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ラインズブルックのカフェでの刺客

「そ、その……ディートリヒ殿下、私までご一緒してもよろしかったのでしょうか……」


 メッツェルダー辺境伯からの手紙を受け、彼女が治めるラインズブルックの街へ向かう馬車の中、ノーラがおずおずと尋ねる。


「もちろんだ。これまで、私が国王陛下の任務に取り組んでこれたのは、ノーラの力が大きいのだぞ? このような機会を利用して君を労うことに、なんの躊躇(ためら)いもない。むしろ遅すぎたくらいだ」

「そ、そうですか……」


 私の言葉を受け、ノーラが耳まで真っ赤にしてうつむいてしまった。

 むう……何か彼女に対して、余計なことをしてしまったのではないだろうか……。


「ふふ……ディー様には困ったものです。ですが、そのような御方だからこそ、私はあなた様をこんなにも好きになってしまったのですが」


 そう言って、リズは私にしな垂れかかってきた。

 前の人生では不器用すぎて絶対にしてくれなかったが、今ではこうやって甘えてくれるから、心から嬉しい。


 いや……前の人生で、私があまりにもリズをないがしろにしてきたということの証明だな。

 本当に、以前の自分を殴りつけてやりたい。


「……殿下、私の貢献度もかなりのものだと自負しておりますが」


 ハンナが胸を張りながら、おねだりをしてきた。

 うむ……ハンナもハンナで、一切遠慮しなくなったな……。


「もちろんだとも。いつも言っているが、ハンナは私にとってなくてはならない女性(ひと)だぞ? 当然、ノーラもな」

「はう!?」

「ふえ!?」


 そういえばハンナとノーラも、時々こんな可愛らしい声を漏らすようになってきたな。

 うむ、これはこれで良い傾向だ。


「ふふ……ハンナ、ノーラ、よかったわね」

「……本当に、殿下は反則です」

「ど、どうしましょう……嬉しすぎて、頬が……」


 ハンナが窓へと顔を背け、ノーラが両手で顔を押さえる。

 はは、二人のこんな様子も、微笑ましいものだな。


「イエニーも発情する癖さえなければ、一緒に連れてきてもよかったのだが……」

「「「絶対にいけません!」」」

「うお!?」


 そんなことをポツリ、と呟いた瞬間、三人が真顔で詰め寄る。

 ど、どうやらそういうことらしい……。


 とはいえ、イエニーも発情癖を除けば優秀な諜報員で、いつも私を助けてくれているのだから、ま、まあ、何かプレゼントくらい用意するとしよう……。


 ◇


「フフ! 殿下、待っていたわ」


 王都を発ってから十日。

 ラインズブルックの街に到着すると、メッツェルダー辺境伯が笑顔で出迎えてくれた。


「メッツェルダー閣下、わざわざお出迎えいただき、ありがとうございます」

「いいのよ。それに、殿下がまさかこんなに早く来てくれるとも思わなかったし」


 私とメッツェルダー辺境伯は、笑顔で握手を交わす。


「それより、十日間の旅は疲れたでしょう? この街は温泉もあるからゆっくりしてちょうだい」

「はい、お言葉に甘えて保養させていただくつもりです。なあ、グスタフ」

「全くですな。私も今回ばかりは、温泉に浸かりながらワインを飲みに来たようなものですから」

「あら! それいいわね!」


 グスタフの言葉に、メッツェルダー辺境伯が大乗り気で同意した。


「ならば、この国王陛下秘蔵のワインがありますので、二人で楽しんではいかがでしょう」


 私はメッツェルダー辺境伯への土産として用意したワインを、ハンナから手渡す。


「そ、その……で、殿下もそう言っていることだし、そうする……?」

「そそ、そうですなあ……それもよいかもしれませぬ……」


 顔を真っ赤にした二人が、お互いの顔を(のぞ)いては視線を逸らす。

 何というか、その……初々しいな。


「ところで、例の刺客については明日面会するということでよろしいですか?」

「へ!? え、ええ、そうね……まずは殿下もゆっくりしてちょうだいね!」

「分かりました。ではグスタフ、この街にいる間は私の代わりにメッツェルダー閣下をしっかりと護衛するのだぞ?」

「「で、殿下!?」」


 声を上げる二人と別れ、私はリズ達と共にラインズブルックの街を散策する。

 ふむ……やはりカロリング帝国との国境にある交易都市だけあって、独特な雰囲気と活気があって賑やかだな。


「ん? あれはカフェか……せっかくだから、あそこでお茶でもして休もう」

「「「はい!」」」


 私達はカフェに入り、席に着く。

 ほほう? お茶にミルクを入れるとは、なかなか面白そうなものがあるではないか。


「店主、すまんがこのミルク入りのお茶をくれるか? 皆はどうする?」

「私もディー様と同じものを」

「「私もそれでお願いします」」

「む、なんだ、結局全員同じであったな」


 私達はお互いの顔を見合わせ、微笑み合う。


「はい。すぐにお持ちいたします」


 注文を受けると、店主は店の奥へと戻っていった。


 そして。


「お待たせいたしました」


 店主に替わり、女性店員が私達の前にミルク入りのお茶を置いた。


 その瞬間。


「がっ!?」

「……甘いですね」


 ハンナが素早く女性店員の背後へと回り、腕を取って床へと押さえつけた。

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