私の傍で共に
「ディートリヒ様……」
「っ!?」
サロンの扉が開き、マルグリットが中へと入ってきた。
「マルグリット……どうしてここに……?」
突然のことで、私は思わずたじろいでしまった。
マルグリット……の後ろには、申し訳なさそうに視線を逸らす、ハンナの姿もあった。
「ディートリヒ様、お教えくださいませ……どうして、あなた様はあのような美しい御方とサロンにいらっしゃったのですか……?」
「そ、それは……」
こ、これは困ったぞ……本当のことを言って、彼女を巻き込むわけにはいかない。
だが、だからといって下手に誤魔化したりしては、絶対にマルグリットを悲しませてしまう……。
その証拠に。
「…………………………」
……マルグリットは、その琥珀色の瞳に涙を湛え、唇を噛みながらドレスの裾を握りしめていた。
「……殿下、発言をお許しいただけますでしょうか?」
「む……ハンナ、なんだ?」
「はい。ここは、マルグリット様に全てをお話しいただくべきと考えます。もし、殿下が話しづらいということであれば、この私が代わりにお話しいたします」
そう言うと、ハンナは胸に手を当て、恭しく頭を下げる。
瞳に、絶対にマルグリットに明かすのだという、覚悟を湛えて。
ハンナの態度からも分かるとおり、私がメッツェルダー辺境伯とサロンで会っていることをマルグリットに話したのは、彼女で間違いないだろう。
だが……何故そんな真似を?
私が彼女を巻き込みたくないことは、ハンナもよく知っているはずだ。
なのに……。
私はチラリ、とマルグリットをもう一度見ると……彼女は、ただ待っている。
私の、言葉を……。
「……私は、第一王子、ディートリヒ=トゥ=エストラインだ」
「はい……存じ上げております……」
「だが、この王宮において、私は何の力も持ち合わせておらず、このまま無為に過ごしていれば、母である第一王妃の人形として次の王となり、そして……弟であるオスカーによって死ぬ運命にある」
意を決した私は、訥々と語る。
私がたどった、一度目の運命を。
「そ、そんなことはありません! ディートリヒ様がそのような目に遭うなど!」
「あるのだ、マルグリット……私は、その未来を知っている」
あの光景を思い出し、私は唇を噛む。
唇が切れ、血を流すのもいとわずに。
「で、では……その未来、どうにもならない、のですか……?」
「いや……私は、その未来を変えるために、抗っている……君と、共に歩むための未来を」
「っ!」
そう……最初は、私は君が幸せになるのならば、君が傍にいなくても、ただ遠くから眺めているだけでも構わないと思っていた。
だが、君は私に言ってくれた。
――君の幸せが、私の幸せと共にあるのだと。
「……私は、君と共に幸せになりたい。そのために、私は第一王妃に……オスカーに勝利するために、力を……私を支えてくれる仲間を集めている。その一人が、先程のメッツェルダー辺境伯なのだ」
「…………………………」
「本当は……そんな血の繋がった者同士による醜い骨肉の争いなど、君に知られたくはなかった……ただ、君が幸せに過ごしてくれれば、それで……っ!?」
すると、マルグリットは私の顔をその細く白い手で私の両頬を押さえた。
「ディートリヒ様……私は、あなた様が戦っていることを知らない、そんな無知な自分でいることこそが、悔しくて……つらくて……胸が張り裂けそうです……!」
「マルグリット……」
彼女の琥珀色の瞳はとうとう決壊し、とめどなく涙を零す。
私は、そんな彼女の白い手に、自身の手を重ねた。
「私は……今の私は、ただの小娘でしかありません。ですが! ……ですが、私は必ずや、あなた様のお役に立ってみせます! あなた様を、支えてみせます……!」
マルグリットの叫びに、私の心が震える。
ああ……どこまでも優しく、強く、綺麗で……そして、誰よりもこの私を大切に想ってくれる女性……。
私は、もう一度君の婚約者となれて、本当に幸せだ……。
「……ありがとう。なら、これからの私の……いや、私達の未来について話をしよう。そして……私の傍で、私を支えてほしい……」
「はい……はい……っ!」
泣きじゃくりながらも笑顔を見せるマルグリットを、私はこの胸に抱きしめた。
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