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人形のやり直し

「ハッ!?」


 断頭台に首を落とされた瞬間、私は目を覚ました。

 見慣れた天井……ここは、私の部屋のようだ……。


「あ、あれは夢だったのか……?」


 私は額を押さえながら、荒い息を無理やり整えようとする。

 背中は、冷たい汗でびっしょり濡れていた。


 だが……夢というには生々しすぎて、あまりにも長かった。


「……とにかく、起きよう」


 私は身体を起こし、ベッドから降りようとするが……このベッド、こんなに床から高かったか?

 思ったよりも床までの距離が遠かったことに驚きつつも、私はベッドから降りてフラフラと……っ!?


「な、何だこれは……?」


 鏡に映る、私の全身。

 それは、まさに少年だった頃の私の姿だった。


 慌てて呼び鈴を鳴らす。


「お呼びでしょうか、ディートリヒ殿下」

「……今日は何年何月何日だ」

「……は?」

「今日は何年何月何日だと聞いている!」


 不思議そうな表情を浮かべるメイドに、私は声を荒げた。


「し、失礼いたしました。本日はエストライン一四八年の五月十二日です」

「っ!?」


 メイドが告げた日付を聞き、私は思わず息を飲んだ。

 エストライン一四八年の五月十二日といえば、私がマルグリットを婚約者として引き合わされる、その日ではないか……!


 つまり……今の私は、十三歳ということ、だ……。


「は……はは……」

「で、殿下……?」


 無意識に乾いた笑みを浮かべる私を見て、メイドは不安げにおずおずと声をかけてきたが、それを無視する。

 これがどういうことなのか……私は過去に戻ったのか、それとも、これまでの全てが夢に過ぎなかったのか、それは分からない。


 だが。


「私は……もう一度(・・・・)やり直せる(・・・・・)……!」


 あの時に確かに切り離されたはずの首を撫でながら、私はそう呟いた。


 ◇


「ディートリヒ殿下、こちらが本日のお召し物になります」


 メイド達が、私の着替えを行っている。

 もちろん、その服はマルグリットに初めて……いや、二度目(・・・)に逢った時の服と全く同じだった。


 だが……本当に私は、十三歳のあの時に戻ったのだな……。


 そして、今なら理解できる。

 今日の服は、まさにマルグリットと逢うために用意されたものなのだと。

 何より、そのしつらえが明らかに違うからな。


「それで殿下、朝食はいかがなさいますか?」

「あ、うむ……今日はこの部屋で食べるから持ってくるのだ」

「っ!? か、かしこまりました……」


 私が予想外のことを言ったからか、メイドは一瞬驚いた後、恭しく一礼してから部屋を出た。

 ふむ……すぐに冷静さを取り戻したことからも、王宮に勤めているだけあって優秀なメイドだな。


 まあ、以前の私なら食堂でオスカーとヨゼフィーネと共に朝食を摂っていただろうが……生憎、あの二人と顔を合わす気にはなれない……いや、合わせたくもない。


 特に、あのオスカーには。


 それに、私も今の状況について頭を整理しておく必要がある。

 まず、今はエストライン一四八年の五月十二日であり、マルグリットを婚約者として紹介される日だ。


 そして、一か月後にはマルグリットはこの王宮に移り住み、本格的に王妃になるための授業を開始することになる。


「……まずは、彼女の意思を確認せねば、な……」


 前の人生で、私はマルグリットにつらい思いをさせた。

 そんな私が、どうして彼女に婚約者となることを強制できようか。


 ならば、彼女の意思を尊重し、婚約者となることを拒絶するのであれば、何としてでもそれを叶えてやらねばならない。


 だが……もし、再び私の婚約者になってもよいと答えてくれるなら……。


「……その時は、必ず彼女を幸せにすると誓おう」


 それが、私にできる贖罪(しょくざい)なのだから。


「ディートリヒ殿下、朝食をお持ちいたしました」


 メイド達が、朝食を部屋へと運んで準備を整える。

 ……続きは、朝食を終えてから考えるとしよう。


 そう考え、席に着こうとすると。


「兄上、今日はどうなさったのですか?」

「ディートリヒお兄様……」


 何故か、オスカーとヨゼフィーネが部屋へと来ていた。


「……どうした?」

「いえ、いつもは僕達と一緒に食事をするのに、今日に限って部屋で食事をすると聞いたものですから、心配になって来ました」

「ディートリヒお兄様……具合が悪いのですか……?」


 私は目も合わさずに尋ねると、オスカーは到底心配しているとは思えないような淡々とした口調で説明した。

 一方、ヨゼフィーネのほうはその声色からも、私を心配している様子が(うかが)える。


 ……演技(・・)でここまでできるのだから、我が妹ながら大したものだ。


「心配いらない。ただ、今日は部屋で食べたくなっただけだ。だから二人共、もう戻れ」

「あはは、なら良かったです」

「……一緒に食べられないのは、寂しいです……」


 二人に一切視線を向けることなく、私は黙々と食べる。

 ヨゼフィーネは何か言いたげな雰囲気だったが、オスカーが手を引いて部屋を出て行った。


「……フン」


 二人がいなくなった後、私は鼻を鳴らす。

 この私が、どうして敵である者と同席をせねばならんのだ。


「だが……排除(・・)する方法を考えねばな」


 私はメイド達に聞かれないほどの小さな声で呟くと、朝食を続けた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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