第一王妃の微笑 ※テレサ=トゥ=エストライン視点
番外編……とは呼べないかもしれません。
また、新作を始めました。
こちらもよろしくお願いします。
『自分で書いた小説のヒロインの悪役令嬢にざまぁされる婚約者の小公爵に転生した僕は、彼女の幸せを願い身を引いたのに、逆に溺愛されることになりました』
■テレサ=トゥ=エストライン視点
「ああもう! 面白くない!」
私は一人、そこら中にある物を壁や扉、傍にいた侍女達に向かって憂さを晴らす。
こんなことをしている原因は、全て私の言うことを聞かなくなったディートリヒのせい。
「それもこれも、あの子……マルグリットが婚約者となって王宮に来てからよ! なんで母親である私の言葉じゃなく、あんな小娘の言うことばかり聞いているのよ!」
髪の毛を掻きむしり、私は全身鏡を蹴飛ばした。
だったら、あの小娘を王宮から追い出す……いえ、消してしまえばいいんだろうけど、フリーデンライヒ侯爵の子飼いの諜報員に加え、例のディートリヒの毒殺未遂の一件があってから、とうとう国王陛下直属の親衛隊までもが陰からディートリヒと小娘を守っている。
これでは、どうやっても手出しをすることができない……。
「本当に、忌々しいわね……!」
爪をかじりながら、そう呟いていると。
――コン、コン。
「何よ! 一体誰!」
「ヒッ!? そ、その……王妃殿下にお客様が……」
「客?」
怯える侍女を睨みつけながら問いかける。
フン……第一王妃である私に会いに来るなんて、いい度胸しているわね。
いいわ、憂さ晴らしにその客とやらの躾でもしてやろうかしら?
「じゃあ、通してちょうだい」
「そ、その、こちらのお部屋にでしょうか……?」
「は? 馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ! 応接室よ!」
「か、かしこまりました!」
侍女は、逃げるようにして部屋を出て行った。
さて……それじゃ、どんな奴が来たのか顔でも拝んでやるわ。
身だしなみを整え、私はその客とやらが待つ応接室へと向かう。
すると。
「これはテレサ殿下、ごきげんよう」
通路の向こうから現れたのは、第二王妃のエルネスタだった。
「あら、ごきげんよう。あなたも大変ね……オスカー殿下について、まだ陛下はお許しになられないのでしょう……?」
私はさも心配そうに声をかけるが……駄目、どうしても頬が緩んでしまうわ。
だって、こんな愉快なことってないじゃない?
あんなに目障りだったエルネスタの息子が、祝賀会でのテロとディートリヒの暗殺に失敗して、塔に幽閉されているんですもの。
つまり、目の前の女はこれから永遠に日陰で生き続けるのだから。
「ええ……本当に……ただ、陛下は寛大な御方ですので、ヨゼフィーネの将来のために色々と心配りをいただいているようですわ。王位継承権をオスカーに代わり第二位としていただけましたし……」
エルネスタが愁いを帯びた表情で、静かにそう告げる。
だけど、一瞬だけ見せた表情……あれは、まるで私を馬鹿にしてほくそ笑んているようだった。
「へえ、そう……よかったわね。でも残念ね、既に立太子の儀も終わり、正式に私のディートリヒが後継者に選ばれた後ですもの……これでは、意味がないわ」
「……そうでしょうか?」
「ええそうよ。このままでは、ヨゼフィーナの未来は精々友好国の王族に嫁ぐくらいしか出番はなさそうだもの」
そう告げると、私は羽扇で口元を隠しながらエルネスタの様子を窺う。
でも……ふうん、あまり焦っている様子もなさそうね。
腹の中では、一体何を考えているのやら。
「そういえば、客を待たせているんだったわ。悪いけど、失礼するわね」
「……足をお止めしてしまい、申し訳ありませんでした」
私はエルネスタの視線を背中に受けながら、応接室へと向かった。
だけど……ヨゼフィーネ、ね……。
「待たせてしまったわね……って、お父様!?」
「テレサ、遅かったな」
私の客というのは、父であるヴァレンシュタイン公爵だった。
「どうされたのですか? 事前におっしゃっていただければ、お出迎えいたしましたのに……」
「いや、そんなことはどうでもよい。それより、お主はどう考えておる?」
「どう……とは?」
お父様の質問の意図が分からず、私は首を捻りながら尋ね返す。
「決まっておる。王太子……ディートリヒのことじゃ」
「ディートリヒ、ですか……」
決まっている。母である私の言うことを聞かず、小娘にばかり執心の駄目な息子。
尽くすべきは、小娘ではなく私であるべきなのに。
私こそが、あの子を導いてあげられるのに。
「……その顔を見る限り、お主もかなり業を煮やしているようじゃな」
「……当然ですわ。あの子は、私の言うことだけ聞いていればいいのよ。なのに、あの子ときたら……」
「ふむ……ならば、立てるか?」
そう言うと、お父様がニヤリ、と口の端を持ち上げる。
だけど、立てるとはどういう意味なのだろう……。
「覚えておるか? 先代国王の弟で、市井の娘に手を出して出奔した“ダミアン”という男を」
「え、ええ……私も話には聞いたことが……」
「実はな、そのダミアンには娘がおって、さらには孫までおる。それも、この王都にな」
「それが何か……?」
そんな話を持ち出して、お父様は何が言いたいのだろう……。
「テレサ。その孫を、お主の養子として迎え入れるんじゃ」
「っ!? ど、どういうことですか! そんな馬の骨とも分からない者を、私の養子になどと!」
あまりの提案に、私は思わず立ち上がって詰め寄る。
「まあ聞け。このままディートリヒが国王となれば、早晩儂もお主もあやつに干されることとなるぞ。ならば……」
お父様が顔を寄せ、耳打ちする。
「っ!? ……へえ」
「どうじゃ? こうすれば、あやつもどうすることもできまい」
「ウフフ、本当ですわね」
これなら、ディートリヒもいい加減目を覚ますでしょうし、何より、今までこの私をないがしろにしてきた連中をまとめて始末できる。
「じゃが、そのためには入念に準備が必要じゃ。第二王子の二の舞にはなりたくないからのう」
「ええ、その通りですわ」
「段取りはこちらで進めておく。その時が来たらテレサよ……頼んだぞ」
「ええ、お任せくださいな」
羽扇で隠した私の口元は、ニタア、と三日月のように吊り上がっていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
今回の話でも分かりますとおり、『冷害王子』につきまして第二部を書こうかと思います。
開始時期は恐らく六月になろうかと思います。お楽しみに。
また、性懲りもなく新作を始めました。
『自分で書いた小説のヒロインの悪役令嬢にざまぁされる婚約者の小公爵に転生した僕は、彼女の幸せを願い身を引いたのに、逆に溺愛されることになりました』
こちら、珍しく異世界転生モノとなっております。
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