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未来の側近候補の推挙

「実は……諜報員から、第二王子の孫にあたる者が、ヴァレンシュタイン公の者と接触したとの報告がありました」

「っ!?」


 重々しく告げる義父上の言葉に、私は息を呑んだ。


「そ、それは……」

「おそらく、今ディートリヒ殿下がお考えになられたようなことが目的、でしょうな……」


 そう言うと、義父上は視線を落とす。

 だが、そうか……ヴァレンシュタイン公はその第二王子の孫を担ぎ上げ、この私の対抗馬にしようと考えているのか……。


 この場合、私の地位を(おびや)かす存在としてちらつかせ、母上に従わせようという意図なのか、それとも、この私の排除そのものに動くつもりなのか、どちらによるかによって、対策も変わってくる。


 いや……問題はそれだけではない。

 そのような者が表舞台に出てきてしまっては、この王国が真っ二つになってしまうおそれもある。

 何せ、私の王太子としての基盤は、まだ安定していないのだから。


「……ただでさえ人手不足で民達への王国の施策が行き届いていないというのに、そのようなことを……っ」

「殿下、お気持ちは分かりますが、今はヴァレンシュタイン公の出方を(うかが)う上でも、未来に向けて足元を固めておくことこそが肝要。そこで……」


 そう言うと、義父上は一枚の羊皮紙を差し出した。


「これは?」

「王国西部の小さな農村の領主である“グートハイル”男爵の次男、“ルドルフ=グートハイル”という者の王立学園での成績表です」

「ふむ……」


 年齢は私の一つ上で、成績は……?


「……特に代わり映えのしない成績だと思いますが」


 学科も実技も平均点で、教授達の内申も可もなく不可もなく。むしろ、特筆するところが何一つないというのが、逆に斬新だと思ってしまうくらいだ。


「次に、こちらをご覧ください」

「これは……試験問題、ですか?」

「はい。その一番下の問題なのですが……殿下はこの問題、解くことができますか?」

「ほう……義父上は、私を試しておられるのですね」


 含み笑いをする義父上を見ながら私は口の端を持ち上げ、問題に目を通す」。

 む……これは難問だな。


 私は問題を凝視しながら、五分ほど考え込むが……。


「すいません。時間をかければ解けるかもしれませんが、少なくとも一般的な試験で与えられる時間内に解くことはできなそうです」


 問題をテーブルに置き、私は両手を上げて降参の意を示す。

 このように問題の内容が抽象的で、あらぬ方向へと誘導するような伏線を張られては、一つ一つ順を追って紐解くしかない。


「彼……ルドルフ子息は、その問題に正解しております」

「ん……?」


 義父上の言葉に、私は思わず首を傾げる。

 この問題は、少なくとも平凡な成績を修める者には解けるようなものではないと思うが……。


「実はそのほかにも、難解な問題に限ってルドルフ子息は解答しており、全て正解となっています」

「待ってください。簡単な問題は解けず、難しい問題だけ解けるというのは一体……」

「これは私の推測ですが……ルドルフ子息は、自分が解くに値する問題だけ真面目に回答しているのではないかと」

「何故そのような真似を!?」


 いやいや、成績優秀であることのほうが王国からも目を掛けられるし、王立学園を卒業後は中央の官吏としての将来も(ひら)けると思うのだが……。


「私も不思議に思い、ルドルフ子息について調査してみました。そうしたら……」


 義父上は、ルドルフ=グートハイルについて語ってくれた。


 どうやらルドルフ子息は、実家であるグートハイル男爵家において苦しい立ち位置にいるらしい。

 というのも、彼はグートハイル男爵と当時勤めていたメイドとの不貞の末に生まれた子どもで、正妻との間に長男一人しかいない男爵としては万が一に備え、ルドルフ子息を自分の息子として認知した。


 だが、そのことが正妻の逆鱗に触れ、母親であるそのメイド共々、酷い扱いを受け続けてきたらしい。

 そもそも、小さな農村程度しか領地を持たず、生活に余裕もないだろうにそんな真似をしでかした上、自分の大切な息子の地位を脅かすような子どもを認知するなんて、正妻からすれば到底許しがたいことだろうな。


 グートハルト男爵自身も、後ろめたさを感じているからか、メイドとルドルフ子息がどんな目に遭わされていても、見て見ぬふりをしているらしい。

 とにかく、ルドルフ子息はこれ以上正妻に(うと)まれないよう、自分を押し殺して取るに足らない人間なのだとアピールしているのだろう……。


「ハア……聞けば聞くほど、そのグートハルト男爵はどうしようもない輩ですね」

「全くですな。貴族の……いや、男の風上にもおけません」


 憤る私と義父上は、強く頷き合う。

 互いに愛し合う女性(ひと)がいるからこそ、裏切るような真似をしたことが許せないのだ。


「それで……この話を私に持ちかけたということは……」

「はい。殿下の参謀候補として、ご一考いただく余地はあるかと。優秀な人材ほど、得難いものはありませんからな」

「……確かに」


 義父上の言うとおり、将来を見据えて今のうちから人材を固めることは必須。

 特に、私には参謀と呼べる人物を得ることは千金に値する。


 正直、母上やヴァレンシュタイン公などという、目先の石ころにかかずらっているわけにはいかないのだ。

 私には王国を、民を……いや、リズの笑顔を守り抜くという使命があるのだから。


「ありがとうございます。学園に顔を出した際にでも、接触してみることとします」

「ええ、それがよろしいでしょう」


 強面ながら自分の大切な一人娘とその婿である私のために尽くしてくださる義父上は、握手を交わしながらニコリ、と微笑んだ。

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