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男爵子息、ルドルフ=グートハイル

「ふむ……彼がそうなのか?」

「そのようです」


 義父上との話から一週間後、私はハンナとともに義父上から伺った参謀候補となり得る生徒……ルドルフ=グートハイルを教室の外から(のぞ)き見している……のだが。


「ねえねえ、まだ婚約者とかいないんでしょ? だったら、この俺なんてどう? 一応男爵家の次男坊だし、婿養子にはもってこいなんだけど」

「…………………………」


 令嬢に付きまとっているその姿に、頭が痛くなる。

 義父上の調査結果なのだから、もちろん確かに優秀な人材なのだろうが……。


「……あれは、さすがにどうなのだ?」

「おっしゃるとおりです。私が令嬢の立場でしたら、明日の朝にはあの者の席に花入れを置いて差し上げるところでした」


 涼やかな視線を向けながら告げるハンナに、私は背中に冷たいものを感じた。

 ど、どうやらハンナとしては、あのような男が嫌いのようだ。


「とにかく、このまま見ていても始まらない。一度、彼と話を……」

「いいえ、あのような者と接触されては、ディートリヒ殿下が(けが)れてしまいます。ここは、この私が速やかに処理(・・)をいたしますので」

「ま、待て!?」


 私の制止も聞かず、ハンナは音もなくルドルフの元へと近づくと。


「あいてっ!?」

「こちらの方がお困りです」


 一瞬にして腕を(ねじ)り上げ、ルドルフがたまらず悲鳴を上げた。

 その鮮やかな手つきは見事ではあるが、さすがにやりすぎのような気がするが……。


「よろしいですか? あなたのその不潔極まりない行動は、この王立学園の名を汚すことになります。ひいては、ここに通われているディートリヒ殿下の顔に、泥を塗ることになるのですよ?」


 い、いやハンナ、それは言い過ぎではないか?

 たかが子息の一人の行動で、私が汚名を被ることにはならないと思うのだが……。


「いてて……へえ、だったら君が俺に付き合ってくれたら、彼女には近寄らないようにするよ」

「……どうやら、本気で痛い目に遭わないと気が済まないようですね」

「あいたたたたたたた!?」


 腕をさらに捻り、ルドルフは床に這いつくばった。

 だが……一つ分かったことは、ルドルフという男は女性にだらしないようだな。


 これは、リズが知ったらもっと酷いことになりそうだ。


「ハンナ、そこまでだ」

「殿下……」


 見かねた私は教室の中に入ると、ハンナにこれ以上はやめるように促す。

 ハンナは不服そうだが、渋々ルドルフの手を放した。


「おお、痛かったなあ」

「私の従者が済まなかった。だが、先程のように女性を困らせるような行為は、慎んだほうがいい」


 捻られた腕をさするルドルフに、私は右手を差し出す。

 彼は私を一瞥(いちべつ)すると。


「ハア……こんな綺麗な従者を連れているなんて、やっぱり王太子殿下ともなると違うんですねえ」


 私の手を拒否して盛大に溜息を吐き、ルドルフは皮肉とともに立ち上がった。


「ふむ……確かにハンナは綺麗だな」

「殿下!?」


 ルドルフの言葉に同意を示すと、ハンナが普段とは違う声を上げる。

 ん? ひょっとして、彼女は自覚していないのか?


「あああああ! チクショウ! 勝ち誇りやがって!」

「む……どこへ行く?」

「これ以上やってられねえってんだよ!」


 ルドルフはそう吐き捨て、教室から出て行ってしまった。


「……ディートリヒ殿下。お館様がどのようにおっしゃろうとも、あのような男は到底認められません。殿下とは何もかもが違います」

「そう言うな。私は存外嫌いではないぞ?」

「っ!? ……それはどうしてでしょうか?」


 納得できないハンナは、私に理由を尋ねる。


「そうだな……まず、彼はこの私が王太子だからといって、決してへりくだるようなことはしなかった」

「あれは、不遜なだけかと思います」

「まあ話を聞いてくれ。彼を参謀にと考えるのであれば、遠慮なく意見を言えるというのは非常に重要なのだ」


 そう……王となり、ともすれば傲慢(ごうまん)となってしまった時、それを諫めてくれる存在というのは必ず必要だ。

 もちろん、私はそんな愚かな王になどなりたくはないし、自分自身を律するつもりではいるが、どこかで(おご)りのようなものが出てしまうこともあるだろう。


 だが、そのような側近がいれば、私は常に正しくあることができる。


「それであれば、このハンナめが務めます」

「もちろん、君には大いに期待している。だが、こう言ってはなんだが、ハンナは私に応え過ぎるところがあるのも事実だ」

「…………………………」

「だから、私と適度に距離を置き、俯瞰(ふかん)して物事を考えることができる者も、私が王として民を導くためには必要不可欠なのだ。だから、どうか理解してほしい」


 私は、ハンナに頭を下げる。

 ルドルフに思うところがあるのも事実だろうが、彼女は私のことを第一に思ってこのように言ってくれているのだ。なら、私としては誠意をもって理解してもらうほかない。


「……本当に、ディートリヒ殿下はずるいと思います」

「ハンナ……?」

「かしこまりました。ディートリヒ殿下の、お心のままに」


 少し頬を赤らめ、ハンナは私の前で(かしず)いた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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