騎士団長と辺境伯の結婚 後編
後半です。
また、新作を始めました。
面白いので是非よろしくお願いします。
「あ……これはこれは殿下、今日はいかがなされたのですか?」
訓練場へと赴くと、私の姿を見つけたグスタフが駆け寄って来た。
だが……グスタフの訓練中の動きに精彩がないように感じた。
「ああ、最近は政務のためにグスタフとの剣術の稽古も不十分であったからな。少し汗を流しに来ただけだ」
「そうですか。でしたらお手合わせいたしましょう」
「いや、さすがに騎士団長となったグスタフの手を煩わせるわけにはいくまい。どれ……」
私はそう言ってグスタフの申し出をやんわりと断ると、訓練場を見回す。
「ふむ……では、あそこで手合わせをしている者と、そこの素振りをしている者、そして、あの訓練をサボって談笑している者に相手をしてもらうことにしよう」
「は、はあ……」
私が訓練相手として選んだ騎士達が意外だったのか、グスタフは少し首を傾げた。
まあ、確かにこの三人の剣の腕前は、訓練を見た限りではそこそこでしかないからな。
そして。
「で、殿下のお相手ができ、光栄に存じます!」
「どうぞよろしくお願いします」
「え、ええと……どうして私なんでしょうか……?」
呼ばれた三人が、私の前に並んだ。
まず、瞳をキラキラさせながら敬礼をしている者が、“カール=レクラム”騎士爵。
次に、涼やかな表情を浮かべながら静かに一礼をした者が、“ヨアヒム=クライン”騎士爵。
そして、ひょっとしてサボっていたことを咎められるのではないかと、今にも泣きそうな表情をしている者が、“ギュンター=ミュラー”騎士爵だ。
なお、この三人のうちヨアヒムはクライン子爵家の次男、他の二人は平民出身だ。
「うむ。では早速だが、少し手合わせに付き合ってくれ。ああ、それと別にサボっていたことを咎めるつもりはないから心配するな」
「え、えへへ……」
私が口の端を持ち上げながらそう告げると、ギュンターはバツが悪いのか苦笑する。
「では、始めるとしよう」
それから私は、この三人と小一時間手合わせを行った。
なるほど……思ったとおり、カールの剣筋は実直そのもの、ヨアヒムは冷静かつ合理的な動き、ギュンターは……。
「はは、なかなかやるな」
「そ、それはコッチの台詞ですよ……っ! 政治手腕だけでなく剣術の腕前まですごいなんて、ディートリヒ殿下は反則すぎです!」
「その割には、よく口が回るではないか」
ふむ……思ったとおり、ギュンターは実力を隠していたようだ。
実は訓練場に顔を出す前に、別の場所から騎士達の訓練の様子を確認していた。
ギュンターは最初からサボっていたが、訓練中の僅かな合間で、その体捌きや腕の振りの鋭さを感じる一面もあった。
怠けたくて本来の腕前を隠しているのかもしれんが、せっかく見つけたのだ。これからはこき使うとしよう。
「それまで。ふう……いや、いい汗をかかせてもらった」
「……俺は全然よくなかったです」
そう言って地面にへたり込むギュンター。
だが、私の剣は一度もギュンターの身体に触れることがなかったのだから、やはり大したものだ。
「グスタフ、訓練中に邪魔したな」
「いえ、殿下でしたらいつでも大歓迎です。またお越しください」
「ああ」
私は頭を下げるグスタフに見送られ、訓練場を後にする。
「……ハンナ」
「はい」
「あの三人を、あとで執務室に呼んでくれ」
「かしこまりました」
私の指示を受け、ハンナは綺麗にカーテシーをした。
◇
「……ディートリヒ殿下。それで、王国の存亡にかかわることって何なの?」
急遽呼び出され、駆けつけたメッツェルダー辺境伯がソファーに座りながら鋭い視線を向ける。
「はい……実は、カロリング帝国のことなのですが……」
私は、最近のカロリング帝国との状況について説明した。
どうやら、第二皇子であるシャルル皇子が、この国に介入しようと諜報員を大量に送り込もうと画策しているらしい。
これは、ロクサーヌ皇女にも確認したから間違いないだろう。
「……どうやら、ロクサーヌ皇女が王太子である私の後ろ盾を得たことで、かなり焦っているようです」
