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報告と確認、そして微笑

「ディー様! 王都の防壁が見えました!」


 ラインズブルックの街を発ってから八日、とうとう王都へと帰還した。

 ここまでかなりの強行軍だったため、馬はおろか護衛の騎士達も疲れた表情を見せている。


 もちろん、リズやノーラも。


 ハンナはさすが優秀な諜報員だけあって、そのような素振りは一切見せない。

 だが……ここまで、最も働いてくれたのは彼女だ。


 今回の件、全てが解決したら、ゆっくりと休んでもらわねばな……。


「止まれ! ……って、こ、これはディートリヒ殿下!」

「今は火急の用であるため、すぐに中へ入るぞ!」

「「はっ!」」


 勢いよく門をくぐろうとした馬車を止めた衛兵だったが、私であることに気づき、敬礼をしてすぐに通してくれた。

 うむ。どのような身分であれ、まずは止めて確認するその仕事ぶり、本当なら褒めてやりたいところだが、今はそれどころではない。


 そのまま馬車を、王立学園へ向けて王都の中を疾走させる。

 あのイニシャルが示しているものがコレット令嬢でないのであれば、取り越し苦労で済む話だが、万が一彼女を示したものだった場合、ロクサーヌ皇女の身が危ない。


 何とか、到着するまで無事でいてくれ……!


 とうとう国立学園へと到着すると、私は勢いよく馬車を降りた。

 今の時間なら、まだ教室で授業を受けているはず。


 私はこの時ばかりはリズを置いたまま、教室へと駆ける。

 その隣には、ハンナとグスタフが付き従っていた。


 そして。


「ロクサーヌ殿下!」


 教室の扉を勢いよく開け放ち、彼女の名を大声で叫んだ。

 そのまま、彼女の席へと視線を向けると……驚いた様子でこちらを見ているロクサーヌ皇女がいた。


 ……どうやら、間に合ったようだ。


「ど、どうなされたのですか? それに、公務であと十日は王都にはいらっしゃらないはずでは……?」

「話は後だ。少々確認したいことがあるゆえ、別の場所へ……」


 私はスーザン先生に目配せして許可を得ると、ロクサーヌ皇女を連れて教室を出る。


 すると。


「私も一緒にまいります」


 同じく、コレット令嬢が慌てて教室を出てきた。


 さて、どうする?

 このままコレット令嬢が一緒にいては、例のイニシャルの件についてロクサーヌ皇女に話をすることができない。

 かといって、コレット令嬢を置いたままにしても、やはり監視ができるようにしておきたい。


「……分かりました。では、コレット殿も一緒に」

「はい!」


 私達は、そのまま学園の廊下を移動していると。


「ディー様、こちらにお部屋の準備ができております」

「リズ、助かった」


 廊下の先に立っているリズが、私を見て一礼した。

 はは……さすがはリズだ。


 リズの案内の下、私達は用意された部屋の中へと入る。


「そ、それで、一体何があったのですか?」

「はい……実は、エストライン王国とカロリング帝国との国境にあるラインズブルックの街において、一人の刺客を捕らえました」

「「刺客!?」」


 私の言葉に、ロクサーヌ皇女とコレット令嬢が反応した。

 ロクサーヌ皇女に関しては、いつも刺客に狙われる身であるがゆえ過敏になっているのだろう。

 だが、コレット令嬢は……どちらの(・・・・)意味で(・・・)反応を示したのだ?


「それで、その刺客が少々特殊でして……ラインズブルックの街を治めるメッツェルダー辺境伯によると、刺客は自分のことを『カロリング帝国の貴族子息だ』などと名乗っていたそうです」

「そ、それはどういう意味でしょう……」

「分かりません……今となっては、その男の素性も、目的も、何もかも知る(すべ)を失くしてしまったのですから……」


 おずおずと尋ねるロクサーヌ皇女に、私は眉根を寄せながらかぶりを振った。


「で、ですが、その貴族子息を名乗る男を尋問すれば、それは分かるのでは……?」

「残念ながら……」


 私は、二人に対してその刺客が死んだことを、言外に告げた。


 すると。


「ああ……」

「ロ、ロクサーヌ殿下!?」


 顔を青くしたロクサーヌ皇女は額を押さえ、椅子の背もたれに力なく身体を預けた。

 そんな彼女を、コレット令嬢が慌てて支える。


「……とにかく、男の身元を含め、王国としても全力で調査いたします。ひょっとしたら、その男についてお二人にもご協力を仰ぐ可能性があることだけ、ご承知おきください」

「は、はい……」


 さて……彼女への報告はこんなところだろう。

 あとは、ロクサーヌ殿下に危害が及ばぬよう警戒態勢を強めておかねばな。


「では、ロクサーヌ殿下。今日のところは授業はお休みされたほうがよろしいかと……」

「はい……そうさせていただきます……」

「ロクサーヌ殿下、どうぞおつかまりください」


 コレット令嬢がロクサーヌ殿下を支えながら、よろよろとこの部屋を出て行く。

 その時……私は見てしまった。


 コレット令嬢が、ほんの僅かに口の端を持ち上げる瞬間を。


 そして、二人が部屋からいなくなった後。


「ハンナ……イエニーに指示し、コレット令嬢を逐次監視するようにしてくれ。場合によっては、その場で制圧することも許可する」

「かしこまりました」


 ハンナは恭しく一礼すると、部屋を出て行った。

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