騎士団長と辺境伯の結婚 前編
今日も番外編を更新です。
この話は前後編でお送りする予定です。
「ふふ……ディー様、楽しかったですね」
キールシュタットの街での仕事を終え、私とリズは王都へと帰ってきた。
といっても、仕事とは名ばかりで、ほとんどが保養でしかなかったが。
「ああ。またこのような機会を設けて、一緒に行こう」
「はい!」
リズは満面の笑みを浮かべ、元気よく返事をした。
「殿下、マルグリット様、お疲れ様でした」
馬車が王宮の玄関に到着すると、待ち構えていたハンナが恭しく一礼する。
「ハンナ、出迎えありがとう。私達が留守の間、変わったことはないか?」
「はい……」
すると、ハンナは私とリズの傍に来て、そっと耳打ちをした。
「ふむ……分かった。イエニーと共に、引き続き頼む」
「かしこまりました」
「それにしても……本当に、身の程知らずというか……」
リズが眉根を寄せ、そう呟く。
「まあ、仕方あるまい。向こうも必死なのだろう」
「ですが……」
「それより、旅で疲れただろう。庭園で一緒にお茶でも飲んでくつろごう」
「あ……もう」
これ以上リズに不愉快な思いをさせたくないと考えた私は、リズの手を握って庭園へと向かう。
リズもリズで、苦笑しながらも嬉しそうに肩を寄せた。
そして、私とリズ、それにハンナの三人でお茶を飲みながら談笑していると。
「殿下、ここにおられましたか」
グスタフが、神妙な顔をして現れた。
「グスタフ、どうかしたか?」
「そ、その……実は殿下にご相談がありまして……」
神妙な様子で、おずおずとそう告げるグスタフ。
ふむ……だが、この男が私に頼み事とは珍しいな。
「分かった。まあ、ここに座れ」
「は、はい……」
ハンナに席を一つ用意してもらい、グスタフを座らせた。
「それで、相談というのは?」
「はい……実はその、メッツェルダー閣下のことでして……」
「「メッツェルダー閣下の?」」
私とリズは、思わず顔を見合わせる。
キールシュタットに発つ前に一度メッツェルダー辺境伯にはお会いしたが、その時はグスタフとののろけ話ばかりで、何の問題もないように感じたが……。
「そ、それで、メッツェルダー閣下はどうなされたのだ?」
「え? あ、ああいえ、“ヒルダ”殿には特に何もありません」
「ほほう?」
「まあ!」
メッツェルダー辺境伯のことを心配していた私達だったが、グスタフが不用意に告げた名前に一転、私達は興味深そうに身を乗り出した。
「なるほど、グスタフはメッツェルダー閣下のことを“ヒルダ”殿と呼んでいるのか」
「ふふ、分かりますわ! やはり、特別なお相手には特別な名前で呼んでいただきたいですもの!」
「あ! こ、これはその……!」
私達の言葉に、グスタフが顔を赤くしながらしどろもどろになる。
はは、これでは“双剣のグスタフ”も形無しだな。
だがそうなると、グスタフの相談自体がよく分からんな。
「それでグスタフ様、そろそろ相談の内容をお教えいただけますと……」
「そ、そうでした……実は、その……私もそろそろ、身を固めたいと思いまして……」
「なんと! めでたいではないか!」
「まあ! おめでとうございます!」
そういうことか! 確かにこれは、私に相談も必要になるというもの!
「ううむ……そうすると、グスタフが婿養子としてメッツェルダー家を継ぐことについての相談、ということになるのか? もちろん、私は大賛成だが」
「ディー様、ひょっとしたら結婚式に関する相談かもしれません」
私とリズは、あまりにもめでたいグスタフの報告に、あれやこれやと花を咲かせる。
「い、いえ、相談したいことは別の件でして……」
「別の件? 一体何が……」
そう言われ、私は色々と思案してみるが……うむ、思い浮かばんな……。
「殿下、マルグリット様。おそらくグスタフ様は、現在の職務に関してのご相談かと」
私達が悩んでいると、ハンナがそう助言してくれた。
「ああ、なるほど。そういうことか」
「はい……もちろん、引き続き騎士団長としての職務は全うするつもりですが、万が一に備えて騎士団の体制をどうするか、相談したのです」
「ううむ……」
確かに、グスタフの力は何者にも代えがたいが……。
「グスタフ、それは気にせずともよい。ちゃんとグスタフの後任を探すとも」
「っ!? お、お待ちください! 私は引き続き騎士団長として殿下をお守りいたします!」
「お主の気持ちはありがたいが、それではメッツェルダー閣下はどうするのだ? 離ればなれでは寂しいに決まっているではないか」
「も、もちろん! そこはヒルダ殿も理解してくれております!」
グスタフは身を乗り出し、そう訴える。
もちろん私としてもグスタフは得難い人材だし、手放したくはない。
だが。
「……もし私であれば、リズと離ればなれになるのは、この身が引き裂かれるも同然。絶対に無理だ」
「あ……ディ、ディー様……」
「グスタフ、本当にそれでよいのか? もっとメッツェルダー閣下ともよく話し合うべきではないか?」
「…………………………」
私の言葉を受け、グスタフが押し黙る。
……大切な部下が困っているのだ。一肌脱いでみるか。
「とりあえず、お主の話は分かった。一旦引き取るゆえ、今日のところはこれまでとしてくれ」
「はい……どうぞよろしくお願いします……」
そう言うと、グスタフは少し肩を落としながら席を立った。
「ディー様……どうなさるおつもりですか……?」
「うむ……」
グスタフの忠誠心も、騎士団長としての地位と名誉も守りつつ、メッツェルダー辺境伯と一緒に過ごせる方法、か……。
「リズ、ハンナ。少し力を貸してもらうぞ?」
「はい!」
「お任せください」
私達三人は、グスタフとメッツェルダー辺境伯の幸せのために、色々と話し合った。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回後編は来週金曜日に投稿予定です。
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