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裁判

「殿下、マルグリット様、王立学園の制服が届いておりました」


 私とリズが部屋に戻ると、ハンナとノーラが制服を持って待ち構えていた。

 しかもノーラに至っては、その瞳をキラキラさせている。


「ふむ……ならば、早速試着をしてみようか。リズ、着替えたらまた来る」

「はい……ふふ、ディー様の制服姿、楽しみです」

「それは私もだ」


 ハンナを伴い、自分の部屋に戻ると。


「お帰りなさいませ、殿下」

「……どうしてイエニーが私の部屋にいるのだ?」


 私は遠い目をしながら、ハンナに尋ねる。


「ハア……申し訳ございません。彼女を監視するためには、私の(そば)に置くしかないとの結論に達しました」

「そ、そうか……」


 表情こそ変えないものの、盛大な溜息と共に肩を落とすハンナの姿に、私は何も言えなくなった。

 ハンナ……君も苦労しているのだな……。


「コホン……とりあえず着替えるから、イエニーは部屋を出ていてくれ」

「っ!? な、何故ですか!? 私も殿下のお着替えのお手伝いをいたします!」

「……イエニー?」

「はい! かしこまりました!」


 ハンナが低い声で名前を告げた瞬間、イエニーは猫耳と尻尾をピン、と伸ばした後、即座に部屋から出て行った。

 リンケ子爵家でのハンナの指導(・・)が行き届いたようで何よりだ。


「ふう……では、着替えるとしよう」

「はい」


 私は服を脱ぎ、制服へと着替える……のだが……。


「ええと、ハンナ?」

「何でしょうか?」

「いつも言っているが、背中や胸を触って私の健康管理をする必要はないぞ?」

「いいえ、これは健康管理のためではありません。万が一、殿下を狙う者が毒針などを仕掛けている可能性もありますので、その確認のためです」

「……物騒だな」


 そもそも、私の着替えなどは全てハンナが用意してくれているのだから、そのようなことがある訳がないのだが……。

 まあ、鼻息荒く一生懸命に確認しているハンナを見てしまうと、何も言えないのだがな……。


 そして。


「殿下、完璧です」

「そ、そうか……」


 着替えが終わり、顔を上気させたハンナが力強く頷く。

 ま、まあ、せっかく大切な侍女が褒めてくれたのだから、素直に信じよう。


「では、リズのところに行ってみるか」

「はい」


 私とハンナは、一緒にリズの部屋へ向かう。

 で、いつの間にかちゃっかりとその後に続いているイエニー。なかなかいい根性をしている。


「リズ、着替えは終わったか?」


 扉をノックしてから部屋の中へと入ると。


「あ……ディー様……」


 既に制服に着替え終わっていたリズが、私を見て蕩けるような表情を見せてくれた。

 いや、私の婚約者、世界一可愛いのではないか? 間違いなく可愛いな。


「リズ、とてもよく似合っている」

「ふふ……ディー様こそ、素敵です……」


 そう言って、リズは私の手を取る。


「だが、ただでさえリズは綺麗なのだから、立場も弁えずに余計な虫が君にまとわりつかないか、それだけが心配だ」

「それこそ、私のほうが心配です。ディー様は素敵な上に、その……」


 リズが上目遣いで私の顔を(のぞ)き込む。

 その琥珀色の瞳に、不安の色を(たた)えて。


「……それこそ無用の心配というものだ。そもそも、私の心にはいつもリズがいるのだし、何度も言うが私に懸想してくれる女性は君しかいない」

「「それが一番心配なのです!」」

「うお!?」


 リズに加え、ハンナまで同時に叫び、私は思わず仰け反ってしまった。

 い、いや、二人共何を心配しているのだ……。


「と、とにかく! 王立学園では常にディー様の(そば)におりますから!」

「私も、殿下のお(そば)から片時も離れません」

「う、うむ……」


 詰め寄る二人に、私はただ頷くしかなかった。


 ◇


「では、ただ今からリンケ子爵に対する裁判を行う」


 リンケ子爵が王都に連行された日から一週間後。

 王宮内にある、王侯貴族の裁判を行うための法廷で、裁判長を務める法務大臣の“ティーレマン”伯爵が、開廷を宣言する。


「リンケ子爵の罪状は、人身売買及び禁止薬物の関与についてで……」


 裁判長の補佐の一人が、罪状の詳細をつらつらと読み上げる。

 私はといえば、彼を捕縛した者として、この法廷で弁護側の向かいの席に座っている。


 なお、リンケ子爵の弁護は、同じ第二王子派である“ボンホフ”伯爵が務めるようだ。


「それでは審理に入る前に……弁護側、何か言うことがあるか?」

「ございます」


 ボンホフ伯爵は挙手をすると、証言台に立つ。


「今回の事件に際し、リンケ子爵の犯した罪は間違いありません」

「っ!? ボンホフ閣下!?」


 ボンホフ伯爵の言葉に、リンケ子爵は思わず声を荒げた。

 それもそうだろう。同じ第二王子派の仲間として弁護側で立っているのに、冤罪を主張するどころか罪を認める発言をしたのだから。


 そんな中、私は傍聴席の奥に座っている、オスカーを見やると……ほう、やはりか。

 オスカーが王族にあるまじき下品な笑みを浮かべているのを見て、私はただ頷く。


「ですがこの罪、決してリンケ子爵だけの罪ではありません。何故なら……押収された証拠の中には、第一王子であらせられるディートリヒ殿下の名前が記載されたものも発見されたのですから!」


 ボンホフ伯爵の声が法廷内に響き渡ると、居合わせている貴族達がざわつき始めた。


「静粛に! ……それでボンホフ卿、その証拠というのはどれを指しているのか?」

「こちらにございます!」


 後ろへと振り向いて従者より便箋を受け取ると、ボンホフ伯爵は高々と掲げた。


「こちらは、リンケ子爵とディートリヒ殿下の、禁止薬物に関するやり取りを示しているものです! ディートリヒ殿下は、以前からリンケ子爵に禁止薬物を無心していたことがこれで確認できます」

「異議あり」


 私は裁判長に向け、手を挙げる。


「異議を認める」

「ボンホフ閣下。その便箋は、果たして私のもので間違いないでしょうか?」

「もちろん! この封蝋に押されている印が、その証拠です!」


 ボンホフ伯爵は、得意げに答えた。


 それを見た瞬間、私も、傍聴席にいるリズとハンナも、口角を持ち上げた。

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