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お留守番とご褒美 ※ハンナ=シャハト視点

番外編更新です。

今回はお留守番中のハンナ視点です。

■ハンナ=シャハト視点


「ハア……今頃、ディートリヒ殿下とマルグリット様、楽しんでるんだろうなあ……」


 私の後輩であるイエニーが、屋敷の手入れもそこそこに、窓の外を眺めながらポツリ、と呟く。


「イエニー、殿下は決して遊びに行っているのではないのですよ。それより、第二王妃の動向についての報告がまだですが?」

「は、はいい! すぐにまとめてきます!」


 私が睨みながらそう告げると、イエニーは耳と尻尾を垂れ下げながら、慌てて飛び出していった。

 彼女も諜報員としては非常に優秀ではありますが、獣人族の特性のせいでしょうか、少々自分の本能に正直になってしまうところが玉に(きず)です。


 特に、優秀な(おす)に対しては、節操がないというか、欲望に忠実というか……。


「え、ええと、イエニーさんが顔を真っ青にしていましたけど、どうかしたのですか?」

「ノーラ様……いえ、大したことではありません」

「あ、あはは……そうですか……」


 代わって殿下のお部屋へとやって来たノーラ様が、おずおずと尋ねられたので、私は何食わぬ様子でそう答えた。

 そもそも、イエニーとのあのやり取りは、日常茶飯事ですから。


「それより、この部屋にお越しになるのは珍しいですね。いかがなさいましたか?」

「はい。ディートリヒ殿下名義で封書を送るものですから、印璽(いんじ)をお借りしにきたのです」

「ああ……なるほど」


 殿下が視察に出た隙に、第二王子の指示でリンダが印璽を盗んだ事件があって以来、今はここ殿下の部屋で厳重に保管している。

 何より、この部屋への入室を許可されているのは、殿下ご自身とマルグリット様を除けば、一の侍従であるこの私とノーラ様、それにイエニーの三人だけ。


 たとえ殿下の騎士であるグスタフ様でさえ、この部屋に入ることは不可能です。


「それで、その封書の内容というのは?」

「はい。メッツェルダー閣下からの支援要請への回答です。支援に向けた詳細な内容を記しています」


 殿下の大切なお仲間の一人であるメッツェルダー辺境伯は、現在、隣国のカロリング帝国から放たれた諜報員の排除のために、治安体制の強化を図っている。

 特に先日の立太子の儀を受け、殿下と第一皇女であらせられるロクサーヌ殿下との距離が近づいたため、第二皇子のシャルル皇子が焦っているのでしょう。


 なにせ、ロクサーヌ殿下はディートリヒ殿下という強力な後ろ盾を得てしまったのですから。


「……最近は第一王妃殿下の実家であるヴァレンシュタイン公爵家の動きが怪しくなってきていますし、第二王妃殿下とヨゼフィーネ王女も沈黙を貫いているのが不気味です」

「そうですね……早く殿下の心が休まる時が来るといいのですが……」

「うふふ、それに関しては、今まさに休んでいらっしゃるのでは?」


 私が肩を落とすと、ノーラ様が揶揄(からか)うようにそんなことをおっしゃった。

 確かに殿下は今、マルグリット様と共にキールシュタットで起こった灌漑(かんがい)工事のトラブルの解決のために向かわれています。


 とはいえ、内々で調べたところによると、殿下の王太子就任を祝うために、あの街の住民と現場の者達で画策したものだということは分かっています。


「うふふ……殿下、上手くいくといいですね」

「そうですね……」


 殿下はキールシュタットで、ノーラ様の実家であるリッシェ子爵家の山で発見された黄金で作った指輪を、マルグリット様にプレゼントする予定でいらっしゃる。

 早い話が、これは殿下からの婚約指輪、ということです。


「……さて、私も仕事に戻りますね」

「はい、お疲れ様です」


 ノーラ様は少し寂しそうに微笑むと、印璽(いんじ)を持ってこの部屋を出て行った。


 ……これで、この部屋には誰もいなくなりました。

 ノーラ様もおっしゃっていたとおり、殿下もマルグリット様と一緒に羽を伸ばしておられると思いますので、私も少々休むことといたしましょう。


 私はこの部屋の隣……つまり、殿下の寝室へと向かう。


 そして。


 ――ぼすん。


 私は、殿下のベッドの上へと飛び込んだ。


 そう……私は殿下にお仕えする一の侍従として、毎日こうやって殿下のベッドの上で寝そべり、ベッドの不具合の確認や、殿下のお気持ちになってどうなされたいのか、などを考えています。


 なので、決して私は仕事をサボっているわけでもなく、ベッドに染み付いた殿下の匂いを独り占めして堪能しているわけではありません。

 何より、私がこうやって身体を休めることは、ひいては殿下に貢献できるということですので、むしろ必要不可欠なものなのです。


「……せめて、これくらいはお認めいただきませんと」


 時折苦しくなる胸を抑え込むように、私はギュ、と握りしめる。

 私は……これ以上を望んではいけない。


 そう、言い聞かせながら。


 すると。


「ハ、ハンナさん! 報告を持ってきました!」


 ……本当に、空気の読めない後輩ですね。


 仕方なくベッドから降りた私は、イエニーの報告に目を通した。


 この時、彼女への言葉遣いが少々辛辣になってしまったのはご愛嬌です。

お読みいただき、ありがとうございました!

次の番外編も一週間後を予定しています。


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

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