笑う人形 ※オスカー=トゥ=エストライン視点
■オスカー=トゥ=エストライン視点
「ああもう! どういうことだよ! 何がどうなってるんだよ!」
三日間の祝賀会も終わってしまい、僕は部屋の中で荒れ狂う。
そもそも、この祝賀会をメチャクチャにして、あの“冷害王子”に恥をかかせて、絶対に王太子に選ばれないようにして、絶望に叩き落とすんじゃなかったのか!
なのに、蓋を開けてみれば国王の奴は勝手に“冷害王子”を後継者に指名してるし、オットーに任せていた祝賀会でのテロも実行する前にいつの間にか全部阻止されているし!
「おまけに、何で“冷害王子”が毒を盛られてるんだよ! 僕はそんな指示を出した覚えはないぞ!」
使いを出して牢に入れられているオットーに聞いても、毒は盛っていないと言い張るし、じゃあアイツ以外、そんなことをするような奴がどこにいるっていうんだ!
そのせいで、国王にテロ計画の全てが露見してしまうし、オットーが牢に入れられたことでコレンゲルの豚は文句を言ってくるし……。
「なんで……なんでこうも上手くいかないんだよお……」
僕は悔しさのあまり、涙を零す。
本当なら今頃、“冷害王子”の奴は誰からも……それこそ、あのマルグリットからも白い目で見られ、味方なんて一人もいないはずなんだ。
そして、貴族の連中も民衆も、みんなが僕を褒め称えて期待の眼差しを向けていたはずなんだ。
ほんの二年前までは、それが当たり前の日常だったんだ……っ。
でも。
「……このまま“冷害王子”の奴が毒で死んだら、その時は後継者が僕だけになる。そうすれば、今度こそみんなが僕だけを見るようになるはずだ……!」
そして、正式に後継者となり、王となったあかつきには、今日受けた屈辱を倍にして晴らしてやる!
「あはは! マルグリットをどんな目に遭わせてやろうかなあ?」
苦痛に顔を歪めるまで、ただひたすら殴り続けてやってもいいし、何なら大勢の男共に壊れるまで嬲らせてやってもいい。
ああ、そうだ……あの綺麗な顔を、絶望に染めてやる……!
割れた鏡に映る僕の顔が、まるで悪魔のような表情を浮かべている。
そうさ、マルグリットが受け入れてくれないから、僕は悪魔になったんだ。
全てを壊す、悪魔に。
すると。
「オスカー」
「っ! 母上!」
部屋にやってきたのは、母上とヨゼフィーネだった。
「母上、急に部屋に来てどうしたのですか? それにヨゼフィーネまで……」
「ハア……あなた、この部屋は何なの?」
「こ、これは……」
こめかみを押さえながら溜息を吐く母上に、僕は思わず言い淀む。
「本当に、使えない……」
「……お言葉ですが、母上がもう少し協力していただけたら、今回の件も上手くいっていたはずなんです。それを……」
母上の言葉に腹を立てた僕は、そんな皮肉を返した。
そもそも、実の息子に対して『使えない』ってなんだよ! 今までは、あんなに僕のことを可愛がっていたくせに……!
「もういいわ。あなたに期待した私が馬鹿だったの。とにかく、身の回りくらいは綺麗にしておきなさい」
「え……?」
母上の言葉の意味が分からず、僕は思わず呆けてしまった。
一体、何を言っているんだろう……?
「分からない? あなたはもうすぐ、この部屋から出て行くことになるの。多分そうね……“マントサウザン”の街にある塔に幽閉されるんじゃないかしら?」
「っ!? な、なんで!? どうして僕が幽閉なんかされなくちゃいけないんだよ!?」
僕は怒りのあまり、母上に詰め寄る。
あそこは、罪を犯した王族や高位貴族が行く場所だぞ!? 今回の件は、全部オットーの単独犯ってことになってるはずじゃないか!
「何を今さら……オスカーが犯人じゃないなんて、誰一人思っていないわよ。とにかく、あなたにこのまま王宮に居座り続けられると、私達にまで被害が及ぶの」
そう言うと、母上はヨゼフィーナへと視線を向けた。
あ、あはは……つまり、自分達の保身のために、僕は売られたってことか……。
実の息子である、この僕を。
「まあ、命があるだけありがたく思いなさい。ハア……これからは、今まで以上にあの忌々しいテレサの顔色を窺わないといけないなんて……気が滅入るわ……」
母上は額を手で押さえながら、ヨゼフィーナと共に部屋を出て行った。
「あ……あはは……」
そうか……もう、僕には誰一人も味方がいないんだ……。
「あはははは……」
僕は、独りぼっちなんだ……。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
誰もいない散乱した部屋の中。
僕は壊れ……ただ、笑うだけの人形になった。
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