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目的の刺客の変死

「ふあ……」


 次の日の朝……いや、まだ外は暗いから、夜明け前といったところか。

 私は目を覚ますなり欠伸(あくび)をする。


 その後は。


「リズ……」

「すう……すう……」


 もちろん、隣に眠るリズの寝顔を堪能する。

 昨夜は一緒に温泉に浸かった後、怖い思いをさせてしまった彼女を落ち着かせるために、同衾(どうきん)をすることにした。


 本音は、愛おしいリズを手放したくなかったから、というのが大きいが。

 とはいえ、昨夜は眠りにつくまでに苦労したな……なにせ、目を閉じればリズの、その……ローブ一枚しかない姿が浮かんできて、心を鎮めることができなかったのだから。


「分かっておるのか? 私がどれだけ君のことが好きで、愛おしくて、心を奪われているのかということを」


 彼女の柔らかい頬を人差し指でつつきながら、私は苦笑する。

 だが……昨夜は、確かにこの唇に口づけをしたのだな……。


 頬から少しずつ指をずらし、唇へとたどり着くと、以前のようにそっとなぞる。


 リズ……。


 私はそのまま顔を近づけると、寝息を立てるリズの唇に、優しく口づけをした。


 すると。


「む……ん……」


 リズは私の首に腕を回すと、より唇を押し付けた。


「ちゅ……ちゅく……ぷあ……」


 ようやく唇を離したリズは、恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる。


「ディー様……私もあなた様に負けないほど、誰よりも愛しています……」

「リズ……私もだ。君を誰よりも愛している……」


 私はリズを抱きしめ、ハンナが起こしに来るまで彼女の唇を堪能した。


 ◇


「フフ、昨日はよく眠れたかしら?」


 食堂に入ると、既に着席していたメッツェルダー辺境伯が笑顔で尋ねる。


「はい、おかげさまで」


 私は嬉しそうに微笑むリズを見てから、メッツェルダー辺境伯に答えた。

 昨夜は、初めてリズと口づけを交わし、朝も飽きることなく口づけを交した。


 今の私は、ただ幸せに満ちている。


「そう、ならよかったわ。では、ここからはちょっと真面目な話をするわね」


 メッツェルダー辺境伯の雰囲気が変わり、その表情も真剣なものとなる。


「……ひょっとして、何かあったのですか?」

「ええ。面会をする予定だった、例の侯爵子息の刺客……今朝、牢の中で死んでいるのが発見されたわ」

「「「「「っ!?」」」」」


 険しい表情で告げるメッツェルダー辺境伯の言葉に、私達は思わず息を飲んだ。


「今朝、牢を警備していた兵士が発見した時には、既に死んでいたそうよ。死因については、調べたところ毒によるもののようね……」

「毒……その侯爵子息は、自殺したというこことでしょうか……?」

「そこまではまだ分からないわ。だけど、殿下も知っているようにロクサーヌ皇女への刺客を阻止するために、この屋敷を含めて警備は厳重にしてあるの。どんな暗殺者であっても、そう易々と侵入するなんてことはできないはずよ」


 確かに、メッツェルダー辺境伯の言うとおりではある。

 これだけ警備が厳しい状況では、ハンナ……いや、その師匠であるフリーデンライヒ侯爵の執事、ランベルトであっても簡単には暗殺することはできないだろう。


 だが。


「……昨日の私の暗殺未遂といい、色々と情報が漏れているような気がします。ひょっとしたら、この屋敷の警備体制や建物の構造など、そういったものも含めて。そして、私が今日、侯爵子息と面会することまで」

「……本当に、面倒な話ね……!」


 メッツェルダー辺境伯が、眉根を寄せながら親指の爪を噛む。

 だが、これでまず間違いない。


 王都なのかこの屋敷の中なのか、ラインズブルックの街なのか、そのどこかに間者(・・)がいる。


「ただ、誰の手によるものなのかは分かりません。オスカーなのか、シャルル皇子なのか、それとも、私の母である第一王妃なのか……」


 他に考えられるとすれば、第一王妃の実家であるヴァレンシュタイン公爵か……。

 だが第一王妃派は、表向きはこの私を王に仕立て上げることを目的としているはず。さすがに、そこまで短絡的な真似をするとも思えない。


 だとすると……。


「とにかく、その侯爵子息の死体を調べてみましょう」

「そうね」

「リズとノーラは部屋で待っていてくれ。ハンナ、グスタフ、行くぞ」

「はい」

「はっ!」


 リズとノーラを置いて、私達はその侯爵子息が安置されている場所へと向かう……って。


「リ、リズ!?」

「ディー様、見くびらないでください。たとえどのような光景を目にしようとも、それは既に覚悟の上。私は、いつもディー様と共に」


 琥珀色の瞳に覚悟と決意を秘め、リズはそう告げる。

 どうやら私は、彼女の言うように見くびってしまっていたようだ。


 ああ……君はそうだったな。

 君自身に危害が及ぶかもしれないのに、荒れ狂う民衆の中で君は私に祈りを捧げる……そんな心の強さと信念を持った女性(ひと)だった……。


「わ、私もお二人のお(そば)に!」


 リズに加え、ノーラもその後に続く。

 本当に、私のかけがえのない者達は……。


「分かった……ならば、皆で行くぞ!」

「「はい!」」


 私はリズの手を取ると、先頭を行くメッツェルダー辺境伯の後に皆で続いた。

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