もう一度、祈りを ※マルグリット=フリーデンライヒ視点
■マルグリット=フリーデンライヒ視点
今日はいよいよ祝賀会の最終日。
ようやく、ディー様の集大成が終わる。
国王陛下は祝賀会の中止と犯人の徹底捜索を指示されたけど、私がお父様に頼み込んで謁見を認めていただき、何とか祝賀会を最後までさせていただくようお願いした。
最初は難色を示された国王陛下だったけど、私の様子を見てお認めくださった。
ロクサーヌ皇女も、祝賀会の継続に後押しをしてくださったみたいだ。
そうして、二日目もつつがなく終了し、民衆はディー様がそのような目に遭っているとは露しらず、ただ後継者となったディー様を無邪気に祝っていた。
そして。
「なあ、さすがにもう諦めたほうがいいんじゃないか?」
昨日に引き続き、今日もまたオスカー殿下が私の前にやって来て、そのような失礼極まりないことを言ってのける。
ディー様は今も、毒と戦っておられるというのに。
「……よろしいのですか? ただでさえ、ディー様の件についてはオスカー殿下が最も疑われているというのに、そのようなことをおっしゃっておられて?」
盛大に皮肉を込め、私はオスカー殿下にそう告げる。
でも、疑われているどころか、私はこの男こそがディー様をあんな目に遭わせた張本人だと考えていた。
私は、絶対にこの男を許さない。
「まさか! 僕はそんなことはしていない! そもそも、そのような証拠がどこにある!」
「さあ? ですが、この祝賀会を妨害しようと画策していたことは事実。今さら白を切ることはできませんよ?」
そう……ディー様への暗殺がきっかけで、烈火のごとくお怒りになった国王陛下が、この祝賀会での暗躍について徹底的にお調べになったのです。
もちろん、それに当たって私達がつかんでいる情報も提供しています。ただし、コレット令嬢の関与に関するものは除いて。
その結果、表向きはオスカー殿下の従者であるオットー子息が、単独でそのような行為に及んだとされた。
要は、このオスカーという男に切られたのです。
今もオットー子息は取り調べを受けていますが、このまま国家動乱罪が適用され、極刑となるでしょう。当然の報いです。
だけど、この目の前の男を一緒に報いを受けさせることができなかった、それだけが悔しくて仕方ない。
「とにかく、身の振り方を考えるべきなのは私ではなく、オスカー殿下でしょう」
「……マルグリット、もう後悔しても遅いぞ? オマエからこのような侮辱を受けたこと、決して忘れないからな」
ここにきてようやく、私に対して忌々しげな表情を見せたオスカー殿下。
それまでは、ただ下卑た視線ばかりを向けてこられたので、これでようやく落ち着けるというものです。
「よく覚えておけ! 兄上はもうすぐ死ぬ! これは絶対なんだ!」
私に指を突き付け、恥ずかしげもなくそんなことを言い放つオスカー殿下……いいえ、オスカー。
その時、私は頭の中が真っ白になって。
――パアンッ!
「フザケルナ」
「き、貴様! 第二王子であるこの僕に何を……っ!?」
「フザケルナ! ディー様は今、必死に戦っていらっしゃいます! なのに、弟であるはずのあなたのその暴言、決して許せません! 恥を知りなさい!」
とうとう我慢できなくなった私は、思わずオスカーの頬を叩き、大声で怒鳴った。
涙で顔をくしゃくしゃにしようとも、周囲の人達に見られようとも。
「あなたのような男が、この国の頂点に立つなんてあり得ません! それに相応しいのは、ディートリヒ=トゥ=エストライン殿下……ディー様ただ一人です!」
「この……っ!?」
何かを言い返そうとしたオスカーでしたが、顔を醜悪に歪めながら、足早にこの場から去ってしまった。
理由が分からず、首を傾げる。
「マルグリット様、よくぞ言ってくださいました!」
「ハハハ! これは愉快!」
背中から声が聞こえたので振り返ってみると、そこには貴族、使用人など、大勢の人が私の後ろにいて、微笑んでいた。
「み、皆様……!」
「フフ! もちろん私達は、ディートリヒ殿下こそがこの国の王となるに相応しいと考えているわよ!」
何故かこの場にいたメッツェルダー辺境伯が、そう言って私の頭を撫でてくれた。
「はい……はい……! ありがとうございます……!」
私はそんな皆様に、ただ感謝の涙を零し続けた。
◇
「ディー様……」
王宮の庭園の噴水の前、私は月明かりに照らされながら、今もディー様が戦っておられる部屋の窓を眺める。
私はディー様の代役として、祝賀会を無事に終わらせました。
だから。
「ディー様……私のこと、褒めてくださいますよね……? 私の頬を、優しく撫でてくださいますよね……?」
そう呟き、また涙を零す。
あなた様に褒めてほしい、笑顔を見せてほしい、抱きしめてほしい、口づけをしてほしい、全てを求めてほしい……あなたが、ほしい。
「私は、待っているんですからね……? ずっとずっと、皺だらけになったとしても、あなた様が戻ってくるまで、待ち続けているんですから……!」
だから、早く私の元に帰ってきてください。
私は握りしめていた金貨を一枚、噴水の中に放り投げる。
「女神ダリア様……どうか……どうかディー様を、お救いください……! どうか……どうか……!」
私は、お母様のために祈りを捧げた幼いあの日と同じように、ただ、ディー様を想って祈りを捧げ続けた。
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