「……本当に面倒なことをしてくれるわね……! 分かったわ、国境の警備と街の取り締まりを厳重にするわ」
「ええ、お願いします。それと、このことについては私も……」
――コン、コン。
「失礼します。グスタフ騎士団長がお見えになられました」
「殿下、お呼びとのことですが……って、ヒルダ殿……君もいたのか」
「ええ」
本題に入ろうとしたところで、ちょうど良いタイミングでグスタフが入って来たので、メッツェルダー辺境伯の隣に座らせた。
「それで話の続きですが、私としても警備の強化を図る意味で騎士団を増強し、国境部隊を新たに置くことにした」
「殿下!? そんな話は初耳ですが!?」
そう告げると、グスタフが驚きの声を上げる。
まあ、グスタフにはまだ言っていないのだから当然だがな。
「それで、メッツェルダー閣下の領地は最重要となることから、騎士団長であるグスタフを置くことにしました。今後は二人で協働し、カロリング帝国からの侵入を阻止してほしいのです」
「「あ……」」
ここまで言って、二人はようやく理解したようだ。
そう……リズとハンナ、それにノーラとイエニーも交えてどうすべきか考えていたところに、ロクサーヌ皇女からシャルル皇子の件について相談を受け、せっかくなので利用させてもらうことにしたのだ。
これなら警備も格段に上がるし、何よりこの二人がずっと傍にいることができる。
「で、ですが! そうすると王宮の……殿下の警備などはどうするのですか!」
「それについても手配済みだ。ハンナ」
「はい」
私の合図で、別室控えていた三人をハンナが連れてきた。
「お前達……」
「これからは、団長代理としてカールを、その補佐兼参謀としてユリウスを、そしてギュンターを護衛役とする。グスタフは、ラインズブルックの街から王宮部隊も含め全体統轄を行うこととする」
なお、警備に関してはあくまでも王宮外でのものであり、王宮内では引き続きハンナが私とリズを守ってくれることとなっている。
とはいえ、ギュンターの腕前を見る限り、いつかグスタフをも超える存在になるかもしれんな。
まあ、剣術の腕前に加えて指導力や統率力などを踏まえると、この三人とグスタフ一人で釣り合うというのが現状だが。
「そういうことだ。グスタフには重要な任務を与えるのだから、しっかりと頼んだぞ」
「殿下……ありがとうございます……!」
「うむ。それと、二人の結婚式には、是非とも私を呼んでくれ」
「うふふ! 当然よ! それこそ特等席を用意するわ!」
グスタフとメッツェルダー辺境伯がお互いの手を取り合いながら、満面の笑みで応えてくれた。
◇
「ふふ……メッツェルダー閣下、幸せそうな表情をしていますね……」
リズがウェディングドレス姿のメッツェルダー辺境伯を見つめながら、うっとりとしている。
正式にグスタフがメッツェルダー辺境伯の待つラインズブルックの街に赴任してから半年後、私達は二人に招待されて結婚式に出席していた。
グスタフの後を引き継いだ三人も、戸惑いながらもなんとか業務をこなし、この結婚式でも騎士団として周辺の警備などを含め、指揮を執っている。
「……リズのウェディングドレス姿も、さぞや美しいのだろうな。今から楽しみだ」
「あ……ふふ、私もディー様の正装姿を、今から心待ちにしています……」
そうして式も順調に進み、私達は教会の外で二人を出迎える。
すると。
「あ……」
メッツェルダー辺境伯の投げたブーケが、リズの手の中に収まった。
「うふふ! 次は殿下とあなたの番! 楽しみにしているわよ!」
「はい!」
メッツェルダー辺境伯とリズ。
参列者の祝福を受けながら、二人の女性が幸せそうに微笑み合った。
お読みいただき、ありがとうございました!
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『これまでの人生で全ての者から虐げられて毒殺されかけた厄災の皇子は、優しく受け入れてくれた属国の美しい公女殿下と共に復讐を果たし、最高の幸せを手に入れました』
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