誓いの指輪
番外編、スタートです。
また、本日より新連載を開始しました。
下のタグから飛べます。
あの立太子の儀が終わってから一か月が経ち、お祭り騒ぎだった王都もようやく落ち着きを取り戻した。
今の私は、王立学園に通いつつ、王太子として政務に勤しんでおり、忙しい日々を過ごしている。
だが。
「ディー様、こちらでよろしいですか?」
「ん? ああ……すまない」
リズが私の政務を一緒に手伝ってくれているため、どれだけ多忙でも一切苦にならない。
いや、むしろ彼女が傍にいてくれることで、どれほど力を与えてもらっていることか。
本当に、私にはもったいないほど素晴らしい女性だ。
とはいえ……うむ、少々リズに世話をかけすぎではあるな……。
張り切って仕事をするリズを眺めていると。
「殿下、失礼いたします」
執務室に入ってきたハンナが恭しく一礼すると、私とリズのためにお茶を用意してくれた。
「ふふ……ではディー様、少し休憩いたしましょうか」
「うむ、そうだな」
私とリズは並んでソファーに座ると、カップを手に取り、お茶を口に含む。
「それよりリズ、疲れてはいないか?」
「はい! むしろディー様のお役に立てて、こんなに嬉しいことはありません!」
「そうか……」
さて……では、そろそろ切り出してみるか……。
「……実は今度、キールシュタットで行っている灌漑工事の進捗確認をせねばならなくてな」
「キールシュタットといえば、確か最近開拓された、新しい辺境の街でしたね……」
「うむ。それによって農地を広げておるのだが、現場で少々問題が起きたらしい」
「問題、ですか?」
私はリズに向かってゆっくりと頷く。
問題とは言ったが、結局は地元の者と工事の者でどこに水を引くかで揉めているとのことで、資料を見た限りではすぐに解決できそうだった。
「それで、だな……リズには、この私と共にキールシュタットに一緒に行ってもらいたいのだ」
「ふふ……もちろんです。私はあなたと一緒であれば、どこへでも」
「ありがとう」
しな垂れかかったリズを、私はそっと抱き寄せる。
「キールシュタットに着いたら、君に見せたいものがある」
「まあ、それは何でしょうか?」
「はは、着いてからのお楽しみだ」
むしろ、それこそが私の本題。
この時のために、私が用意しておいたものだ。
リズが喜んでくれるといいのだが。
「ふふ! 楽しみです!」
そう言って嬉しそうにはにかむリズを見て、私も頬を緩めた。
◇
王都を発ってから二週間。
ようやく私達はキールシュタットの街に到着した。
「うわあああ……素晴らしい景色ですね……!」
「ああ」
リズの言うとおり、目の前には頂上が雪に覆われた山々が連なり、その壮大な風景に神々しさまで感じる。
「それよりリズ、寒くないか?」
「ふふ、ありがとうございます。ですが、ディー様の手の温もりのおかげで、私の心はいつも温かいです」
「う、うむ……」
不意にリズにそのように返されてしまい、私は思わず照れてしまった。
もう、彼女とは長い時間を共に過ごしているが、どれだけ一緒にいても、もっと共にいたいと考えてしまう。
「そういえばリズ、知っているか? 民衆達は、恋人同士の特別な手の繋ぎ方があるそうだ」
「そうなんですか?」
「ああ、このように」
私はリズと手のひらを合わせ、指を交互に絡めて握った。
「……視察の間は、こうやって繋いでいよう」
「ふふ……はい。ディー様、ずっと繋いでいてくださいませ……」
「ああ」
そして、一応の目的である灌漑工事の現場へと向かうと。
「……これはどういうことだ?」
「さ、さあ……」
地元の住民と工事の者達は、喧嘩をしているどころか、楽しそうに酒を飲んでいるではないか……。
「あ! お、王太子殿下!? と、到着は明日と聞いておりましたが……」
工事の責任者と思われる者が、私の姿を見て駆け寄ってきた。
「う、うむ。思ったより早く着いてな。それで、私は地元の民と工事の者で揉めていると聞いてやって来たのだが……」
「そ、それは……」
尋ねた瞬間、責任者の顔が青くなり額から冷汗を大量に流し始めた。
「も、申し訳ありません! じ、実は……」
責任者は平謝りしながら、理由を説明した。
どうやら、私が王太子となったことが遅れてこの街に情報が入り、それを住民達が聞いたところ、是非とも私を祝いたいということになったらしい。
だが、王太子である私に軽々しく来てもらうことなどできない。
そこで、私が推し進めている灌漑工事に問題が生じれば来ると思い、住民達が一計を案じた。
つまり、住民と工事の者がいざこざを起こせば、私が仲裁にやって来ると考えたそうだ。
「……ま、誠に申し訳ございません」
「いや、いい。私を祝ってくれるつもりでしてくれたことだし、叱ることなどできぬ」
「も、もったいないお言葉です!」
ま、まあ、騙したのはいかんが、私も私で目的があったからな……。
その後、街の住民や工事の者達に囲まれ、私が王太子となったことを街を上げて祝ってくれた。
◇
「ふふ……この街のみなさんは、素晴らしい方々ばかりでしたね」
「そうだな……」
私とリズは宿にある庭のベンチに座りながら、夜空を眺めている。
……あれを渡すにはちょうどいい夜だ。
「リズ」
「っ! はい……」
声をかけると、リズは少し緊張した面持ちを見せる。
私が見せたいものがあると言ってあったから、それを期待してのものだろう。
「私は王太子となり、ようやく将来の基盤ができた。君を、正式に妻として迎えるための用意も」
「はい……」
「それで、私は生涯君を愛することを誓うため、このようなものを用意した」
そう言うと、私は懐に忍ばせてあった小さな箱を取り出すと、ゆっくりと開けてみせた。
「あ……」
それは、リズのために用意した、黄金でできた指輪。
この黄金は、ノーラの実家であるリッシェ子爵家にある、グロースホルン山の小川で発見されたもの。
つまり、私とリズを結び付けてくれた、女神ダリアゆかりの黄金だ。
「私とリズを語るなら、女神ダリアなくしては始まらない。そして、私の君への愛の誓いも、女神ダリアに見届けてもらわねばな」
「はい……はい……!」
リズは涙を零しながらも、嬉しそうに微笑む。
「私は生涯、君を愛すると女神ダリアに誓う」
そう言って、私は彼女の左手に指輪を嵌めた。
「リズ……あの日、噴水で祈ってくれて、ありがとう。私を愛してくれて、ありがとう」
「ディー様……私こそ、あの日噴水に来てくださって、ありがとうございます……私を愛してくださって、ありがとうございます……!」
私はリズを抱き寄せ、そっと口づけを交わす。
彼女の左手薬指は、キールシュタットの月明かりで輝いていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
番外編につきましては、、不定期ですが引き続き投稿してまいります。
※できれば週一更新にしたい……。
また、本日より新作の連載を開始しました。
「十年間繰り返される悪夢で幾千の死を乗り越え、僕は婚約破棄されて『迷宮刑』に処された地味で優しい子爵令嬢を救い、幸せになりました」
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