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一夜を君と、添い遂げる

「いよいよ、か……」


 エストライン王国とカロリング帝国の友好を記念した祝賀会を明日に控え、深夜であるにも関わらず王宮の庭園で独り言ちる。


 ここまで、やれるだけのことはやった。

 あとは、明日を迎えるのみなのだが……はは、感情を持たなかった、この“冷害王子”がこんなにも気持ちを昂らせるとはな。


「リズは、いい夢を見ているであろうか……」


 王宮の彼女の部屋がある塔を眺める。

 全ては、彼女の捧げてくれたあの祈りから始まったのだ。


 私の、王への道程が。


 死に戻り、王になることを決意し、リズにもう一度出逢い、フリーデンライヒ侯爵、ハンナ、ノーラ、グスタフ、メッツェルダー辺境伯、イエニー……数多くの仲間を得た。


 前の人生の私は、こんな私など想像もできなかったであろうな。


 すると。


「ディー様……」


 リズが、この庭園にやってきた。


「はは……君も、寝つけないのか?」

「はい……明日は、あなた様が王の道へと至ることが確約される、大切な日ですから、眠るのがもったいなくなってしまいました……」

「そうか……リズ、おいで」


 噴水の縁に座る私の隣に座らせ、彼女を抱き寄せた。


「寒くないか?」

「はい……ディー様の温もりを感じられて、心地よいです……」

「そうか」


 それから、しばらく沈黙が続く。

 ……いや、もはや私とリズは言葉など交わさなくとも、お互いを感じることができる。


 あの、不器用な“冷害王子”と、不器用な侯爵令嬢が。


「リズ……愛している……」

「ディー様……私も、あなた様を愛しています……」


 私は顔を近づけると。


「ちゅ……ちゅく……」


 リズの唇に口づけする。

 だが、私も昂っていたからだろう。彼女の口唇に、その舌を差し込んでいた。


「ふあ……れろ……ちゅぷ……じゅ、じゅぷぷ……」


 リズも、私の舌にぎこちないながらも自身の舌を絡めた。


「ぷあ……」


 唇を離すと、互いの舌と舌から伸びる糸が月明かりによって、きらきらと輝く。


「リズ……明日の祝賀会は、間違いなく成功する、だから、何があっても(・・・・・・)心配しないでほしい」

「はい……もちろん、心配などしておりません。ただ、あなた様の輝ける瞬間を見つめるのみです」

「リズ……」

「は……ん……ちゅ……ん、んん……あああああ……っ!」


 私とリズは、飽きることなく互いを抱きしめ、口づけを交わし、求め合った。


 ◇


「くあ……!」


 朝になり、私は思わず欠伸をする。

 結局、昨夜は一睡もすることができなかった。


 何故なら。


「ふふ……ディー様……」


 私は、愛するリズとずっと愛し合っていたのだから。


「リズ……身体は大丈夫か?」

「はい……その、少々痛みますが……」

「う、うむ……その、すまない……」


 恥ずかしそうにシーツで顔を隠すリズに、私はただ平謝りをした。


「ふふ。ですがこれは、幸せの証です。私は、こんなにも幸せに満ち(あふ)れております……」

「それは私こそだ。リズ……君は、世界一の女性(ひと)だ」

「ディー様……ん……ちゅ……」


 昨夜はあれほどリズと口づけを交わしたというのに、私はそれでも足りないらしい。

 彼女の紅い唇を、無限についばみたくなってしまっているのだからな。


「ちゅ……ふふ、ですがそろそろ身支度を整えませんと、ハンナがやってまいります」

「む……そうだな」


 今日は祝賀会だから、ハンナも暗いうちからやって来そうだからな……。


 私はベッドから出ると、今日のために用意してある礼装に着替える……のだが。


「リズ……あまりそのように見つめられては、その……照れるではないか」

「ふふ……ですが、ディー様のお身体は、やはりたくましいですね」


 こ、このままではかなわん。さっさと着替えてしまおう。

 私は礼装に着替え終えると、今度はリズがベッドから出てきた。


「ふあ……そ、その、あまり見ないでください……」

「何を言うか。そのような美しい姿、目に焼き付けないでどうするのだ」

「ふああああ!?」


 などと言ってはみたものの、い、いくら一夜を共にしたとはいえ、その……どうしても目のやり場に困ってしまう……。

 もちろん、女神すらも凌駕する美しさであることは、間違いないのだがな。


「うう……お、終わりました……」


 リズは自分の部屋に礼装があるため、ナイトドレスを着ただけではあるが、それでも、私の心をざわつかせるには充分だ。


「リズ……」

「ふあ……も、もう……ちゅ、ちゅぷ……ん、っふ……」


 ――コン、コン。


「「っ!?」」


 部屋をノックする音が聞こえ、私とリズは勢いよく離れた。


「殿下、そろそろ起きていただくお時間です……って、もう起きておられましたか。それに、マルグリット様も」

「う、うむ……おはよう……」

「お、おはようハンナ……」


 私とリズは、いつもよりも距離を取りながら、ぎこちなく挨拶をした。


「では、マルグリット様も礼装にお着換えいただかなければなりませんので、ノーラのところへお送りいたします」

「え、ええ……」


 ハンナが恭しく一礼すると、リズは彼女の(そば)へ向かった。


「それと」

「「?」」

「おめでとうございます」

「ふああああああああああああああああ!?」


 部屋の中で、リズの絶叫がこだました。

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