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幸せへの誓い

「夜風が心地よいですね……」


 パーティーが終わり、私とマルグリットは初めて出逢った噴水のある庭園へとやって来た。

 先月まで咲いていたマーガレットに替わり、現在はリリーが咲き誇っている。


「マリーゴールドやマーガレットもよいが、リリーもマルグリットに良く似合う」

「ふあ!? ディ、ディートリヒ様、突然何を!?」


 私の素直な感想にマルグリットは可愛い声を出し、顔を真っ赤にしながら詰め寄ってきた。

 はは……こう言っては何だが、やはりマルグリットは褒め甲斐があるな。


「だが……私は、季節が変わるたびに、こうやって様々な花に囲まれる君を眺めていたい。それこそ、その生涯を終えるまで」

「そ、それは私もです。私も……ディートリヒ様と、こうやっていつまでも一緒にいたい……」


 そう言うと、マルグリットは珍しく私の肩に寄りかかった。


「せっかくだから、噴水の(ふち)にでも座ろうか」

「はい……」


 私は縁の上にハンカチを敷き、そこに彼女を座らせる。


「ふふ……本当に、ディートリヒ様は紳士でいらっしゃいますね」

「何を言う。このようなもの、当然の気遣いではないか」

「そうでしょうか? 少なくとも、オスカー殿下ではこういったことは望めないと思いますが?」

「はは、言うではないか」


 マルグリットは、クスクスと笑いながら愉快そうにそう告げ、私もつられて笑った。


「なあ……マルグリット」

「何でございましょう……」

「私は、君と出逢い、君を知るようになってから、こんなにも自分の心が豊かになったのを実感している」

「ディートリヒ様……それは私もです。あの日、初めてあなた様にお逢いして、母のために祈りを捧げていただいてからずっと、私はあなた様を想い続けました……」

「うむ……」


 夜空に輝く上弦の月を眺めながら、マルグリットはささやく。

 月明かりに照らされた彼女の柔らかい笑みを(たた)えた横顔は、どこか幻想的で、神秘的で、私は目を離すことができなかった。


「マルグリット……私は、夢を見たのだ」

「夢……ですか……?」


 私の言葉の意図が分からず、マルグリットは不思議そうな表情を浮かべた。


「ああ、夢だ。その夢で、私は断頭台で首を落とされた」

「……たとえ夢なのだとしても、あなた様のそんな姿を想像したくありません」

「私もだよ。そんなもの、二度と(・・・)経験したくない」


 私の話を聞いてうつむいてしまった彼女の白い手を、そっと握る。


「だが……マルグリットも今日知ったように、私には敵が多い。第二王子であるオスカー、そして母である第一王妃。ひょっとしたら、妹のヨゼフィーネもかもしれんな」

「……はい」


 マルグリットは表情こそ変えないが、私の手を強く握り返した。

 彼女なりに、怒りや悲しみ、悔しさなどを感じてくれているのだろう。


 この、私のために。


「だがな。夢の中でも、君はこうやって不器用ながらも、私の(そば)にあり続け、支え続けてくれていたのだ……そして、そんな君に私は……婚約破棄を突き付けて遠ざけた」

「っ!?」

「……私は怖かったのだ。私は、君がこんな“冷害王子”に巻き込まれ、同じく命を落としてしまうかもしれないということが」


 はは……こんなことを聞かされても、マルグリットからすれば訳が分からないであろうな……。

 私自身、未だにあれが夢なのか、それとも現実だったのか、区別すらつかないのだから。


「……それで、その夢の中の愚かな(・・・)私はどうしたのでしょうか?」

「愚か? 君は決して愚かなどでは……「いいえ、その私はどうしようもない愚か者です」」


 私はマルグリットの言葉を訂正しようとするが、彼女はそう言ってきかない。


「私は、あなた様と共にその隣で生涯を終えるべきでした。そのような目に遭ったディートリヒ様を、どうして阻止できなかったのでしょうか……また、どうして苦しむディートリヒ様を一人にしてしまったのでしょうか……」


 気づけば、マルグリットはその琥珀色の瞳から涙を(こぼ)していた。

 本当に……君は、そんな()の出来事にまで……。


「はは……夢の中の君は、私の最後の時まで(そば)にいてくれたとも。私が死ぬ、その瞬間まで、君は罵倒する民衆の中に紛れながら、必死に私のために祈りを捧げてくれていたよ……」

「……い、祈りなどではディートリヒ様を救えません……!」

「いいや、君は救ってくれた。私は、その祈りによって確かに救われたのだ」


 とめどなく涙を流しながら苦しそうな表情を浮かべるマルグリットの両肩を、私はそっとつかむ。


「そして、その夢から覚めた私は決心した。必ず、マルグリットを幸せにしてみせると。君が捧げてくれた祈りに、応えてみせると」

「ディートリヒ、様……」

「君が……マルグリットが、この愚かな私を変えてくれたのだ……」


 そうだ……そして、そんな君への想いが、とめどなく(あふ)れているのだ。


 だから。


「マルグリット」

「……はい」


 名を告げると、彼女は涙を(たた)えた琥珀色の瞳で私を見つめる。

 まるで、何かを待っているかのように。


 さあ、告げよう。

 この私の、嘘偽りのない想いを。


「マルグリット……私は、君を愛している」

「っ!」


 私の告白に、マルグリットは息を飲んだ。


「君のその優しさ、凛々しさ、美しさ、強さ……その髪の先から足のつま先に至るまで、君という存在全てが愛おしいのだ……! 君を守るためなら……君と幸せになるためなら、全てを捧げたいと思うほどに……!」


 私はマルグリットへの想いを抑えきれず、気づけば彼女を胸の中に収めていた。


 すると。


「私も……私も、ディートリヒ様が好きです! 大好きです! 祈りを捧げてくれたあの日から、ずっと……! いいえ! あの日の想いすらかすんでしまうほど、今の私はあなた様への想いで(あふ)れております! あなたの想いに触れるたびに! あなたの優しさに、触れるたびに……!」


 胸の中から私の顔を見上げ、マルグリットは想いの丈をぶつける。

 そんな彼女を見て、私はますます想いが募って……!


「だから! だから私は、ディートリヒ様を幸せにしてみせます! この私の全てを捧げて!」

「私も……私もだ! 必ずや、君を世界一幸せにしてみせる! そして……共に幸せになろう……!」

「はい……はい……!」


 私とマルグリットは、月明かりと噴水の水面の音に包まれながら、ただ、抱き合っていた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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