幸せな未来をつかむため
「殿下、マルグリット様、かなり遅いお戻りでしたね」
「お二人共、お帰りなさいませ……」
王宮内へと戻ると、ハンナから盛大に皮肉を言われ、ノーラからは苦笑気味に深々とお辞儀をされた。
「二人共、待たせてしまったな。私とリズはこのまま部屋で少々話があるから、二人は気にせずに休んで構わないぞ」
「いえ、そういうわけにはまいりません。ところで……殿下はいつからマルグリット様のことを“リズ”とお呼びになるようになったのですか?」
……ハンナめ、耳聡いな。
「……先程だ。私がリズに頼み、そう呼ぶことを許してもらった」
「ディ、ディー様!? 私が許したなどと、そんな畏れ多い!」
「何故だ? 私が特別な愛称で呼びたいと、そうお願いしたのではないか」
「ふああああ!?」
はは……またもや可愛い声を聞かせてもらったぞ。
よし、これからは最低でも一日一回以上、この声を聞くことにしよう。
「どうやらお二人の仲が深まったようで、何よりです。ですが、やはりお二人だけにするわけにはまいりません。私もご一緒いたします」
「わ、私もマルグリット様がお休みになるまでは、お傍でお世話させてください!」
ふむ……まあ、この二人は既に同じ船に乗っているのだから、問題ないか。
「分かった。ならば二人も同席するといい。今夜は少々長くなる故、お茶のほかに小腹を満たすためのお菓子があるとよいな。もちろん、四人分だ」
「っ!?」
「わ、私達の分もですか!?」
私の言葉に、ハンナが息を飲み、ノーラが驚きの声を上げた。
「そうだ。これは、私達の今後の未来のことだからな。いわばハンナとノーラも、私達の同志だ」
「ええ……二人共、私達を助けてください……」
私がそう告げ、リズは深々と頭を下げる。
そうだ……私もリズも、二人だけでは何もできない。
ハンナやノーラ、フリーデンライヒ侯爵、メッツェルダー辺境伯や他の第一王子派の貴族……多くの者の力を借りて、私達は共に未来をつかむのだ。
「……このハンナ、微力ながら必ずやお二人の力となってみせます」
「ノーラ=リッシェ及びリッシェ家は、お二人に永遠の忠誠を」
「うむ……よろしく頼む」
「どうか、お願いしますね」
跪き、首を垂れる二人を、私とリズは感謝を込めて抱き起こした。
◇
「それで……我々の今後についてだが」
私の部屋に戻って四人で席に着くと、私は口を開いた。
「ディー様は、今後敵となる第一王妃と第二王子を排除する、ということでよろしいですよね?」
「うむ」
リズが確認のためにそう尋ね、私はゆっくりと頷く。
「あの……少々よろしいでしょうか?」
するとノーラが、おずおずと手を挙げた。
「その、テレサ王妃殿下は殿下を王太子……つまり次期国王にするために、派閥を作っておられるのですよね……? であれば、第二王子派はともかく、第一王妃派まであえて排除せずに共闘という道もあるかと思うのですが……」
「なるほど……ノーラの考えも一理ある。だが私は、第一王妃と手を結ぶつもりはない」
私は、ノーラにハッキリと告げた。
そう……私が第一王妃と手を結べば、仮に次期国王の座に就いたとしても、その後の未来は破滅しかない。
何より、前の人生ではそうだったのだから。
それに。
「……私が次期国王の座をつかんだら、それこそ私はただのお飾りの王に成り下がり、第一王妃は権力をかざして好き勝手に振る舞うだろう。そうなれば、私について来てくれた者は碌な目に遭わない」
「あ……」
「だから、私が正しく王となるには、第一王妃の存在は邪魔でしかないのだ」
そう説明すると、ノーラは納得の表情を浮かべた。
「……それに、私の大切なディー様を傷つけるような御方を、私は許せようはずもありません……!」
リズが低い声でそう言って唇を噛み、それにハンナとノーラも頷いた。
「順当にゆけば、王立学園を卒業する十八歳の時に、国王陛下は次期国王となる王太子を決めるだろう。それまでに、私のほうがオスカーよりも王太子に相応しいことを示さねばならない」
もちろん、それだけでなく四年後の国王陛下の死を防がねばならない。
第一王妃の仕業なのか、それともオスカーの仕業なのかは分からないが、な……。
「そうなると、やはり多くの支援者を引き入れる必要があります。確かにディー様は、私の父やメッツェルダー閣下をはじめ、中立派の貴族をお味方に加えることができましたが、それでも最大貴族であるヴァレンシュタイン公爵家を擁する第一王妃と、コレンゲル侯爵をはじめとする数多くの貴族を従えるオスカー殿下には、到底及びません……」
「確かにな。だが、オスカーについている貴族はそれほど有力な貴族が支援しているわけではなく、第一王妃も完全にヴァレンシュタイン家頼み。つけ入ることは充分にできる。ただ……」
そこまで言って、私は少し言い淀む。
単純に、第一王妃とオスカーの派閥だけに気を取られるだけでは済まないこともある。
それは。
「エルネスタ第二王妃と、ヨゼフィーネが、今後どう動いてくるか、だ……」
「はい……」
私の言葉に、三人が頷く。
前の人生では、ヨゼフィーネは実の兄であるオスカーに与し、私の処刑を、薄ら笑いを浮かべながら見物していた。
その様子からも、今回もオスカーにつくのは間違いないだろう。
だが……第二王妃に関しては、国王陛下が亡くなられてから、その姿を一切見せなくなってしまった。
あの時は、貴族達が国王陛下の崩御を受け、喪に服し、国王陛下への愛に殉じたなど、様々な憶測と美談が流れていたな……。
「……第二王妃とヨゼフィーネ殿下の侍従も、こちらへと引き入れて監視しましょう」
「うむ……ハンナ、ノーラ、できるか?」
「「お任せください」」
私の頼みに、二人は深々と頭を下げた。
「では、ディー様と私は何をするのですか?」
「ああ、それについては、次期国王に選ばれるための国政への介入、そして残る貴族の見極めだ」
「そ、それはどういう意味でしょうか……?」
リズが私の顔を覗き込むようにしながら尋ねた。
「国政介入については、国王陛下へ私自身が次期国王に相応しいことを結果で示すことを目的としている。それと……リズ、有力貴族であるにもかかわらず、中立派ですらない貴族というのはどういう者だ?」
「宰相をはじめ、今現在も国王陛下に付き従っている貴族ですが……」
「そうだ。その者達は、国王陛下が亡くなったらどうすると思う?」
「そ、それは、どこかの派閥に鞍替えをするのでは……?」
「いや、私はそうは思わない。おそらく中立というよりも無関心な存在になるとみている」
これは、前の人生で宰相“フランツ=ザイフリート”が、王位継承争いに一切絡んでこなかったことからも分かっている。
それが、何を意味するのかは今も分からない。
「そんな宰相達の動向を注視し、先手を打たねば」
「はい……」
「さて、これで話はまとまったな。私達は、次期国王として王太子になるための戦いに、明日から身を投じる。皆で、未来をつかむのだ!」
「「「はい!」」」
私の檄に、三人は力強く頷いた。
第一王妃……オスカー……それとも、また別の敵……。
たとえ誰であっても、私は絶対に負けるわけにはいかない。
――前の人生で果たせなかった、私達の幸せな未来をつかむために。
お読みいただき、ありがとうございました!
こちらで第一章終了となります!
この後二話の幕間(第二王子視点)を挟み、明日はいよいよ第二章へ突入!
お楽しみに!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




