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余興と待ち人

「では、マルグリットを待たせておりますので、これで失礼いたします」

「分かりました。私達はまだここにいるので、娘によろしくお伝えくだされ」

「はい」


 私は四人に会釈をすると、サロンを出た。

 さあ、マルグリットはどうしているだろうか……。


 ハンナを伴い、ホールに足早に戻る。


 すると。


「……それは、どういう意味でしょうか?」

「あら? お分かりになりませんか?」


 マルグリットが、どこぞの貴族の令嬢三人に絡まれていた。

 取り巻き二人は分からぬが……マルグリットとやり取りをしている者は、確かあの(・・)ラインマイヤー家の長女か。


 ただ、このまま見ているわけにもいくまい。

 私はマルグリットの(そば)へ急ぎ向かおうとして。


「……ハンナ?」

「……殿下、ご心配なさらなくても大丈夫です。マルグリット様は、あのような連中に臆するような御方ではありません」


 ハンナは私を制止し、表情を変えずにそう告げた。

 ああ……そうだった。ハンナはフリーデンライヒ侯爵子飼いの諜報員であったな。

 ならば、マルグリットのこともよく知っているか……。


「分かった。だが、万が一の場合もある故、彼女に気づかれないようにしながら、いつでも行けるような位置まで近づくぞ」

「はい」


 頷くハンナと共に、マルグリット達のやり取りを眺めている野次馬達に紛れながら様子を見守る。


「ええ、分かりませんね。どうして私がディートリヒ様と婚約したことが、可哀想(・・・)なのでしょうか?」

「ウフフ……だって、あの“冷害王子”ですよ? 将来性を考えれば、選ぶべきはオスカー殿下でしょう? なのに、わざわざ自ら進んで、そのような底に穴の空いている、沈みゆく船に乗ることを選んだのですから」

「本当、可哀想な御方」

「ですが、そのおかげで“ペトラ”様がオスカー殿下と結ばれるための邪魔者が消えたのですから、それはそれでよろしかったのですが」


 ……あのラインマイヤー家の長女……ペトラというのか。そいつといい取り巻き二人といい、私の(・・)マルグリットを侮辱するとは……!

 だが、あの三人に負けず劣らず、私は自分が腹立たしい。


 私が不甲斐ないばかりに、マルグリットにあのような目に遭わせているかと思うと……!


「…………………………ふふ」

「……何が可笑しいのでしょうか?」

「ええ、可笑しいですわ。ディートリヒ様の本当のお姿を知らないばかりか、よりによってオスカー殿下に懸想していらっしゃるだなんて……さすがに可笑しさを通り越して(あわ)れに思えてきました」

「っ!? な、なんですって!?」


 口元を隠しながらクスクスと(わら)うマルグリットに、ペトラが激昂した。

 だが……はは、確かにオスカーを選ぶようでは、見る目がないと言わざるを得ないな。


「……殿下、口の端が持ち上がっています」

「おっと、失敬」


 ハンナに指摘され、私は思わず口元を隠した。

 さすがに、マルグリットがあのような目に遭っている一端は私にあるのだから、これ以上周囲の評価が下がらぬようにせねば。


「ふふ、どうぞオスカー殿下をダンスでもお誘いになって、愛を育んできてはいかが? 私も、オスカー殿下に変に絡まれずに済むので、お互いにとって悪い話ではないかと」

「……ええ、そうさせてもらいますわ」


 (わら)うマルグリットとは対照的に、ペトラは眉間にしわを寄せながら肩をいからせて取り巻きと共に離れていった。


「マルグリット」

「あ……ディートリヒ様!」


 私はマルグリットに近づき声をかけると、彼女はこちらへ勢いよく振り向き、パアア、と満面の笑顔を見せた。


「すまない……私のせいで、君に嫌な思いをさせてしまったな……」

「とんでもありません。そもそも、ディートリヒ様が原因ではありませんから」

「だが、私の婚約者になったことで君が馬鹿にされたのだから、それは私の不徳の致すとこ……っ!?」


 なおも謝罪しようとすると、マルグリットは私の口を人差し指で塞いでしまった。


「ディートリヒ様に落ち度など、あろうはずがございません。ただ、多くの方の見る目が節穴すぎで、少々辟易してはおりますが」


 そう言うと、マルグリットは眉根を寄せた。

 うむ……これ以上言うのは、逆にマルグリットに対して失礼というものだな……。


「分かった。それより、待たせてすまなかった。ちゃんと食事は摂っているか?」

「はい。今、ノーラが私のために取りに行ってくれているところです」

「そうか、ならよかった」


 マルグリットの言葉に満足し、私は頷く。


 その時。


「フフ……なかなか楽しい余興を見せてもらったわ」


 クスクスと笑いながら、二十代後半の女性が声をかけてきた。

 その女性は、光の加減で紫に映えるショートカットの髪型にアメジストのような瞳、薄い唇に真っ赤なルージュをひき、東方の国にあるエキゾチックなドレスを身にまとっていた。


 だが……まさか、向こうから接触してくれるとは思わなかった。


「これはこれは……楽しんでいただけたようで何よりです、“メッツェルダー”閣下」

「フフ、もちろん。ただでさえつまらない(・・・・・)パーティーなのですから、少しくらい楽しませてもらわないと」


 そう言って、羽扇で口元を隠し、目尻を下げた。


 そう……彼女こそ、私が第一王妃やオスカーと戦うために必要となる者。

 そして、私が今回のパーティーで最も会いたかった者。


 ――“ヒルデガルド=メッツェルダー”辺境伯、その人だ。

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