも急すぎるだろ!?」

「なんだ、できないのか?」


 私は小馬鹿にするような視線を向け、ルドルフを(あお)る。

 接してみて分かったのだが、この男、自分の能力に自信を持っているせいか、こうやって(あお)ってやればすぐに食いついてくれるのだ。


 それに。


「なお、今回の仕事では、監視役(・・・)としてイエニーにも同行してもらう」

「ほ、本当かよ!」

「ニャ!?」


 あからさまに目の色を変え、ルドルフが色めき立つ。

 私の後ろでイエニーが驚きの声を上げたが、とりあえず無視だ。


「どうだ?」

「おおよ! そんな仕事、ちゃちゃっと片づけてやらあ!」

「うむ、では任せた」


 よしよし、上手くいった。

 こんなにお調子者で本当に参謀役が務まるのか不安になるが、それでも、これまでの仕事ぶりからは非常に優秀であることは分かっている……って。


「ディートリヒ殿下……これはあんまりです……」

「まあ、そう言うな。だが、そんなにルドルフと一緒に仕事をするのは嫌か?」

「ニャ! 嫌に決まってるじゃないですか! あの男ったら、仕事の合間にしつこく絡んでくるし、夜になれば誘ってくるし!」

「そ、そうか……」


 実のところ、発情したイエニーから逃げるためにルドルフに押し付けているのだが、そういうことに奔放な彼女ですら拒否をするルドルフは一体……って。


「まあ、それは仕方ありませんね」

「リズ」


 いつの間にか、リズが私の(そば)にいた。

 だけど、今日は別の仕事(・・・・)で学園は休みだったはずなのに……。


「イエニーは、殿方なら誰でもよいわけではありませんから」

「そ、そうですね……」


 ニコリ、と微笑むリズの視線に耐えきれず、イエニーは冷や汗を流して顔を逸らす。

 ま、まあ、リズが怒ったらハンナの比ではないからな。


 一度、発情したイエニーが私を襲おうとした時、リズにどこかへ連れて行かれた後に『ごめんなさい……ごめんなさい……』と、ネコ耳と尻尾を思いきり垂れ下げて、震えながら呟いていたからな……恐ろしい。


「と、ところで、リズはどうして学園に?」

「ふふ……とりあえず、仕事(・・)が終わりましたので、報告を兼ねてディー様にお逢いしにきました」

「そうか……大丈夫、だったか……?」


 微笑む彼女の顔を(のぞ)き込み、私はおずおずと尋ねる。


 リズの仕事(・・)というのは、私の母である第一王妃主催のお茶会への参加だった。

 王国の社交界のトップである母上のお茶会ゆえ、私の婚約者であるリズが欠席するわけにもいかない。


 しかも、参加者の中には第二王妃のエルネスタ、腹違いの妹であるヨゼフィーナも同席している。

 つまり……リズは、周囲に()しかいないところで、たった一人戦ってきたのだ。心配するのも当然だ。


「ご心配なく。私も、フリーデンライヒ侯爵家の令嬢ですので」


 胸に手を当て、リズは(とろ)けるような笑顔を見せた。

 本当に……私の最愛の婚約者は強いな。

 そして、そんな彼女に私はどうしようもなく惹かれてしまう。


「それより、実は……」


 リズは、お茶会の内容について(つぶさ)に報告してくれた。

 お茶会は、終始母上が主導権を握る形で進行し、エルネスタ第二王妃やヨゼフィーナは、にこやかにお茶を飲むだけだったらしい。


 ただ、リズがその場にいたこともあってか、私の話題にはならなかったとのこと。

 何より、他の夫人達が私を褒めようと話を持ち出そうとすれば、母上が睨みをきかせてそれを止め、以降は当たり障りのない会話が続けられた。


 まあ、私は母上を切り捨てたのだから、面白くないのは当然だが。


「……そして、お茶会も終盤というところで、テレサ妃殿下が突然、その場に一人の男をお呼びしたのです」

「一人の男?」

「はい……男の名は、“ミヒャエル=トゥ=エストライン”」


 男の名を告げ、リズが、顔を曇らせる。

 そうか……とうとう、母上はかつての王族の落胤(らくいん)を担ぎ上げてきたか。


 実の息子である私を、排除するために。


「面白い」

「ディー様?」

「リズ、心配いらない。母上がそのような輩を連れてこようとも、私は決して負けない。リズを……大切な人達を守るためなら、私は何でもできるのだから」


 そうだ。私はもう、死に戻る前の私ではないのだ。

 私の大切な者を守るためなら……愛するリズを守るためなら、たとえ母上でも容赦しない。


 だから。


「母上、お覚悟めされよ」


 王宮の方角へ視線を向け、私は宣戦布告した。


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