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王立学園

「ふふ……ディー様と一緒に王立学園に入学するなんて、夢のようです……」


 いよいよ王立学園に入学する日となり、私とリズは馬車に乗ってその学園へと向かっている。


 なお、王立学園は全寮制で、王族もその義務を免れない。

 これは、今まで周囲に頼ってばかりだった甘えを戒め、成人となる十八歳を心身共に成長した姿で迎えるためという、国立学園の創設者たる先々代の国王陛下の理念によるものらしい。


「それにしても、私やリズはよいが、ハンナ……さすがに少々無理があるのでは……」

「……何が言いたいのでしょうか?」


 そう言ってチラリ、とハンナを見やると、彼女は主に向けるものとは到底思えないような視線を向け、私も慌てて顔を背けた。

 実は、私達の付き人兼護衛として同い年のイエニーが学園に一緒に入学する予定だったのだが。


『あのような者を、単独でお二人の(そば)に置くわけにはまいりません』


 ということで、ハンナが猛反対した。

 なので、本来は私達の四歳年上であるハンナが、同い年であると偽って私達と一緒に学園に入学することになったのだ。


 なお、当然ながら孤児だったハンナ自身は国立学園に通ったことはないものの、シャハト男爵家の令嬢という肩書を持っているため、とりあえず入学が認められた。


 なので、王宮にはノーラとイエニーが残り、様々な業務を行ってもらっている。


「む、見えてきたぞ」


 ハンナへの気まずさから窓の外を眺めていると、視界にひと際大きな建物が見えた。

 あれこそが、エストライン王国の貴族の子息令嬢が一堂に通う、王立学園だ。


「ですが……学園内に入るには、かなり時間がかかりそうですね……」

「まあ、入学初日であるからな。仕方あるまい」


 窓から馬車の行列を眺め、リズが辟易した表情を見せる。

 ふむ……このまま車内でリズを堪能してもよいが、さすがにハンナをないがしろにするわけにもいかん。


「まあ、学園は目と鼻の先なのだから、馬車を降りて歩いて向かうか?」

「! それがよろしいかと!」


 私の提案に、リズはパアア、と笑顔を浮かべながら両手を合わせた。


「ハンナ、それでいいか?」

「はい。あとは学園までの一本道ですので、対処できるかと」


 無事にハンナの了承を得たので、私達は馬車を降りる。

 もちろん、リズもハンナもこの私が降ろした。


「見てください。馬車に乗っておられる子息令嬢の方々が、私達を興味深そうに眺めておりますよ?」

「そうだな。わざわざ徒歩で向かう我等が珍しいのだろう」


 まあ、体面を重視する貴族ならば、普通はこんな真似しようとも思わないからな。


 なので。


「ハンナ、しっかり記録しておいてくれ」

「もちろんです。殿下にあのような視線を向ける者など、不敬極まりないですので」


 私がハンナに指示をする前に、彼女はしっかりと馬車に描かれている家紋を確認していた。

 まあ、蔑むような視線を送っているような者は、第二王子派だろうがな。


 ……いや、第一王妃派の者も含まれるか。


「本当に、テレサ王妃殿下はディー様のことをどう考えていらっしゃるのでしょうか」


 リズが恐ろしく低い声でそう呟く。

 第一王妃の教育に横やりを入れて以来、実は私もリズも、公式の場以外で第一王妃と会っていない。

 王宮内でも第一王妃は籠りきりになり、第一王妃の取り巻き達が私への批判を展開していた。


『第一王子は実の母である第一王妃を排除しようとしている』

『実の子であるにもかかわらず、恥知らずもいいところだ』


 これらが、第一王妃派の者達からの誹謗中傷だ。


「まあ、私としてはこうやって扱われたほうが気は楽だ。何より、一切遠慮する必要がないからな」


 そう……第一王妃派とは言いながらも、この一年半でほとんどの貴族が第二王子派へと離反し、今はヴァレンシュタイン公爵とその傘下の貴族しかいない。

 もはや、私の派閥にすら力関係では劣っている。


「あとは、ヴァレンシュタイン家をどうにかするだけだが、こちらについても考えがあるからな」

「ふふ……そうでしたね」


 私の言葉に、リズはクスリ、と笑った。


「殿下、やはり蔑んだ視線を送ってきた子息令嬢は、全て第二王子派と第一王妃派でした」

「だろうな。これは、学園生活が楽しみだ」

「ええ! ディー様に無礼を働く者達は、この私が全員打ちのめして差し上げます!」

「人知れず消す際には、どうか私にご命令を」


 リズとハンナが鼻息荒く意気込んでいるが……二人共、程々にな……。


 その時。


「フン! これがこの国の第一王子とは、嘆かわしいことこの上ない!」


 ほう? 私を第一王子と知った上で、そのような台詞(セリフ)を吐くとは、なかなかいい根性をしているではないか。


 私は声の主へと視線を向けると。


「……なるほど」


 ラインマイヤー伯爵の長男、“ブルーノ”が私を睨みつけていた。

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